第4話 竜殺しはいったい誰だ?

 巨大な蜥蜴は、俺の姿を見るなり魔力を漲らせた。

 両翼を羽ばたかせて向かってくる。

 俺は嬉しかった。これほどの殺意と敵意は久しぶりだったからだ。

 巨剣相棒を片手に賭け、鱗に一撃を与えると魔力を吸い取って大きくなる。


「ハッ、どうだ美味しいか?」

「gwotwork///」


 どうやら俺と同じで興奮しているみたいだ。

 すると次の瞬間、喉の奥から赤い炎が見えた。一瞬であたり一面の温度が上昇し、皮膚がピリリと熱くなる。

 へえ、そんなこともできるのか。


「――いいぜ。死ぬまでやろう」

 

 ――――

 ――

 ―


「ヤマギシさん、おはようございます。起きてください」

「ん……おはよう」

「めずらしいですね。揺さぶってもなかなか起きませんでしたよ」

「ちょっとだけ疲れたんだよね」

「疲れた? というか、なんか少し焦げ臭くないですか?」

「え、そうかな?」


 よく見ると服の一部が焦げていた。

 マズイ。そう思った矢先、フェルンが睨んでくる。


「何を、したんですか」

「え、いやその何も……はい、すいません。昨日、デカい蜥蜴と戦いました」


 フェルンは、ムッと睨んで、それからふっと寂し気な顔をした。


「どうして一人で戦ったんですか?」

「え、いやその……フェルンは疲れてそうだったし、後、興奮しちゃって……」

「気を遣ってくれるのはありがたいんですけど……ヤマギシさんは体調不良なんですよ」

「でも、ちょっと元気になったよ! 相棒もデカくなっ――あれ、また小さくなってる」


 どうやら一時的に元に戻っただけみたいだ。頭痛は消えたが、魔力はまた完全じゃない。

 もっともっと戦わないとダメだな。ただ、楽しかったなあ。


「それで、デカい蜥蜴ってどんなのですか?」

「初めて見る魔物だったな。結構強かった」


 するとフェルンが目をまん丸とさせる。


「……ヤマギシさん今、強かった、と言いましたか?」

「え? はい」

「私は今までヤマギシさんが強かった、なんて言ったの初めて聞いたんですけど。もしかして、凄く強い魔物と戦ってませんよね? そんな危険なこと、してませんよね?」


 あ、これマズイやつだ。

 フェルン、絶対に怒っている。でも、体が疼いて! とは言い訳にならないよな。

 どうしよう。いや、でも蜥蜴だよ!? 蜥蜴くらいはいいでしょ!?


「でも蜥蜴だから!」

「うーん、まあ蜥蜴なら……良しとしますか」

「次からは気を付けるよ。ただおかげで体調も良くなったから!」


 俺は謎の体操をして元気をアピールした。フェルンは、少しだけ微笑んだ。


「でも、もう勝手に行動はしないでくださいね」

「わかった! じゃあ蜥蜴探さない? もっといっぱい戦いたいよー」

「おもちゃをねだる子供みたいですね。――わかりました。探しましょうか」

「やったー! とっかげ、とかげ!」


 ◇ ◇ ◇ 


 ヤマギシが蜥蜴こと、竜を討伐してから数日後。


 ファリス国の王室。

 長髪の赤髪――クーラ・ラーニングが書類に目を通しながら笑みを浮かべていた。

 そこに秘書が扉を開けて現れる。


「失礼します。追加書類を持ってきました。――おや、どうしたのですか? 珍しいですね」

「何がだ?」

「笑みを浮かべていましたから」


 クーラは少しハッとなるも、口角を下げ、書類にふたたび目を通した。

 そこには、竜が消えたことによる、貿易の復活や新たな融資が届いていたのだ。


「現金な連中だ。竜が消えた途端、何事もなかったかのように仲良くしたいらしい」

「元々、この国は資源豊かですからね。それに、クーラ様の政治力の高さは飛びぬけておりますから」

「私はただの象徴に過ぎないよ。それより、未来に希望が抱ける日が本当に来るとはな」


 竜が討伐されてからたったの数日でファリス国は変わった。

 他国からの商人が訪れ、物資が行き交っている。

 さらに近くの岩からは魔法石が取れるということもあって、それを求めにひっきりなしに冒険者も訪れている。

 経済効果は数十倍では収まらない。


「すべてはクーラ様のおかげです。諦めないこそが勝利を手繰り寄せる。まさに実感致しました」

「私ではない。すべては――竜殺しドラゴンハンターの手柄だ。凄まじい偉業を達成しながら一切の姿を現さないとは……ウォルシュ、追加の情報はないのか?」


 秘書は首を横に振る。


「残念ながら手がかりは一つもありません。竜を殺したということは軍を動かしたに違いありません。ですが、そのような情報は入ってきておりませんので」

「そうか。なら、答えは一つだな」

「一つ、どういうことですか?」

竜殺しドラゴンハンターは部隊、もしくは単独で行ったということだ」


 クーラの言葉に、ウォルシュが目を見開く。だが、すぐに笑みを浮かべた。


「それこそありえませんよ。もし部隊、チームで行ったものならば既に名乗り出てきているはずです。竜の討伐には長年賞金をかけていましたからね」

「ならば、単独の可能性が高いだろう。名誉や賞金など求めていない奴がいたのかもしれない」

「クーラ様の勘はいつも当たります。ですが、それこそ天地がひっくり返ってもありえません。竜の恐ろしさは私たちが身に染みてわかっているじゃないですか。他国からも恐れられる、ファリスの精鋭騎士がまったく歯が立たなかったんです。いや、それどころか他国のどの軍ですらも。それを、単独でなど」


 クーラは、窓を眺めた。そして――。


狂乱のバーサーカーフレンジーの噂が本当だったら? もしその人物が、竜を殺したならば?」

「ありえませんよ。ですが、もし事実なら世界がひっくり返ります。きっと、世界中の軍事国家がその人物を欲しがるでしょう」

「だろうな。――私はただ恩義を返したいだけなのだ。この国の未来を、いや、父の想いも今までの国民すべての夢を叶えてくれた相手にな」

「……それは私も同感です」

「それで、いいことを思いついたんだ」


 クーラは、ニヤリと笑った。ウォルシュは、屈託のない笑みを浮かべるクーラに驚く。


「ど、どういうことですか?」

「現在、我が国にはひっきりなしに人が訪れている。これを利用しない手はない。――”テンカイチ”を開催する」

「テンカ――え、今ですか!?」

「そうだ。――たった一人の最強を決める戦い。賞金は一億リーガルだ。ただ、それに伴い経済効果はすさまじいだろう」

「数百年ぶりに、ですか……――まさか」

「気づいたか。私の予想では竜殺しドラゴンハンターも現れるはずだ。それがどの国なのか、部隊なのか、はたまた人なのか、そもそも、人ですらないのか。――私は知りたいのだ。最強の姿を」


 クーラは、壁に飾っている剣を見つめた。

 代々伝わる、最強の証である。


 ファリス国には、最強こそ最高位と言う言葉がある。

 どれだけ正義を振りかざしても弱ければ意味がない。

 幼い頃から類まれな努力をし、誰よりも強いと自負してきたクーラにとって、竜殺しドラゴンハンターの存在は憧れを超えた存在になっていた。


「まったく、あなたの考えにはいつも驚かせられますよ。けれども、きっと盛り上がるでしょうね。私も楽しみです」

「すまないなウォルシュ。さて、ここから忙しくなるぞ」

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