第2話 ヤマギシ、絶賛体調不良
ファリス国を苦しめていた竜が討伐される――少し前。
――――――――
俺の名前はヤマギシ。
元々はトラバ軍の補充兵だった。
前線を監視するだけの任務、そう言われていたが、実際は違った。
なんと、多くの部隊が押し寄せてきたのだ。
俺は毎日のように戦った。でもそれを虚偽だと上層部に問い詰められてしまう。
そこから逃げ出し、牢屋に囚われているフェルンと出会った。
そして敵国であるベルディ国へ半ば亡命のように逃げ込んだ。
で、そこから色々あって、平和になって、なんというかそう――ベルディでのんびりしていた。
幸せな日々だった。
でもそんな今の俺は、絶賛体調不良中だった。
「うぅ……ううぅ……しんどい、しんどいよお」
「大丈夫ですか? ヤマギシさん」
ベルディ国、宿屋のベッドで横になっていた。
目の前にはフェルン。
心配そうに見つめながら、額のタオルを取り換えてくれている。
虚ろな目で見ても、いつも猫みたいで柔らかそうな頬っぺたをしている。
ハーフエルフなので、左右で耳の大きさが違う。
思わず手を伸ばしてぷにぷにしようとしたら、優しくダメですよと言われてしまう。
「今までありがとう……来世でも仲良くしてくれよな」
「死ぬ間際みたいなこと言わないでください」
頭が痛い。魔力も著しく低下している。
だが原因はわかっている。
「可哀想なのは前提ですが、まさかそんなことで体調不良になるとは思いませんでした」
「そうかな……みんな同じじゃないか?」
「なりませんよ。――長い間戦っていないと、体調不良になるだなんて」
そう、俺の身体に平和は合わないのだ。
過去に一度だけ、山でのんびりしていたときに同じことが起きた。
そのときは原因不明だったが、凄く傘下のいる盗賊に襲われて、七日間かけて全滅させたところ、身体がすっかり治ったのだ。
で、今まさにそれだ。
ベルディ国は、何というか平和すぎる。
トラバ軍は解体され、今や戦争を仕掛けてくるような輩がいない。
魔物はチラホラいるが、ランド騎士団長たちがすぐに討伐してしまう。
「うぅ……血肉が飛び散るような……死人がごろごろでるような場所に行きたい……」
「生涯で一度も聞いたことのない言葉を遺言にするのはやめましょうね」
「はい……」
「はい」
頭痛が痛い。腹痛で腹が痛い。
落ち着こう。思い出すんだ。あの、虐殺の日々を。
俺に襲いかかってきた悪人たちの断末魔、悲鳴、骨の折れる音、血肉。
……少し、元気になってきたかも。
「ヤマギシさん、何で笑ってるんですか?」
「ちょっと、思い出に浸ってたんだ」
「そんなときもあるんですね。意外です」
「たまにはね。――そういえば、巨剣の様子はどう?」
上半身をゆっくり起こしながら、壁に立てかけていた巨剣に視線を向けた。
俺の大事な相棒。魔族は、生まれたときに武器を持って誕生する。
ずっと、一緒だった。
けれどもその姿がどこにもない。
「あれ、どこ?」
「ここですよ。ほら、これです」
フェルンは、しゃがみこんで何かを手に取った。
見せてくれたのは、小さな剣、短剣だ。
「え?」
「……jw//」
「ヤマギシさんの体調不良と合わせて小さくなりました。一応、喋ってはいるみたいですが、聞き取れないです」
「マジかよ……でもそういえば、前の時もそうだった気がする。忘れてたな」
「そこまで意思疎通というか、魔力まで繋がっているとは思いませんでしたが」
「褒められてるぜ。巨剣」
「……hi//」
「二人とも、無理しないでください」
フェルンは、巨剣――ならぬ短剣をそっと横に寝かせてくれた。
平和って幸せだけど、しんどいなあ……。
――そうだ。
「フェルン」
「どうしましたか?」
「悪いんだけど、ちょっと
「……どういう意味です?」
エリーナから教えてもらったことがある。
ここから南へ行くと魔物が増えると。
つまり、俺にとっては最高の環境ってことだ。
「ちょっと血を浴びてくる。それまで留守番しといてもらえないかな」
フェルンは俺と違って優しいし、いい奴だ。
平穏を望んでいるだろう。ベルディにいれば怖い思いもしないし、嫌なことも起きない。
それを伝えると、なぜか手が伸びてきた。
「ヤマギシさん、私を舐めないでください」
するとフェルンは、両手で俺のほっぺをむにっとした。
「ふぇ、なにが」
「貴方は私の命の恩人です。体調不良の原因がわかっているなら、ちゃんと付き合います。だから、置いていくなんて言わないでください」
寂し気な、でもとびきり優しい笑顔でそう言ってくれた。
ほんと、俺にはもったいないくらいの相棒だ。
「実は、そう言うと思って準備してたんですよ」
フェルンは、そういって旅に必要な準備物を見せてくれた。
今までもっていなかった魔法鞄や水筒など。
「フェルンすげえ天才旅人じゃん」
「多分、割と普通の装備です。ヤマギシさんが手ぶらすぎますよ」
「そうかな?」
今まで巨剣以外を持って旅したことがない。というか、すぐ物を無くしてしまうんだけれど。
「よし、そうと決まればさっそく行こうぜ! 誰か殺せると思ったらなんか元気出てきた」
「そういう怖いことは私の前だけにしておいてくださいね」
「わかった!」
「……twto……」
巨剣、もとい短剣を懐にしまう。俺が元気になるまで、もう少し頑張ってくれよな。
「あ、でもどうしよう。ランド騎士団長からベルディ騎士になってくれ、頼む。そして弟子にしてくれって言われてたんだった」
「事情を説明しておきましょうか?」
「うーん、なんか反対されそうだしなあ。ベルディは凄く好きだけど、色んな国も見て回りたいしな。フェルンさえいれば、俺はどこでも幸せだ」
フェルンはなぜか顔をそむけた。なんだか、頬が赤いような……?
「では行きましょうか。あ、でもヤマギシさん無差別に殺すのはダメですからね。ちゃんと、誰かに迷惑をかけているような魔物だったり、かけているすんごい悪人とだけ戦ってくださいね」
「わかった!」
「返事はいつもいいですけど、不安だなあ」
「大丈夫。なんか、悪いやつはなんとなくわかる」
「まあ、信じていますよ」
「いやー楽しみだな! できればデッカい魔物と戦いたいなー。国から恐れられているような、ずっと国を苦しめてるような、そんな魔物はいないかな?」
「そんな魔物は存在してほしくないですね」
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