理想を追う
先崎 咲
1.きっかけ
どれほど努力しても、届かないものがあると知った。それはあまりにも純粋で、それはあまりにも眩しかった。
第一章
物心ついたときから、絵はそばにあった。イーゼルに立て掛けられた大きなキャンバス。所狭しと置かれた大小さまざまな絵。油絵の具と画溶液の香り。鉛筆を握るより前から木炭を握っていた。
そこから、絵を描くようになったのは自然なことだったと思う。たとえば、目の前にある光景。たとえば、この世ではないあり得ざる世界。絵の中には全てがあって、僕は、多分すぐにその中に夢中になった。
僕の意識は絵の中に住んでいた。僕は絵を描いているときだけ生きていて、呼吸をしていた。自然、一日のほとんどを絵を描いて過ごすようになった。
描いた絵を褒められた。描いた絵がコンクールで入賞した。
初めは、自分が楽しいことをして周りも喜んだことが嬉しかったのだと思う。そこから、描くことだけでなく評価されることも気になりだした。
次はもっと上手く描こう。褒められてうれしいからいっぱい描こう。そんな風に思うようになって──、いつかいつもイチバンになった。
多くの事業家が、僕の絵を求めた。国の美術館にさえ、寄贈を打診された。才能があると思った。これで生きていけると思った。その日々が続くと思っていた。
けれど、みんなそれに慣れはじめた、僕の絵を見ていつも通りすごいねと言った。僕は少し焦った。
いつも通り、ってなんだ。僕はこんなにも変わっていっているはずなのに。今まで描いてきた僕の世界が、今書いている僕の世界が、魅力的では無くなってしまったんじゃないかと焦った。
変わることが怖くなった。次の年が、次の季節が、次の月が、そして次の日が怖くなった。
いわゆる、スランプに陥ったのだ。
そんなどん底にいたとき。僕は──、目指したいと思う
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