第33話
「メリー一緒に帰ろ~!」
今日の部活は喋りながらチョコレートを溶かす作業だった。
牛乳を加えて、前に習ったようにチョコレートフォンデュ…
具材が特になかったから売店で買ったロールパンで。普通においしかった。
「…森中部長と帰らないの?」
「
いつの間にか森中部長のことを小夜先輩って呼ぶようになって、あんなにドギマギしてたそらぴょんは気付いたらいなくなってた。
「白沼先生と今後の部活の打ち合わせだってさ」
「へぇ、そっか」
前に小鳩が言ってたあれかな、そーゆうことは全部してくれてるって。
部活に昇格して部費が増えて活動範囲が広がった分、森中部長の経営?業務は増えたらしい。
でも森中部長的にはそっちの仕事の方が好きみたいなんだけど。
「だからメリーかーえろっ♡」
「いいよ」
そらぴょんとはよく話すけど、森中部長と付き合い始めてからこうやって一緒に帰ることは減っていてこれも久しぶりだった。
マフラーをめいっぱいぐるぐる巻きにして寒い廊下を歩いて下駄箱に向かう、こんな寒いのそらぴょんはるんるんして楽しそう。恋するオーラ眩しすぎ。
「あ、そーいやーさー!メリーは好きな人とどうなったの?」
「えっ」
「文化祭一緒に回ったんでしょ?告白した?」
「あー…あれは」
なんかすごく前な気がする。
もうすっかり私の中のオージ先輩が消えてしまったみたいに…、もう遥か昔って感じで。
それを人に言うにはすっっっごく後ろめたい気持ちになるけど。
「…好きな人は、好きな人じゃなくなった…の」
そらぴょんはどんな顔するかなって隣は見られなかった。
ただ前を向いて、カタコトに口を動かした。
「え、何?フラれちゃった?」
「ううんっ、まだ告白もしてなくて!いや、てゆーかもう告白しなくてもいいっていうか…他に好きな人ができたっていうか…」
やばい、どんどん声が小さくなっていっちゃう。
今までずっと協力し合って相談し合ってきたそらぴょんだから、聞いてほしい気持ちもあるんだけど切り替えの早さと今更小鳩が好きっていうのも恥ずかしくて…!
そらぴょんの顔が見れない、少し俯いてわざと落ちてきた髪の毛で顔を隠した。
「ふーん、じゃあ今は別に好きな人がいるってこと?」
「…そう」
自信のない声が小さく響く。
あんなにハシャいでいた私を知ってるそらぴょん、軽蔑されたかな?するよね?
「いっぱい協力してくれたのにごめんね」
「え、なんでメリーが謝るの?」
「だって、今までの何だったんだとか…」
「うーん…俺は別に、俺はメリーが誰を好きでもいいからさ」
そらぴょんがぴょんっと軽やかに前にジャンプした。両手をパァッと上げて、後ろにいた私の方を振り返った。
「俺はメリーが好きな人と上手くいけばいいなって思ってるだけだから!そんなの気にしないよ!」
「そらぴょん…」
「てか俺もメリーにいっぱい助けてもらったし、今毎日はちょ~幸せだからこの幸せ分けてあげたい!!」
上げていた両手をそのまま下に下ろし、こめかみにピタッと付けてピースした。そらぴょんお決まりのダブルピース。
「ねっ」
にこっと笑って。
その表情から十分感じる。
不安だった気持ちが一気に溶けていく、あの時そらぴょんと仲良くなれてよかった。
「ありがと、そらぴょん…!」
そらぴょんは周りを明るくするから、一緒にいると私も明るくなれる気がするよ。
「で、その好きな人とは今どーなの?」
「………それは、低迷中」
「あ、前途多難?」
ぽんっと私の肩を叩いて、空色の髪を揺らした。
「メリーもがんばって!」
がんばって、そう言われてうんって頷いた。
でも何したらいいんだろう、今の私にできることって何なのかな…
ガチャっとドアを開けてマフラーを外してコートを脱いで、そのままダイブするようにベッドに飛び込んだ。
あぁ…自分の部屋って落ち着く。
家に帰ってくるとついやりたくなってしまう。
うつ伏せのまま目を閉じて、夢の世界へ行ってしまおうかと思っちゃうね。
「……。」
でもやっぱり落ち着かなくて目を開けた。
“俺はメリーが好きな人と上手くいけばいいなって思ってるだけだから!”
そらぴょん、マジでいい子だな。
そんな風に思ってくれてたなんてね。
ただ強引だけじゃないかったね。
そらぴょん…
ありがとう、ちょっと泣きそう。
体を起こした、ベッドの上に座ってヘッドボードの上に置いてある引き出しを開けた。
そらぴょんもがんばってたもん。
私も、何かしたいよ。
私だって…
そっと開けた引き出しの中、ずっと開けられなかったあのチョコレートを取り出した。
“これ、もらってもらえませんか?”
ラッピングもあの時のまま、キレイに残ってる。
さすがにもう食べれれないよね?腐ってるかな?
「……。」
小鳩は、本当は誰にあげるつもりだったんだろう?
私が開けちゃっていいのかな…?
ふぅっと息を吐いて、静かにリボンをほどいた。
小鳩の気持ちが詰まったチョコレートを開けるのはどうしても重くて、少しだけ手が震えた。
こんなに丁寧に包まれたチョコレートを渡せなかったなんて…
「わ、可愛い!」
パカッと箱を開けるとツヤツヤと煌めくチョコレートたちがキレイに並べられていた。
少し傷んでしまっていたけど、それでもどれだけ心がこもっていたかはちゃんと伝わってきた。
それがちょっとだけ苦しくもなるけど。
「あ、なんかカードが入ってる」
おめでとう?
誰かのお祝いごと?
だったのかな…
きゅっと心臓が縮んだ気がした。
だけど…
「すごいなー、小鳩は」
煌びやかなチョコレートにはついつい見とれちゃって、ちょっとだけ頬が緩んでしまった。
「…いいなぁ」
もらえるはずだった人が。
どうして渡さなかったのかな、渡せなかったのかな。
こんなに一生懸命に作ったのに。
「この形何って言うんだっけ?」
何気なくふと思ったから。
「この葉っぱ、クリスマスの飾りでよく見るやつだよね」
ただそう思ったから、口にしただけだった。
でも自分の発した言葉にハッとしてピタっと体が止まる。
………え?
クリスマス…?
“あ、そーいえば琴ちゃん先生っていつ結婚するの?前にもうすぐって言ってたよね!”
“そうねー、もうすぐだよ”
“えー、いついつ~?”
“12月25日だよ”
小鳩がこのチョコレートを作ったのは文化祭の前日、まだ11月25日。
クリスマスなんてまだ先で、それなのにどうしてクリスマスモチーフのチョコレートにしたんだろう。
少しづつ繋がっていく気がする。
そんなの答えは1つしかないから。
“クリスマスが誕生日なの”
あの日の小鳩の言葉が蘇る。
あの言葉に込められた意味を。
このチョコレートに込められた想いを。
全部が繋がっていくようで…
”これでチョコレートは一切作りません”
小鳩は琴ちゃん先生に渡すつもりだったの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます