第4話
魔法のチョコレート…!
食べたことない味がする!!!
「何コレっ!!??」
思わず吐き出したくなるような味がした。
それはある意味、衝撃的。
こんなチョコレートは初めてだった。
「やっぱりそうなりますよね」
「えっ!?何が!!!」
目を丸くする私の隣で顔色一つ変えないでチョコレートを一口かじる。あのチョコレートを食べても表情が変わらないなんてすごい、ずっと口の中が気持ち悪い私は変顔してるみたいになってるのに。
「部活で作ろうと思うと限界がありますね」
「…これ、何なの?」
「チョコレートですよ、れっきとした」
「全然おいしくないんだけど!もしかして失敗作!?」
とにかくザラザラして、めちゃくちゃ苦い。食べた瞬間からダイレクトな刺激が襲ってきて、風味もなければ苦味以外の味もない何もない。
これのどこが魔法のチョコレートなの…!?
「カカオから作ろうと思うと難しいんですよね」
え…?カカオから?作ってる!?
「手作りってそこまでできるの!?すごいっ!」
さすがの私でもチョコレートがカカオを原材料としてるのは知っていた。
でもカカオからチョコレートを作る高校生には会ったことがなかった。いや、高校生じゃなくてもあまりない気はするんだけど。
「どうやって作るの!?カカオって、あのアーモンドみたいなやつだよね!?てゆーかカカオって売ってるの!?」
さっきよりも聞きたい度が高まっちゃって、前のめりに小鳩に近付いちゃった。
あ、やばい!また睨まれる!
「普通にネットで買えますよ、100グラム1,000円ぐらいで」
と思ったけど、睨まれるどころかさっきより自然な会話が返って来た。
「もちろん物によって変わりますが、一般的に買えるものもたくさんあるので作ろうと思えば可能です」
「え…でも絶対大変だよね?全然想像付かないんだけど、どうやるの?だってあの豆をどーしたら…」
「まずはローストして殻と
まずはローストしての時点で何の行程か迷子になってしまったけど、ひたすら潰すなんて気が遠くなる。考えただけでも気が遠くなった。
「人の手では限界がありますね、どれだけ潰しても人の手以前に機械がない限り無理でしょう。あとはローストの時間と砂糖の分量…、予備がなくて砂糖が少なめになってしまったのが味に響きました。ビターを目指しましたが、カカオ感が強くてこれは食べるのも一苦労…」
右手を顎に当ててペラペラと話すことが止まらないらしい。
…チョコレートトーク、わりと間違ってなかったかもしれない。
こんなイキイキ話すこともあるんだ、小鳩って。
「奥が深いです」
ニッと笑った。気がした。嬉しそうに。
「小鳩ってチョコレートに興奮するタイプ?」
だからつい言っちゃった、小鳩のそんな横顔を見てたから。今の一言で一気に表情が戻っちゃった、最初の時みたいに。
「もう出てってもらえますか?食べましたよね?」
キッと睨むように、威圧感が押し寄せてくる。背が高いせいで迫力も2倍だ。
「あぁっ、待って!待って、違うの!」
両手をパーにして小鳩の前にこれ以上は言わないでと訴える。これ以上聞いてしまったら間違いなく追い出される、でもその前に聞いてほしいことがあって。
「お、お願いがあって…っ」
私の目的は魔法のチョコレートを手に入れること。
そして、それをオージ先輩に渡して告白すること。
まだ叶えられてない。
あれが魔法のチョコレートかは怪しいけど。
けど…っ
「あなたの願いを聞く義務はありません」
「…っ」
それでも私はそれに賭けようって決めたから。
だから、どんな手を使ってでも手に入れてやるんだ。
「私、チョコレート研究会入部希望者です!」
小鳩結都の魔法のチョコレートを!
「結構ですっ」
ペッとつまみ出され、家庭科室から廊下に投げられた。
えっ、ちょっと!なんで!?
すぐに立ち上がって閉められたドアにへばりついた。
「ねぇ、入部希望者だよ!?希望者追い出すって何!?」
あんな細い指のくせに力はあるのか全然開かない。引き戸になったドアを力強く引っ張ってみてもびくともしない。
「ちょっと!聞いてる!?私が入れば研究会から部活になるんだよ!そしたら部費も上がるし、…あ!砂糖も買えるよ!?」
部活に昇格すればメリットしかない、ちょっと卑怯かもしれないけど咄嗟に思い付いた策だった。
しかもさっきまでいい感じだったし、すんなり歓迎してくれるかな~って期待したのにその考えが甘かった。カカオから作ったチョコレートより全然甘かった。
「だから、私っ」
ガラッ、と少しだけドアが開いた。そこから目を細めた小鳩が上から私を見てる。
「…っ」
すっごい視線だ…
高圧的な眼差しにビクッと震える。
何を言われるんだろう…、言われる前に何か言った方がいいのかな?
「にゅっ」
「チョコレートに興味ない人は不要です!」
ピシャァッ!と完全シャットアウトで今度は鍵まで閉められた。これはもう私の話を聞く気が全くない。
“入部希望です!”ってもう一度言おうと思ったのに、最初の一言だけしか言えなかった。
「…~っ!」
悔しい、なんだかすっごく悔しい。
何が悔しいのかって聞かれたらわからないけど、もうめっちゃめーーーっちゃ悔しい!!!
