第1話 かつての英雄は、竜殺しの異名をも授かる。
私――クーラ・ラーニングは死んでしまうだろう。
覚悟を決め、姿見に映った自分を見つめる。
母親譲りの長い赤髪、父親譲りの鋭い目、不必要に巨大な胸。
いずれは使うこともあるかもしれないと思っていたが、結局、そんなときはこなかったな。
机の上の書類には、国民たちの嘆願書が束になっている。
苦しい、助けてほしい、金が足りない、と。
その想いに応えるべく、傍に置いていた甲冑を手に取り着こんでいく。
すると、走馬灯のように過去の想い出が蘇ってきた。
私の幼い頃の記憶、ファリス国はとても素晴らしかった。
世界でもめずらしく四季が存在し、農業も盛んだった。
近くの海では魚が豊富に獲れ、国民たちも仕事にあぶれることもなかった。
だがそれは、突然終わりを告げる。
どこからともなく竜が現れたのだ。
恐ろしいほど巨大で、凄まじく強い。
我が国の作物を焼き払い、海を汚し、大国との貿易に使っていた道を塞ぎ始めた。
いずれどこかへ行く。そう思っていたが、竜はその場所をいたく気に入ったらしく、一向に動く気配なかった。
やがて食糧難となり、討伐せざるを得ない状況に追い込まれた。
私はまだ幼かった。
父は騎士を招集し、冒険者や傭兵をも募り向かった。
何も父が行かなくても、と母は言ったが、ファリスは世界でも有数の軍事国家だった。
王が、逃げるわけにいかないと勇敢にも馬に乗っていった。
だがその結果は最悪のものとなった。
兵士の6割が焼死、冒険者と傭兵のほとんどが竜の餌食となった。
そして、帰ってきた人たちの中に父の姿はなかった。
竜はあまりにも強かった。鋼のような鱗は魔法を跳ね返し、炎の息吹は歴戦の戦士をいとも簡単に塵にした。
だが、なぜか国まで襲いかかってくることはなかった。静かに元の場所に戻っていったのだ。
私はずっと泣いていた。けれども、母は強かった。
残った兵士たちの士気を取り戻し、国民たちへ呼びかけた。
今は耐え忍ぶときだと。
戦わないことも勇気だと皆を奮い立たせ、それから何十年も国を生きながらえさせた。
しかし過労がたたり死んでしまった。
国を愛し、すべてを愛し、国を支えた我が母。
私も母の強い意志をついだ。けれども、ついに限界がきてしまった。
全員と話し合い、決めたのだ。
――竜を、この国を苦しめた竜と再び対峙することを。
「父上、母上、私は必ずやり遂げてみせます」
わかっている。
父は私よりも遥かに強く、気高く、素晴らしい戦士であった。
今いる兵士のほとんどが、当時の兵士たちの息子であり、娘だ。
気付いている。これが、最後の戦いになるだろうと。
だが、ファリス国は誇り高き兵士。
死ぬなら、希望を持って死ぬ。
「クーラ様、部隊の準備が整いました」
扉を開けて現れたのは騎士団長のウォルシュだ。
切れ長の目、短い黒髪に白髪がかかっている。
彼はこの国で恐ろしく強く。私の師匠でもある。
そして、父の部下でもあった。
「行くぞ」
カツン、カツンと足音が廊下に響く。
ここへ戻ることは、もうないのだろうな。
「クーラ様」
「なんだ」
「私たちに任せていただけませんでしょうか。この国にはまだ……あなたが必要なのです」
私を気遣ってくれている言葉に思わず笑みがこぼれそうになる。
だが首を横に振る。
「私はこの国の王だ。退くわけにはいかん。それに私を鍛えてくれたのはお前だろう」
「……あなた様は私よりも遥かに強くなりました。だからこそ残念でならないのです。もっと、時間があれば……」
「ふっ、そう言ってもらえるだけでもありがたい。国民のため、私たちは必ず勝つぞ」
けれども、ふと思い出す。
「……ウォルシュ、
