兄貴

第3話

黒猫side




…全くいい加減にしてほしい。


やっと面倒な依頼も終わり、今日こそ癒されるために“あの”場所へ行こうと思っていたのに。





変なのに絡まれるし。しかも馬鹿みたいに弱いし。ここまでの労力を返せ。




「ハァ…」



ついつい、ため息が漏れてしまう。


そのまま裏路地を通り抜け、何度も曲がり目当ての場所へとたどり着く。



カランカランと音を立てて開いたドアをくぐれば、雰囲気の良い店内が広がる。残念ながら客は1人もいないが、それには慣れてるのか黒猫はゆっくり、指定席へと向かった。





「いらっしゃい。…るな!」





鼓膜が破れそうなほど喚くのは、私のクソ兄貴。


黒瀬くろせ太陽たいよう



自他ともに認める、かなりのシスコン。しかし黙っていればモテる。というより私のことにならなければ頼りになる。


イケメンって得よね。一種の詐欺だわ。




そしてこんなクソ兄貴を持つ私の名前は



黒瀬くろせるな



明日より女子高生となる身である。


そんな私は黒猫と呼ばれる情報屋をしている。知らぬ間に通り名はついていた。


そして黒猫の際、念のために男のフリをしている。女だとわかれば舐められるからだ。



まあ理由は他にもあるけど。


そんな私をよそにクソ兄貴は話しかけてくる。




「月、お酒飲も―!」




未成年に酒飲ませるな、クソ野郎。





「…死ね」




「ひどいっ。でも、そこがいい」




うっとり目を細める奴に鳥肌が立った。


…いつか絶対に警察に突き出してやる。


すると今までの雰囲気が嘘だったかのように、奴は真面目な顔をして話しかけてきた。




「月、依頼の結果どうだった?」




「別に…」




「うまくいったんだな」





こんな奴でも私の肉親だ。この無表情を見破り、少し偉そうに語りかけてくる。

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