きみのいないよる

第4話

「あの…!さっきから見てたんですけどお連れの方行っちゃいましたし、あたし達と話しませんか?」




「…いいけど」




「ハア!?おい!」






ちょっとした腹いせのつもりだった。いつもあいつはこっちを見たかと思えばすぐ違う奴を見るから。





き み の い な い よ る





「紅龍の白夜さんと聖夜さん、ですよね…?」




「まァ…」




「ここであったのも何かの縁ですし…連絡先、」




「無理」




「ですよね…」






自分から誘いに乗っておいて酷ェ奴と言わんばかりの視線を聖夜が送ってくる。




しょうがねェだろ。興味ねェし。少し顔は整っていると思う。でもそれだけ。声も匂いも仕草も全部が求めているものではない。




怖ェぐらいやたら綺麗な顔面をしていて、女にしては少し低い声でその癖にやたら甘いバニラみてェな匂いがいつもする求めてるその女は、こっちの気も知らずに聖夜のバイクのケツに乗りスマホを見ている。






「あの外にいる女の人ってどちらかの彼女ですか?」




「違ェ。あの人はそんなんじゃねェよ」




「だったらこの後…場所移動しませんか?」




「…ハ?あー…」






こっちに助けを求める目向けんな。聖夜から視線を逸らせば思いっきり目を見開かれた。




俺何やってんだこんなところで。本当。先程から目が行くのは外にいる壬黎ばかり。呑気に電話してやがる。




チラチラとこっちの様子を伺っているところから見ると、少しは気にしてくれているのだろうか。






「白夜さん、聞いてます?」




「あ゛?」




「場所、移動しましょう?」




「ハ?何でだよ」




「え?それは…」






場所を変えたところで何も変わらない。ヤる気も起きねェしタイプでもない。自分で自分が何してんのか分からなくなって思わずため息が出た。






「…そういう気分じゃねェんだよ」




「そ、うですか…」




「何か機嫌悪いんですかあ?」




「普通」






機嫌なんて悪くない。そう自分に言い聞かせる。嘘だと目で語ってくる聖夜は無視した。




機嫌取りなんてこいつらにやられても嬉しくねェ。寧ろ悪くなる一方。そう思っていると急に聖夜に腕を掴まれる。






「何だよ」




「あれ、まずいんじゃねェの?」




「っ、あいつ」




「壬黎さん悠長に手振ってっけど」






窓の外を見て見れば天宮と壬黎の姿。そして2人は天宮のバイクに向かって行く。まさかと思った時には反射的に体が動いていた。




引き止める名前も聞いていない女を振りほどき、外に出た瞬間天宮のバイクはあざ笑うように発進していく。






「っ…クソ」




「てめェが変に嫉妬させようとするからだろ」




「黙れ」




「どうすんだよ」




「追う」




「その前に情報修正だろ。金曜で人通りも多いしどこからばら撒かれるかわかったもんじゃねェ」






盛大に舌打ちをして自分のスマホを取り出す。後先考えねェんだから!後ろでは聖夜が叫びバイクに飛び乗った。




後を追わせるのは聖夜に任せて必死に情報を修正していく。本当にとんだトラブルメーカーだあいつは。




そんなあいつに入れ込んでる俺は一体何なのか。そんな事は今どうでもいい。






「…見事撒かれたァ」




「だろうな」




「もう大人しく帰ろうぜ」




「ハ?無理」






結局、あいつは散々人を振り回す天才なのかもしれねェ。こっちの気も知らずに。




知られなくていいと思いつつ、誰かと2人でどこかに消えて何をしているのか分からない状況になるのは面白くねェ。いっそのこと自分のものに出来ればなんて考えが一瞬頭をよぎった。






(あいつん家行く)



(鍵ねェだろ?)



(これで開けんだよ)



(…俺今あんたに心底ドン引きしたわ)

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