第2話
さて、次なる手はなんだろうか…
そんなことを考えていたらあっという間に1日は過ぎて、今日の授業が終わった。
「咲希は今日も
「うん、でも向こうは部活だから待ってる感じだけど」
「いいなぁ~、やさしっ♡」
彼氏の光介くんの部活が終わるのを毎日待っている咲希は本当健気で可愛い。そして羨ましい。
「詩乃は?帰らないの?」
「うん、今日はちょっとしたいことがあって…咲希いつも図書室で待ってるでしょ?私も一緒に行ってい?」
「いいけど…、したいことって何?」
「やっぱまずは相手のことを知ることからだと思うんだよね!」
攻略難易度超ハードモードな相手を倒すにはやっぱり下調べは大切で、それと同時歩み寄りも必須だ。なるべくスマートに懐に入るためにも、できることからしなくっちゃ。
「…で、チョコレートについて勉強することにしたの?」
「うん!小鳩結都とチョコレートトークをするためにね!」
まずは知識を身に付けよう、困った時に話が続けられるように!まずは会話からだ!!
図書室にあったチョコレートについて書かれた本をいくつか持って席に着いた。窓際のカウンタータイプの席に咲希と隣に座って、咲希は分厚い難しそうな本を持って来てた。
「盛り上がるかな、チョコレートトーク」
「盛り上がらせてみせるよ、チョコレートトーク」
ペラっと持って来た本のページをめくる。
本を読むのは苦手で、読書感想文を書く時ぐらいしか読んだことない。咲希みたいにあんな分厚い本…、私だったら読み終わる前に飽きちゃうな。
チョコレートは好きだからまだかろうじて読めなくもない…
けど、歴史の授業は大ッ嫌いだけどチョコレートの歴史ならまだね、まだ…
「あっ」
だけど、すぐに窓の外が気になっちゃった。
ここは2階、ちょっと下を覗けば中庭が見える。部活の時間、この中庭でも練習してる人たちがいて。
「オージ先輩だ」
ダンス部の
「見れてよかったね」
「…うんっ」
そっか、今日はここで練習してるんだ。ダンス部の部活スケジュールってイマイチわからないから、どこで練習してるとか把握できないんだよね。
へぇ、今日はここで…
「詩乃、全然ページ変わってないよ」
「!」
視線が完全にチョコレートの歴史からオージ先輩だった。てゆーかそこにオージ先輩がいたら、それはもうオージ先輩しか見られない。
明るくて、カッコよくて、背も高くて、ついでにおもしろくて。
憧れだよ、みんなの。いつもで人が集まって来ちゃうの。
わぁー、バク転してる…すごーい…♡
「チョコレートなんか調べるバイタリティあるならオージ先輩に告白すればいいのに」
頬杖を付きながら咲希がこっちを見てる。酔いしれた世界から一気に現実に引き戻された。
そんなの言われなくてもわかってるけど。
「それが出来たらこんなことしてないよ。あんな人気な先輩、私に可能性なんてあると思う!?」
「……。」
「嘘でもあるよって言ってよ!」
一目惚れだったんだもん。
新入生歓迎会の部活紹介で踊るオージ先輩を見て、これ以上ないってくらいドキドキした。心臓から鳴り出す音に自分でびっくりしちゃうくらいに、今もずっとドキドキしてるの。
だけど、今の私が近付ける距離はこの距離が精一杯で。
もっと近付きたいって思ってる、でもその勇気もない。
だからせめて魔法のチョコレートがあったら、少しでも勇気が出るんじゃないかって…
そう思った。
自分に自信が持ちたくて、どうしても欲しいの…
小鳩結都の作る魔法のチョコレートが。
「それでね、夏休み前に小鳩結都のチョコレートの噂聞いたからさ…もう夏休み中考えすぎちゃって!ずっと欲しくて欲しくてもう頭の中小鳩結都でいっぱいだったの!」
それはそれは長い夏休みだった。寝ても冷めてもそればっかりで。
「だから夏休み終わったら、つい小鳩結都一直線で…気付いたら土下座で懇願してたよね」
「全然“つい”じゃないよ、必死過ぎだよ」
「でもそれしか浮かばなかったんだもん…!」
そんなのわかってるけど、自分でも何してるんだろって思ってるけど、どうしたらオージ先輩に近付けるか…いっぱい考えた末の答えだった。
「でも詩乃のそーゆう一生懸命なとこ、私は好きだよ」
咲希がにこっと笑って、こっちを見た。
「応援してるから」
「咲希…、咲希様!絶対ないと思うけど咲希と光介くんに何かあったら私も全力で応援するからね!!」
「それ応援されてもどうにかなるかな?ありがたいけどね」
くすっと笑って咲希が分厚い本のページをめくる。その横顔を見て、私も続きを読み始めた。
静かな図書室、慣れない空間だったけどそれが意外にも読書意欲を搔き立てる。開いた窓から流れてくる風が運ぶ本の匂いも心地いなぁなんて思ったりして。
だから苦手だと思っていた活字も自分のものに出来るぐらい頭の中に吸収されていった。
「…読み終わった!」
「え、早いね」
「咲希と比べて全然薄いからね」
すぐに立ち上がってリュックを背負う。今入れた知識を忘れないように早く使いたいからね。
「じゃあ私行くね!」
「もう帰るの?」
持って来た本たちを抱えながらイスを元の位置に戻して、グッと親指を立てて咲希にアピールする。
「ううん!こっからが本番だから!」
「本番?」
これで準備は整った。
あとは向かうだけ…
攻略しに行くんだ!打倒、小鳩結都!!!
本を棚にしまって急いで図書室を出た。
走ればきっとまだ間に合う。そう思って、一気に階段を駆け下りた。
図書室から家庭科室まで少し遠いのが難点だけど、まだそんな時間じゃないしきっと帰ってないと思う…
小鳩結都なら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます