第19話

「メリーーーーーー!一緒に帰ろーーーーーー!!」


今日初めてそらぴょんの雄叫びを聞いた。いや、もう部活終わったんだけど。


みんなでチョコレート食べてる時ひっとことも喋ってなかったじゃん。


どの瞬間スイッチが入ったの??? 


「…そらぴょん、めっちゃ元気じゃん」


「え?元気だよ?俺元気ないって言ったっけ??」


「それは…言ってないけど」


言われてはないけど、でも…

1人になった帰り道、そらぴょんが追いかけて来た。

軽い足取りで、それはいつもと変わらないそらぴょんだった。やっぱり何かあったんじゃないのかなって気になった。


「柳澤ちゃん!笹原くん!」


森中部長の声に振り返ると、自転車に乗って手を振りながら私たちの方へやって来た。森中部長は自転車通学なんだね。


「ごめん、呼び止めちゃって!2人に連絡先聞いておこうと思って、教えてくれる?」


「はい、大丈夫ですよ」


スカートのポケットからスマホを取り出した。そらぴょんも同じようにスマホを出していた、けど。


「お願いします」


って、小さく一言発しただけだった。


何そのらしくないテンション…



さっきまでのそらぴょんどこ行ったの?


今日のそらぴょんはやっぱりおかしい。



「ありがとうね、じゃあ文化祭がんばろうね!」


森中部長が自転車で颯爽と走って行く。ばいばいと手を振って後ろ姿を見送った。


「そらぴょん…」


「ん?」


「何!?何なの!?」


ギンッと強めに視線を向けた。


明らかに大人しくなった姿は違和感だし、何もないじゃ納得できない。絶対何か…っ


「そらぴょ…っ」


真っ赤にした顔を両手で隠しながら俯いてる、耳まで赤くなって…



え、何それ?



「緊張してうまく話せないんだよ…っ」


緊張してうまく話せない…?誰と?


なんて聞くのは野暮だ。


え、それって…


だって、その…


「そらぴょん、森中部長のことが好きなの!?」


えぇーーーーーー!!!


好きな人がいるのかなぐらいには思ってたけど、それが森中部長だとは思わなかった!


好きな人の部活に入部するとかめっちゃ行動力あるのに、本人目の前にしたら話せないって何それ何それ!!!


「そらぴょん可愛いーーーーー!!!」


「メリー、うるさいよっ」


ドキドキな展開に私のテンションが上がっちゃった。


元気が取り柄のそらぴょんがこんなに喋れなくなっちゃうなんて…、可愛い過ぎる!!


そらぴょんの手を取って両手でぎゅっと握った。


「私応援するよ…!」


「え、あ…ありがと」


やばい、ほろっと来ちゃう。


愛しみ感じる~~~!


「俺も、メリーのこと応援してるよ」


にこっと笑うそらぴょんと目を合わせた。


そっか、前にそんな話したもんね。


もうわかっちゃってるよね、好きな人が誰とは言ってないけど私に好きな人がいることぐらいわかってるよね。


“メリーと同じ理由だよ♡”


「ゆいぴーが好きでチョコ研入ったんだろ?」


「………え?」


今のはたぶん濁点も付いてたかな。“え”に濁点付いてた。そんな発音だった。


「違うけどっ!!!」


「え、そーなの?てっきりゆいぴーのことが好きなんだと思ってた」


ケロッとした表情で私を見る目は本当にそうだと思ってたんだと思う。


どこでそう思われたかわかんないけど違うし!全然違うし!!


「私は小鳩が作ったチョコレートが欲しくて!」


ぶんっとそらぴょんから手を離した。


そりゃ打算すぎるけど、私がチョコ研入ったのはオージ先輩を想ってだもん。


「あ、魔法のチョコレートだっけ?そんな噂あるね~」


それなのに思ってたのと違う、うっすい反応だった。


「…そらぴょんもそれが欲しくてチョコ研入ったんじゃないの?」


「えー、そんなわけなくな~い?ジンクスは知ってるけど、だって回りくどいし!」


「恋する乙女は繊細なの…!」


そら強気に部活に乗り込んでる来るそらぴょんにはわからないかもしれないけど、好きな人に近付くのは勇気がいるんだもん。


私がどれだけ魔法のチョコレートに賭けて来たか…っ


「俺は素直にぶつかった方がいいって思ってるから!」


「本人目の前にして喋れないそらぴょんに言われたくない!」


「ねぇーーーーーっ、それ本当にどうしたらいい!?何話せばいいの!?今日だって一緒にジュース買いに行こうって言われて超テンパったよ!結局いい天気ですねなんて、困った時の会話第1位の会話しちゃったよ!」

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