閑話 ボーリー・コルン、髪の声が聞こえるまで。

「ボーリーがまた魔物の大群をやっつけたらしいぞ」

「すげえな。先月、冒険者になったばかりだろ」

「ベルディの騎士の試験も受けたらしいぜ。ほぼ合格確定だとよ」


 オレは強い。

 幼いころから腕っぷしが強く、冒険者になる事も容易かった。

 このまま成り上がって、オレの名を世界に知らしめてやる。


「ボーリー、ねえボーリーってば」

「あ? なんだ、なんでここにいる。メイリー」


 冒険者ギルド内。後ろから声を掛けてきたのは、みかん色の髪をした女。

 猫みたいに人懐っこい顔。緩んだ頬。

 こいつはオレの幼馴染だ。

 小さな村の出身だった、オレを知る唯一の――嫌な女だ。


「何でって、私だって冒険者になったんだから当たり前でしょ」


 そう、この女は俺と同じ冒険者になりやがった。

 それも、オレよりも早い速度でランクを上げてやがる。


「そうか。じゃあな」

「ボーリー、約束忘れたの?」

「……約束?」

「冒険者、Bランクに上がったらご飯ご馳走してくれるって」


 過去の記憶を思い返す。

 そういえばこいつとベルディ国で再会したとき、そんな約束をした気がする。

 ピーチパーチクうるさかったので、適当にハイハイ言ってたらそうなってしまったのだ。


 しかし約束ってのは守らなきゃならん。それぐらいは、オレも知っている。


「ああ……」

「やった。ちょっと換金してくるから待って」

「ああ」


 ずるずると、メイリーはデカイ魔物を担いで奥へ。

 彼女の能力ギフテットは、身体能力を向上させるものだ。


 オレにはない、特別なもの。

 正直羨ましい。オレは強いし怪力の名の称号を持つが、それでも限界はある。


 だからかもな。メイリーと少し離れたいのは。


「終わったー。ね、ほら行こ?」

「ちけえな。腕を組むな」

「ちっちゃい頃はよくこうやって歩いてたじゃんー」


 ほら、だから嫌なんだ。


「ね、それよりボーリーの髪、ちょっと痛んでない?」

「……戦いってのはそういうもんだ。返り血を浴びたり、汗もかくからな。むしろお前が綺麗すぎる」

「せっかくご飯行くんだし、綺麗にしていこうよ」

「これでいい。これこそが、男の嗜み――お、おいどこ連れて行くんだよ!?」


 思い切り引っ張られ、抗うこともできずに引きずられていく。

 ったく、これが嫌なんだよ。なんで男のオレが、女なんかに……。


「ほら、やっぱり綺麗。ボーリーの黒髪、私は好きだな」

「……ったく」


 連れて行かれた先は、野外の理髪店だった。

 にしてもメイリーが代わりに切ることねえだろうが。

 髪までわしゃわしゃ洗われて、ちょっと痛かったぞ。


「そんなに嫌だったの?」

「……ま、さっぱりはしたがな」

「ふふ、ほら行こ」


 結局、今日の依頼分はメイリーの食事代で全部なくなっちまった。


 能力ギフテッドで魔力を消費する分、腹が減るんだとよ。


「おやすみボーリー、髪の毛、ちゃんと綺麗にしててね」

「気が向いたらな」


 ったく、無駄にお節介な奴だ。

 あー。


「メイリー」

「ん、どしたの?」

「依頼を受けるとき、しっかりと任務を精査しろ。いくら能力があっても、想定外のことはよく起きる」

「ふふ、はーい」


 本当にわかってるのかよ。

 まったく、こいつは。




「なあ、聞いたか。帰ってきていないらしいぞ」

「ああ、魔の洞窟だろ?」


 それから数日後の夜。

 冒険者ギルドってのは噂話の宝庫だ。

 やれ任務で誰かが死んだだの、やれ任務失敗しただの、つまらない話ばかりしてやがる。


「メイリーのやつ、これで終わりかなあ――んっ、な、なんだ。ボーリーどうした」

「どういうことだ。説明しろ。あいつに何があった?」

「わ、わかったからそんな強い力で肩を掴むなよ!? 今朝、魔の洞窟に取り残された初心者パーティーがいたんだ」

「それで」

「そ、そいつらを助けにいって帰ってこないのさ。もう五時間は経つ――お、おいボーリーどこ行くんだ?」


 ったく、あいつめ。


 ――昔から無茶しやがる。


 魔の洞窟とは、ダンジョンもどきのような場所だ。

 入り口付近は難易度が低いものの、奥へ行くほど強くなる。


 旨味はそこまでないが、魔物から採れる魔石などで金を稼ぐことができるので、浅瀬あたりは初心者パーティーがよくたむらっている。

 しかし調子に乗って奥へ進み全滅してしまうことも。そのことから魔の洞窟と呼ばれるようになった。


 国の外、森を抜けた先に洞窟がある。

 入り口にはゴブリンに死体がいくつか。


 ダンジョンもどきと呼ばれるのは、迷路のように道が分かれていることだ。


 三つの分かれ道、オレはそこで足を止めた。


「……どっちだよ、クソ」


 こんなとき、神が導いてくれたら。

 