てゆーかチョコレート興味あるし!好きだし!
そりゃカカオから作るなんてことしようって思ったことないけど、食べるの大好きだし!!!
「…自分はチョコレートにしか興味ないじゃんっ」
あんなにイキイキ語っちゃってさ、普段超無愛想なのに、そんな顔もするんだとか思っちゃったんだから。
「……。」
あの表情は案外悪くはなかったのに。
「…はぁ」
出直しだ、作戦練り直し。
1回帰って考えよ、今日はもうダメだと思うから…
「超追い出されてるじゃーんっ」
え、何?今の私に言ってるんだよね…?
パンパンッとスカートをはたいてリュックを背負い直そうとすると後ろから声が聞こえた、誰かと思ってゆっくり振り返る。あんまりいい気はしなかったから、恐る恐るゆっくり…
「あ、こっち見た!」
「!」
「やっぴーーーーー!」
青!めっちゃ青っ!!!
びっくりして目が飛び出るかと思った。目元で両手ピースをしながらご機嫌に微笑む小柄な男の子。
知ってる、話したことはないけどこの風貌知ってる。
可愛いお顔をより引き立てるような空色の髪色をした…
えっと、名前何だっけ!?確か小鳩と同じクラスの…っ
「そらぴょんだよ」
「え?」
「
「そ、そらぴょん…?」
なんてコミュニケーション能力の高さ…、一言目であだ名を呼ばせて来るなんて。
自慢の空色ヘアーをなびかせながら私に近付いてきた。
「キミも入部希望者?」
少しかがんで私の顔を覗き込むようにして、上目遣いが使い慣れてるぐらい上手くてドキッとしちゃう。
「でもなかなか入れてくれないよねぇ」
ふふっと笑って、私の瞳をがっちり掴むように視線を合わせた。
「キミもチョコレート好きなの?」
「え…」
「だからチョコ研入りたいの?」
「いや…」
え、何…何なの?一体何が言いたいの?
てゆーか…っ
「近いんだけど!」
ドンッと両手で体を押した。小柄なそ…っ、そらぴょんは軽く突き飛ばされて廊下にどんっと尻もちをついた。
あ、やばっ!思いっきりやりすぎたかも!
「ごめっ」
「部活中なんで他でやってもらえますかっ!!」
謝ろうと思った私の声を掻き消して、ガラッとドアを開ける大きな音と共に小鳩の大声が響く。家庭科室の前の廊下でやってたら全部聞こえてるに決まってる、これはめちゃくちゃ怒ってる。
「迷惑です」
今のは廊下ではなく、私の心に響いた。
これはダメだ、また小鳩によくない印象与えてしまったじゃないか。
「ごめんね、ゆいぴー!俺らもう行くね!」
サッと隣に並んで腕を掴んだ、まるで友達みたいに。
「行こっ」
「え!?」
そのままぐいっと引っ張られそらぴょんが走り出す、そらぴょんが走るから私も走らなきゃいけなくなって連れられるがままに足を動かした。強引に引っ張られた腕は職員室を通り過ぎてもそのまま止まることを知らなくて…
え、これどこまで行くの!?何で私も走らされてるの!?
「そっ、そらぴょんっ!待って!!」
ちっとも止まりそうにない足を止めるには声を出すしかないと思って、この強引な手からも離れたくて大きな声で叫んだ。
「あ、疲れた?」
そしたら素直にピタッと足を止めたから。
「え?」
「俺も疲れたー、俺走るの好きじゃないんだよねー」
「へぇ、そうなんだぁ…」
いや、だから…!?何それ、何なのそれ!?
足を止めてくれたのは助かったけど、会話は全く掴めない。この行動も全く掴めてないのに。
「えっとー…」
「あ、ごめんね!無理矢理連れて来ちゃった!」
じぃっと掴んでいた手を見つめるとすぐに離してくれた。
にぱっと微笑んで、マスコットみたいに可愛い表情を見せる。
「あのー…小鳩の友達?」
さっき“ゆいぴー”って呼んでたから。それが気になって、ずっと頭の中で連呼されてた。
小鳩に友達いたんだ、失礼だけど…
「全然!クラス一緒なだけ!」
「……。」
あ、なるほど!人類みな友達タイプかな?小鳩もあれだけど、そらぴょんもまぁまぁあれだね?
「キミもチョコ研入りたいんでしょ?」
「え、うん…っ」
キミもってことはそらぴょんもってこと…なの?
ドギマギする私の手をぎゅっと両手で握った。
「俺も入りたいの!」
そらぴょんの声は大きくて廊下中に聞こえるんじゃないかってぐらい反響がすごい。
廊下の真ん中で、そんなキラキラした目で見られても…
私もただの入部希望者、しかもやましい気持ち100%で入部しようと思ってる私に言われても何もできないんだけどなぁ。
「だから一緒にがんばろ!」
「がんばる?」
「チョコ研、入りたいでしょ!」
入りたいって思ってたのいこれが1番の近道かなって考えて結果だったんだけど。
きっとタダではもらえないから、だったらその中に入るのがいいんじゃないかって…
だけどこんな空色の髪をしたふわふわ男子と手を組むことにはなるとは思ってなかった。
「打倒・小鳩結都!ゆいぴー倒してチョコに研入ろう!」
「………えっ!?」
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