「もちろんでございます。かの有名なベルディ国の猛攻を、たった一人の男が止めていた、という噂でしょう。まさか、信じておられるのですか?」
「ベルディ国は、鬼のランド騎士がいる。
「……同感です。ですが、クーラ様、あなた様の剣技は本当に凄まじいです。今あげた面々にも負けないと、私は思っております」
「お前はいささか身内びいきが過ぎるぞ」
「本音ですよ。そういえば最近、ベルディでとある噂を聞いたことがあります。姿を現さず、恐ろしい攻撃をしてくる、まるで、
「まったく、あの国は恐ろしいな。――だが、我が国にも勝るとも劣らない奴らもいる。――必ず、勝つぞ」
「ハッ」
王城へ出ると、大勢の騎士が私を出迎えてくれた。
皆研鑽を惜しんでいない最強の戦士たちだ。
多くの言葉をかける必要はない。ただ、導くのだ。
「諸君、私たちは君たちを誇りに思う。――必ず、勝つぞ」
私の言葉に呼応して、怒号のような歓声が鳴り響く。
いざ出陣というところで、一人の騎士が早馬で戻ってきた。
前線、伝令だ。
なぜかかなり慌てている。
一体何が、どうしたというのだ。
「伝令、伝令、クーラ様!」
ウォルシュが止めるも、騎士の興奮は冷めやらなかった。
「落ち着け。何が、一体どうしたというのだ」
「は、はい! ですが――」
すると騎士は、とんでもないことを言い放った。
あまりにも衝撃的すぎて、頭に入ってこない。
それは、ウォルシュもだった。
「……どういうことだ」
「――竜が、竜が討伐されました!!!!!!」
「どういうことだ。なぜ、どの国がやった!?」
「い、いえそれが……魔力の攻防が凄まじく、遠目でしか確認できなかったのですが」
「――たった一人が、巨剣を操り、竜を――殺したのです」
◇ ◇ ◇
同時刻、巨大な竜の背の上で、不敵な笑みを浮かべている男がいた。
短髪の黒髪――
「デカい蜥蜴だったなー。いや、蜥蜴にしちゃデカすぎるか? まあ、何でもいいや。――お疲れ、
「gniwwgwt///」
巨剣を片手に、赤い返り血を浴びながら、楽しかったなーと竜の死体を眺める。
全長は20メートルを優に超え、鋼のような鱗が剥がれている。
ヤマギシは、そこでふっと我に返る。
「……もしかして、フェルンにばれたら怒られるかな? 勝手なことしちゃダメですよって言われてたし……どう思う?」
「wtwho……」
巨剣は、どうだろう、と頭を悩ませるように身体を揺らす。
ヤマギシは、何だかヤバイかもと思いながら、竜の背中から飛び降りた。
「まだほかにいないかな? 探して見る?」
「gjwogwt」
「……わかった。じゃあ、フェルンのとこに戻るか。――さて、ファリス国はどんなところかな。強い奴、いっぱいいるといいなー」
――――――――
【 捨てられ傭兵は自由気ままに生きたい 】
書籍版の改題にともない、近日中、こちらのタイトルに変更いたしますので、何だろうこれ? とならないようによろしくお願いいたします。
二章、ようやくスタートです! 大変お待たせいたしました。
更新は三日に一度程度になるかもしれません。
仕事の進み具合や体調次第で変更もあるかもしれませんが、ご了承いただけると幸いです。
とはいえ、この作品でまたランキングに昇ってみたいです。
どうか、☆☆☆やフォローをいただけませんでしょうか!?
難しいかもしれませんが、もう一度、一位に返り咲きたいとも思っています。
何卒、読者様のお力をいただければなと!
久しぶりなのでコメントもらえるとモチベになります!
よろしくお願いいたします!
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