 ……いや、オレには経験があるだろ。甘えんな。

 

 右は暗すぎる。

 真ん中からは嫌な魔力を感じる。

 左は、少し魔力が和らいでいるな。


 ――こっちだ。


 どんどん進んでいくと、そのとき、壁に反射して声が聞こえた。

 

 昔懐かしい、甲高い女の声だ。

 

 急いで駆けると、そこにはメイリーがいた。

 ご丁寧に四人パーティーを庇うように戦ってやがる。


 手足は……ついてるな。


 ったく。


「――はあぁっ! ――ボーリー、なんでここに!?」

「髪がベタついてんぞ。冒険者は奇麗にしとかなきゃいけないんじゃないのか」


 その場にいたストーンゴーレムを切り刻んだ後、メイリーは安心したのかその場にしゃがみ込んだ。

 後ろの初心者冒険者パーティーは怪我しているみたいだが、命に別状はないだろう。


「メイリー」

「な、なに……わかってるわよ。でも、私は――」

「よくやった。お前は、冒険者の誇りだ」


 オレとメイリーの村は魔物侵攻スタンピードによって崩壊した。

 運よくオレたちは山で遊んでいたので命拾いしたが、それ以来、メイリーは強さを求め続けた。


 きっと、あの日のことを思い出して身体が動いたんだろう。


「……えへへ、ありがと」


 ったく、お前がそんなに頑張ってるから、オレも頑張り続けなきゃいけねえんだろうが。



 それから数週間後、オレはベルディの騎士になった。

 驚いたのは、見慣れた女もいたことだ。


「お前、何してんだ?」

「かっこいいでしょ。今日からベルディの女騎士だよ」


 いつのまに試験を受けていたのか、彼女はオレと同じ服を着ていた。

 ……似合ってんな。


「いいか、無茶すんなよ」

「ふふ、どうでしょう。でも、私がピンチのときは助けに来てくれるでしょ?」

「……黙ってろ」


 するとメイリーは、オレの新しい帽子を、なぜか取りやがった。


「何すんだよ」

「せっかくの綺麗な髪が、くしゃっとなってるから、もったいないなって」

「ハッ、うるせえ」


 オレは腕を買われて前線に配置されることになった。メイリーは能力ギフテット持ちだったが、さすがベルディ騎士たち。

 精鋭部隊の奴らは能力ギフテッドに加えて、幼いころから英才教育をほどこされていた。

 メイリーは防衛部隊に配属され、基本的には王城近くで待機することになった。

 本人は不満そうだったが、オレにとっちゃ都合がいい。

 あいつが死にそうになったら、いちいち駆けつけなきゃいけねえ約束だからな。


「ボーリー、お主を精鋭部隊に任命する」


 半年後、オレは功績を認められてベルディのトップに上り詰めた。

 異例も異例だそうだ。ま、そりゃそうだ。


 なぜならメイリーが、もう少しで副騎士団長に勝ちかけてたからな。


「勝者、エリーナ!」


 縮地テレポーターを完全に使いこなしたエリーナに負けず劣らず、メイリーも奮闘したが負けてしまった。

 相変わらず鍛錬を惜しまない。

 しかし諦めろ。お前は性格が良すぎるんだ。

 周りと溶け込みすぎて、ランド騎士団長が前線に配置するわけがない。お前は、ベルディから離れてほしくないんだよ。



「ボーリー、狂乱のバーサーカーフレンジーの噂は知っているか」

「もちろんです。ランド騎士団長」


 トラバとの戦争が始まる。そう思っていたが、前線から半年が経過してもオレたちベルディは国境を超えることができなかった。


 それは、たった一人の存在が原因だった。


 謎の男が、虐殺蜘蛛デスクリーチャーがうようよする砂漠で陣取っている。

 そしてそれを、オレたちは突破できなかった。


「精鋭部隊を送ることはベルディにとって最後の手段に近い。わかっているな」

「ハッ、必ずやこの手にを持ってきます」


 奇襲も、魔法も、大がかりな作戦も圧倒的な力に破壊されてきた。

 オレたちが失敗すれば、ベルディ国は窮地に立たされるだろう。


 全身全霊を賭けるしかない。それこそ、オレの命に代えても。



「ボーリー」

「なんだ、どうした」


 夜、オレは眠れなかった。

 騎士団庁舎の外で空を眺めていたら、メイリーがやってきた。


「明日、行くんでしょ」

「ああ、ちょっと遠足にな。ワクワクすると眠れない性質なんだ。知ってるだろ」

「……行かないでっていったら、どうする?」

「何の冗談だ?」


 メイリーがゆっくり近づいてきた。

 いつもと違って真剣な目だ。


狂乱のバーサーカーフレンジーと、戦わないで」


