Magic2.小鳩の好きな人
第32話
気付けば、12月文化祭から1ヶ月以上が過ぎた。
毎日が寒くて、喉はおかしいし、頭はぼぉーっとするしなんだかしっくり来ない。風邪でも引いたかな。
「熱はないけどね」
「琴ちゃん先生~!でもだるいんだよ~~~~!」
4限目が始まる前、しんどい気持ちとサボりたい気持ち半々で保健室へやってきた。
あと5分でチャイムが鳴る、気分的にはサボる気満々。
「ちゃんと睡眠は取れてる?」
「それはー…まぁまぁ」
「まずは規則正しい生活からだよ」
何も言い返せないまま保健室利用届に名前を書いた。
いつもお昼を食べていた机にだらぁっと身を任せるように、ペタッと頬を付けてえんぴつを持つ手にも力が入らない。
「今日はとびきり寒いんだから、ちゃんと温かくして寝ることね」
「…はぁい」
今年一番の寒さだった。
だからわかりやすく体調を崩したことに、もしかして同じように保健室に来るんじゃないかなって少しだけ…
思ってた。
「ねぇ、琴ちゃん先生。最近小鳩ってここ来てる?」
「小鳩くん?最近来てないね」
「そーなんだ」
ここへも来てないんだ。頭痛持ちだって言ってたのに。
「心配なんだけどね、小鳩くんもちゃんと睡眠取れてるかなぁ」
チャイムが鳴ったけど、琴ちゃん先生は何も言わなくて私も動く気さえなかった。これで次の授業はサボりに決定だ。
「あ、そーいえば琴ちゃん先生っていつ結婚するの?前にもうすぐって言ってたよね!」
そしたら少しだけ元気になっちゃって、私は本当にわかりやすい。
「そうねー、もうすぐだよ」
「えー、いついつ~?」
ポカポカと暖房がよく効いた保健室は居心地がよくて、琴ちゃん先生は優しくてさらに居心地がいいし、私のお喋りにも付き合ってくれるしね。
「12月25日だよ」
「わ、クリスマスだ!ロマンチック!」
「クリスマスが誕生日なの」
「え~、めっちゃすてき!超羨ましい!」
こんな可愛い琴ちゃん先生をお嫁さんにできる旦那さんはしあわせだなぁ、きっと旦那さんもすてきな人なんだろうな。羨ましい。
「柳澤さん、1時間だけよ?ここで寝てっていいから4限目が終わったら教室戻りなよ」
「はぁい!」
「もう、十分元気じゃない」
1時間寝たせいかすっかり体調はよくなって、ただ単に寝不足だったのかもしれない。
最近寝てないわけじゃないけど…
ふと考えることは多くって。
今日は部活の日、今日は何するのかな…
小鳩が辞めたチョコ研はめきめきと活動することもなくて、たまーに集まって話したり作ってみたり…
でも誰もできないから中途半端に終わっちゃって全然研究すらできてない。
いつも小鳩何してたかな?
私もカカオからチョコレート作ってみようかな…
「あ」
家庭科室へ行く通り道、下駄箱で帰ろうとしていた小鳩に会った。
パチッと目が合って小鳩も私に気が付いた。
「今帰り?」
「どう見てもそうじゃないですか」
「そうだけどさっ」
その言い方はほんと変わらない、地味に久しぶりに喋ったのに。
どこでも変わらない小鳩はテキパキと上靴からスニーカーへ履き替えていた。
「ねぇ、今日暇?」
「何ですか?」
「部活来ない?」
「僕もう退部したんですけど」
「でも退部した人が来ちゃいけないってルールもないし」
はぁ~~~っと長めのタメ息を吐かれた。
うわー懐かしー
その顔懐かしー
「帰ります」
「あっ、待ってよ!」
そそくさと帰ろうとする小鳩を思わず追いかけちゃった。
「まだ何か用ですか?」
用は…
いっぱいあったけど、1番聞きたいことは教えてくれないし。
私に開いてくれる心の扉はたぶんない。
「ううん、なんでもない。私部活行くから、じゃあね!」
「さようなら」
だから小鳩とここで別れるしかなくて。
帰る小鳩と部活に向かう私。
前ならこのまま一緒に家庭科室に行ったんだけどな。
隣に並んで、それが当たり前みたいに。
顔を見たのも、声を聞いたのも、あの日以来だった。
元気…
だったかな。
全然いつもと変わらなかったな。
小鳩と好きな人はどうなったんだろう。
今日も眠れない気がする。
私なんでチョコ研入ったんだっけ?
やましい気持ちで部活始めるからすぐ迷っちゃう。
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