Magic5.恋する乙女の恋心

第15話

やっと念願の


夢にまで見た


ずっと願い続けた…




魔法のチョコレートが手に入りました! 


拍手喝采!!!




「ありがとう、小鳩!!!」


部活が始まる少し前、小鳩に呼ばれて家庭科室へ行くとすでに用意してくれていた。可愛くラッピングまでしてくれて、どこまでも器用で職人気質なんだ。


「何度も言いますけど、ただのチョコレートで何の効能もないですからね」


「大丈夫、いっぱいパワーもらってるから!」


「何のですか」


「がんばる勇気!」


ガッツポーズして見せる。

小鳩は相変わらず眉間にしわ寄せるだけだったけど。


でもそれだけで私にとって十分意味があるからよ。


私に足りなかったものを補おうとしてくれる、それだけで何よりも力発揮してるよ。



だから大丈夫。



すぅっと深呼吸して、呼吸を整える。


「じゃあ行ってくるね!」


このままの勢いで行きたいから、今ならきっと告える。


緊張はするけど、前を向ける気がするの。


一歩踏み出すって決めてたんだもん。



このチョコレートと一緒に。


私が欲しかったもの、もらえたから。



チョコレートを大事に握りしめて家庭科室のドアを開けた。


「あの…っ」


「ん?まだ何かあった?」


足を止めて振り返り小鳩の方を見ると、小さくガッツポーズをしていた。


「…がんばってください」


ぎこちない小鳩の応援が心に響いてくる、慣れない小鳩のガッツポーズはすごく控え目だったけど…

でもそんなガッツポーズだから絶対大丈夫だって思えた。


どんな結果でも、まずはちゃんと…



気持ちだけは伝えたい。そう思って。



「ありがとう!」


家庭科室を飛び出した。


高まる気持ちが溢れそうで、廊下を走りたくなって。


これでやっと向き合える。


ずっと逃げてた自分と向き合えるの。



告いえなかった想いを伝えるために、オージ先輩のもとへ。



きっとまだ部活は始まってないよね?

だからその前に呼び止めて、気持ちを伝えるんだ。


一応今日のためにダンス部の部活スケジュールを調べて来た。今日は体育館の半面を使ってるって聞いたから…


このまま下駄箱の前を通っていけばいいか!

いきなり呼び出すのはちょっと緊張はするけど今日の私ならきっと…!


なんて告いおうかは散々考えたし、あとは言葉にするだけだよ。


ドキドキする胸を押さえながら廊下を走る、あと少しで…!



「ん?」



下駄箱の前を通り抜けようとすると見覚えのある姿があった。


俯いて顔は見えなかったけど、それは知ってる姿。


いつもよく見てるから。


「咲希?」


思わず足を止めた、気になって。

名前を呼んだ私を見る咲希の瞳からぽろぽろと涙が溢れていたから。


「咲希…っ、どうしたの!?何かあったの!?」


駆け寄って肩を掴んだ。両手で顔を覆いながら涙を流す咲希はふるふると震えて弱々しくて。


「…何があったの?」


「詩乃…」


か細くて、今にも消えそうな声だった。次から次へと溢れる涙が咲希の頬を伝って落ちていく。


「…もうダメかもしれないの、光介と」


「え、なんで!?だってこないだ試合の話聞いたり、一緒に帰ってたり、いい感じだったじゃん!?」


あの日だって部活が終わるの待ってた、でもそれだって…!


「嘘だったの!」


「え…?」


咲希が声を振り絞るように叫んだ。

必死に涙を拭って、それでも止まらない涙をこらえきれず流し続けていた。


「本当はね…、詩乃が一緒に待っててくれたあの日…距離を置きたいって言われてたの。でも、納得出来なくて…部活が終わるの待ち伏せをしてもっと話そうと思ってた」


あの日…

私だってそう思ってた、おかしいなって思ってた。


「でも…怖くてっ、言えなかった…。結局待つだけ待って1人で帰ったんだ…」


じゃあ、あれは…


ただ咲希が待っていただけ?

