第2話 「真珠の耳飾りの少女」


 おれは、オランダ人の画家の、ヨハンだ。名字は、フェルメール。これは通称だが、 正式には「ヤン・ファン・デル・メール・ファン・デルフト」だ。


 おれについての詳しい故事来歴は、Wikipediaとかに譲るが、17世紀の画家で、それなりに声価も評価も高い有名画家、しかし生前は不遇で、無一文同然に43で死んだ。今しゃべっているのは亡霊なんだ。


 チャネリング?降霊術?で呼び出されたんだ…喚び出したのは、熱狂的な「真珠の耳飾りの少女」のファンで、謎の多いこの絵の「真相」を聴きたいらしい。


 おれはご存じの通り寡作で、似た構図の暗いタッチが多い。


 21世紀になっても、おれ、フェルメール画伯に”不朽の声望”が轟いているのは、今売れば100億円はくだらないだろうと言われる、この可愛いねーちゃんの”婀娜っぽい表情”のおかげだろうよな?ははは。ホンマにわれながらこんなかわいらしい少女が描けたもんだな~紛れもなく傑作マスターピースだよ。


 モデルが誰か?とか、過去の絵に似た構図の名画があって、それへのオマージュか?とかの様々な憶測もあるらしいな。


 はっきり言うと、どの憶測も”中らずと雖も遠からず”、で、特定のモデルというよりもこれは”理想の夢の少女”で、いろいろな自分の妻や娘やパトロンのマリアとかへの愛着とか女性美とかへの憧憬とかの総合された姿なんだ。


 宗教画の主題に多い、女神ビーナス妖精ニンフェット、従来からあるおきまりのアイコンというよりも、おれの現実の人生で重要だった女たち、英雄的な気高い女の絵(そう、ご明察。悪逆非道の父親を殺した「」の肖像画だ。構図があまりにもそっくりだからな)…そういういろんな女を捏ね混ぜて創造されたイメージの、天使っぽい純真無垢な少女に、ちょっとしゃれた異国的な、トルキッシュな青いターバンを巻いてみた…


 どこにもないオリジナルな、だけどおれにとっては極めてリアリティがあって、時代が変わっても、いやますますにモダンな魅力や美しさが際立ってくるような、天真爛漫きわまりない不思議な美少女の絵は、こうして生まれたんだ…


 物問いたげなちょっとおちゃめな表情でこちらを見ているのは、”おねだり”をしているんだ。たまらなく魅力的なのに、お高く止まっているのではなくて、コケティッシュな、なんだろう、悪戯っぽく、誘惑しているような目つきだね。


 少女たちの持つ小悪魔デモーニッシュな魅力を、そのまなざしで表現してるつもりなんだ。


 だけど、この絵がこんなに綺麗なのは、おれがパトロンのマリアのおかげでそのころは裕福で、瑠璃ラピスラズリという宝石から作るウルトラマリンというい特殊なが画材を使っているから…これは有名だけど、ターバンの青色が何とも言えずに高尚高雅な雰囲気で、蒸留されたみたいに高貴で、精神性の上澄み?を表現している、そんな唯一無二の色合いになっているのはそれゆえかもしれない…


… …


 そこまでしゃべったところで、「フェルメールの亡霊」は、ゆらゆらとぼやけて、姿がかすんでいき、やがて虚空に消え去っていった。 



 

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