 一体……何なんだ。


「そんなのできるわけないだろ。オレたちは騎士だ。国王のために働き、国民を守る義務がある」

「……あなたを失いたくないの」


 ……行くに決まってんだろ。

 お前の居場所もベルディだろうが。


「悪いがそれは無理だ」

「……そう、だよね。――ねえボーリー」

「なんだ?」

「絶対に帰ってきてね」

「ハッ、オレを誰だと思ってる」

「泣き虫のボーリー」

「黙れ」


 ったく、村を失ったときに泣いたのが最後だろうが。


 けど、気合は入ったぜ。


 精鋭部隊は、オレに負けず劣らず最強の奴らだ。

 それこそ、アルネたちにも負けないくらいの。


 勝てる。いや勝つ。メイリーのためにもな。


 だが――。


『寝る前の運動にはちょうどいいな』


 オレたちは全員、一撃でやられてしまった。

 かろうじて聞こえた声だけが、狂乱のバーサーカーフレンジーの証だった。


 凄まじい魔力に触れた代償か、精鋭部隊は全員毛根を失ってしまった。


 帰国後、オレたちは笑われることもなかった。

 命をかけたのだ。そりゃ、当たり前か。


 しかし辛かった。せめて、笑ってほしかった。


 一人、また一人と去っていく中、オレはまだベルディにいた。

 帰る場所はない。それに――。


「ふふ、ふふふ、ボーリー可愛いねえ」

「うるせえ。頭皮に触れんな」

「可愛い、まるで赤ちゃんみたい」

「だから、触れんなってメイリー」


 メイリーだけは、オレを笑いやがる。

 生きてて良かったね、それで済んでよかったね、と。


 ……ったく、お前の笑顔が見れるなら、これも悪くねえと思ったじゃねえか。


「メイリー、お前はあいつと戦うなよ」

「えー、でもかたき討ちしなきゃー」

「絶対にだ」

「……わかった。ねえボーリー、私の知ってるお店紹介しよっか? 髪、生えてくるかも」

「店だあ? 怪しいとこじゃねえだろうな」

「評判良いとこだよ。髪の毛生やしたこともあるっていってたよ」

「別に興味ねえよ」

「ねえ、そんなこといわずに。――私が行ってるとこだから」

「あ?」

「綺麗にしなよって、いってたじゃん。それからずっとそこで手入れしてもらってるんだよ」


 どうりで艶やかなのか。

 ……ふん。


「しょうがねえな。その代り、生えてこなかったら飯おごれよ」

「はーい。ねね、もし一本でも生えてきたら、奇跡じゃない?」

「……ま、そんなことありえるわけがねえよ」

「えー、じゃあさ生えてきたら私たち、結婚する?」

「あ? 何の関係があるんだよ」

「だって奇跡じゃん。ありえないことには、ありえないこと賭けたほうが面白いじゃん」

「ふん。いいか、毛根はもう死んでるんだ。生えるわけがない」

「じゃあ賭けようよ」

「……勝手にしろ」

「ふふ、二本目生えたら子供も作ろうかなー」

「……お前はしょうもないことで笑うよな」

「そうだよ? だって、本当に悲しいときがあったら、ボーリーが代わりに泣いてくれるもん。辛いときは、助けに来てくれるもん」

「……黙ってろ」

「いやでーす」


 まったく、うるせえ奴だな。




 そして色々あって、戦争が終わった。


 うるせえ奴らも増えていたが。


 ――いい加減“結婚”したらどうだ。


 ――そうだ。“約束”ってのは守るためにあるんだ。


 ――男に“二言”なし。


「メイリー」

「ん、なあに?」

「……やっぱり何でもねえ」

「なあに、なあにー?」

「また今度な」

「えー、気になる。教えてよ」


 ――まったく、意気地のない奴め。


 ――メイリーと結婚しろ。


 ――まったくだ。幸せになれるぞ。


 あーもう、うるせえな。


 言われなくてもわかってるよ。それぐらい。



「指輪、買いに行くぞ」





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 閑話、SS、大好きマンです。

 全員分の書きたいなああ。


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 『大事なお知らせ』

 新作を投稿しました!

 タイトルは【いずれ破滅する七つの大罪の怠惰に転生した俺、破滅回避のために努力していたら、なぜか残りの六人(極悪美少女)に生涯忠誠を誓われた。それよりこいつら愛が重すぎるだろ!?】です。

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