光介くんともう一度やり直したくて咲希は待ってたの? 


「そしたら…どんどん距離が出来ちゃって、もう話すことも出来なくて。わかってたんだけどね、…最近ずっと近部活忙しそうで大変だってことぐらい。わかってたんだけど…っ、なのに感情的になっちゃって…そりゃ嫌われるよね」


私も気付いてたのに。

でも聞けなかった、聞いていいかわからなかった。


いつも咲希はしあわせそうで、私の憧れだったから。


「ごめんね」


「え…、どうして咲希が謝るの?」


「詩乃にも言えなかったの、言ったら本当のことになっちゃうみたいで」


無理に笑って見せる咲希に、何て言えばいいのか。


やっぱり私には何も言えない。


話だけは聞けるって思てったのに、それもさせてあげられなかかったんだね。

今日だって1人で帰るつもりだったんだ、全部抱えて1人で。


ごめんねって、私が言わなきゃいけなかったね。


「咲希…」


「ごめん!こんな話!詩乃はこれからオージ先輩のとこと行くんでしょっ、告白するって言ってたもんね…っ」


きゅっと私の手を握って笑った。


「詩乃は大丈夫だよ」


私は何もできなかったのに。


目を見てにこっと微笑むから。



今、きっと笑いたくない…よね。


笑えないよね、私のこと応援してくれようと無理に笑ってくれてるんだよね。



私のことなんか考えないでいいのに、自分のこと考えればいいのに…



私は咲希に何かしてあげられたかな。


してあげられるとしたら、なんだろう。



何ができるんだろう。



「咲希、このチョコレートあげる!」


小鳩にもらったチョコレートを差し出した。


「え、だってそれは…っ」


「まだ言いたいこと言えてないんでしょ?」


何もできないけど何もできないなりに、咲希の背中を押したくて。


「これ小鳩が作ってくれたチョコレートなの!」


「知ってるよっ、でもそれは詩乃がオージ先輩に告白するためにもらったものでしょ!?すっごい苦労してっ!」


本当はね、オージ先輩に気持を伝えたくて手に入れたチョコレートだった。

やっと伝えるんだってここまで走って来た、決意したチョコレートだった。


でもね…


「告白が上手くいくってジンクスがあるんだけど、きっと咲希の恋も応援してくれると思うよ!」


私だって応援したいんだよ。私だって力になりたいの。


「だってこれは魔法のチョコレートだから!」


“詩乃のそーゆう一生懸命なとこ、私は好きだよ”


あんなバカげたこと、真剣に聞いてくれるの咲希だけだから。



咲希と光介くんに何かあったら全力で応援するって、あの時言ったでしょ?



「もう一度、がんばってみなよ!」


咲希の手を取ってラッピングされたチョコレートを手渡した。ぐっと咲希の手を握るように、しっかりと重ねて。


「大丈夫、まだ間に合うよ」


「でもっ」 



気持ちを伝えるのはすごく怖い。


その気持ちはよくわかるよ。



それは、私にもわかる。


それが誰かに恋をするってことだもんね。



「ちゃんと自分の言いたいこと言ってきなよ」


小鳩はこのチョコレートに何の効果もないって言っていたけど、恋する私たちにはどんなものでも信じたくなっちゃうんだ。


少しでも恋が実りますようにって、願いたくなっちゃうの。


「詩乃…っ、本当にいいの?」


「うん!小鳩の作ったチョコレートは効果絶大だからね!たぶん!」


「なにそれっ」


ふって声が漏れた。咲希が笑ったから。


「…がんばって」


だから大丈夫、魔法のチョコレートが勇気をくれるから。


「…ありがとう、詩乃」


トンっと咲希の背中を押した。

駆けてゆく後ろ姿に小さくガッツポーズをして。



心の中で、もう一度がんばってと唱えた。

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