第46話
私、小鳩に好きって伝える。
だけどそう言いながらも、行動と言動は伴わないもので。
いつでも一生懸命!
…が私のキャッチコピーかと思ってたのに、それに追いつかないことは多々あるのです。
「琴ちゃん先生~!またヤケドしちゃった~、何か冷やすものっ」
左人差し指を立てながらガラッと保健室を開けた。
ノックもせずに開けちゃった、しかも喋りながら、いつものノリで琴ちゃん先生に会いに来ちゃった。
だけど開けた瞬間、目がったのは琴ちゃん先生じゃなくて…小鳩だった。
「本当不器用ですね」
小鳩も来てたんだ、保健室。
「絵は描けるもん!お菓子作りが苦手なの!」
あーーーーー、なんか久しぶりこの威圧感!!!
人を見下すようなこの表情と言い方!むしろ懐かしい!
「柳澤さんは大雑把過ぎるんですよ。お菓子作りは少しの配合で何もかもが変わってくる繊細なものなんですよ」
「…小鳩は神経質過ぎると思うけどね!」
「細かいことまでいちいち気に病むさま」
「?」
「それが神経質の意味ですが、僕は病んでませんので当てはまりません」
「わーーーー、出た小鳩辞書!あ、小鳩図鑑!?小鳩図鑑に載ってるんだ!」
あ、やば!ちょっと言い過ぎたかも!
って顔を見上げた。
そしたら顔をしかめて、なんだか不服そうで。
何、その顔。
思わず私も眉間にしわが寄っちゃうとこだった。
「…っ」
次は何を言われるのかなって待ってると、はぁってタメ息付かれた。
なんで!?何のタメ息!?
しかもサッと視線を逸らしたかと思えば、ぼそっとわざと私に聞こえるぐらいの音量で呟いた。
「琴乃先生の方が上手でしたよ」
こっ、琴乃先生の方が 上 手 で し た よ…!?
なっ、それは…っ
「柳澤さん!ほら、早く冷やさないと!」
軽く臨戦態勢に入った時、スッと氷を持った琴ちゃん先生が割って入って来た。
小鳩と言い合ってたけど、もちろん琴ちゃん先生もいて私たちがわーわー言ってる間に氷を用意してくれていた。
「…ありがとう」
どっちの意味でも冷却されて、ここは1回身を引くことになった。…納得はしてないけど。
「小鳩くんは?もう大丈夫そう?」
「あぁ、うん。もう薬飲んだから」
「そっか、お母さんまだ仕事でしょ?1人で大丈夫そう?」
「大丈夫だよ、子供じゃないんだから」
「えー、でも…急に体調悪くなったりしたら」
「大丈夫だって、気にしすぎだよ」
気にするよっ!!!
もうめっちゃ気にするしっ!!!
赤くなった人差し指に氷を当てることになるべく集中してるけど、超ッ気になってしょうがない。
琴乃先生、小鳩くん、って呼んでるわりに雰囲気すっっっごい楽しそう!
いつの間にか敬語でもなくなってるし、あんな鉄壁みたいな小鳩が超ナチュラルに会話してるし、雰囲気良過ぎない!?
それに、なんか、なんかちょっとだけ…
笑ってるようにも見えるしーーーーー!!!
「柳澤さんっ、柳澤さんはどう?」
「あ、え、私は…冷やせば大丈夫、かな」
「そう?私今から職員会議だから、もう行かなきゃいけないんだけどいいかな?もしまだ何かあれば」
「大丈夫!ちょっと赤くなってるだけだから!」
ちょっと湯煎に失敗してアッツアツのお湯に手つけちゃっただけだから、強がってるみたいになっちゃったけど実際は本当にそんな大袈裟なことはなくて。
「そう…?じゃあまた何かあったら言ってね」
ちょっとだけ変な空気にはなっちゃったかもしれない。
バタバタと琴ちゃん先生が保健室から出ていく、職員会議まで結構ギリだったのかな。
「……。」
「………。」
2人になってしまった。
なんとなく小鳩の方を見たら目が合っちゃって。
「…何ですか?」
「別にっ、…楽しそうだなっと思って!」
「…?」
なぜか不思議そうな表情をして、じぃっと私を見るから。
「え、何?」
「楽しいですけど」
「……。」
はぁーーーーーーーっ!?
楽しいんだ!?
琴ちゃん先生とキャッキャして楽しいんだ!?
それはよかったですねっ!!!
「私もう行く!」
「どこ行くんですか?」
「部活!」
来た時と同様、勢いよくドアを開けた。バーンって廊下に音が響いたくらいに。
「あ、じゃあ僕もっ」
「小鳩は部外者なんでおかえりください!!!」
キッと目に力を入れて振り返った後、自分だけ廊下に出てドアを閉めた。
後ろから“帰るだけですけど”って聞こえたけど知らないもんね!知らないもんね!!
早足で家庭科室まで向かう。
ボルテージ上がり過ぎてどんどん進んじゃうから。
廊下がやたら寒いとか全然気にならないし!
気にならないし…、そんなの。
「……。」
足が止まっちゃった。
止まった足を見るように下を向いた。
ヤケドした薬指がジンジンする。
私なんでこんな一生懸命作ってるんだろう。
怪我までしてチョコレート作って…
まだ好きなのかな。
まだずっと好きなことやめられないかな。
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