やきにくぱーりー

第3話

「えー…結果は2位と残念でしたが、商業科の雪原が場所をおさえてくれたので、」




「長ェよ!始めろ!」




「そーだそーだ!」




「…かんぱーい!」






至る所から団長に対しヤジが上がり、それに折れた団長の乾杯の音頭で赤組団お疲れ様会の開催である。






や き に く ぱ ー り ー






「盛り上がってるねェ」




「肉嫌いな奴いねェだろ」




「壬黎さん、混ざってこなくていいんすか?」




「うん、大丈夫」






大勢でワイワイするのはあまり好きじゃない。中心にいるキャラでもないと思う。盛り上げ役は他に適任がいるはず。この場では団長とか。




貸し切った焼肉屋の端にあるソファーを陣取り烏龍茶を一口飲んでいると、ほのかに香るアルコール臭と煙草の匂いに思わず顔を歪める羽目になった。




ギンッ!横にいる白夜と聖夜を見ればバレたなんて言いながら笑ってる。2人とも緑茶に見せかけた“ハイ”を飲んでるし、白夜の横には灰皿も完備されていた。なんなら既に紫煙が漂い始めてる。






「っ、ちょっと」




「俺らが大人しくただの飲みもん飲むわけねェだろ」




「その分料金は多めに払うんで」




「…間違ってもあの中に飲み物持って入らないでよ?」






大丈夫大丈夫と手をぷらぷらと適当に振る白夜。本当にわかってんのかな。




そもそもこの2人が飲んでしまったら帰りのバイクを持ち帰る人とこの2人を運ぶ為の足が必要になることを理解してるのだろうか。






「あれ、高瀬さん達食べないの…って、アルコール…?」




「黙っててくれるよね?お願い」




「お願いじゃなくて脅し!」




「黙ってなかったら埋める」




「もはや脅し!」






ふらふらとこっちにやってきた団長の手にはご飯とその上には肉と野菜がドンと盛られている。




スポーツマンだからなのかただの食べざかりなのか。確保している量は尋常ではない。




うちの大食らい代表、聖夜は目を離した隙に肉争奪戦へと参加していた。






「あいつ…俺の分もって言ったこと忘れてるな」




「それくらい自分で持ってきなよ」




「お前は?」




「白夜が持ってきたの貰う」




「ふざけんなブス。てめェで行け」






そう言いつつ持ってきてくれるのか重い腰を上げて肉争奪戦へ参加しに行く白夜に向かって黄色い声が上がる。




ものの数秒で女子生徒に群がられる結果となってるし、間違いなくモテ期。人にブスって平気で言うあれのどこが良いのかだけは本当に分からない。






「コミュ力たっか…」




「高瀬さんも十分コミュ力高いよ」




「まさか」






肉争奪戦の中普通に会話して笑っている2人を見て安心する一方で少し、ほんのちょっとだけ微妙な心境になる。




小さな頃は高瀬の子、中学に上がってからは高瀬の妹。そう見られてきた。友達と呼べる友達もいないし、コミュ力なんて皆無。ちょっと…ほんのちょっとだけ羨ましいのはここだけの話。






「悲しそうな顔してないでお食べ!」




「団長、友達ってどうやってなるの…?」




「人生相談…?高瀬さん友達いっぱいいそうじゃん」




「いないよ。団長友達になって」






いいよと言いながら自分が確保した食べ物を分け与えてくれる団長。優しすぎて涙が出そう。出ないけど。




会費の事もあるし連絡先教えてとスマホを取り出された。これは…






「ナンパ…?」




「違う」




「冗談。はい、これ」




「めっちゃ通知きてるけど」




「大体うちの子達だから大丈夫。どうせ焼肉ずるいってやつでしょ」






QRコードを出し団長に渡せば手慣れた様子で追加して…通知を見てぎょっとされる。




更に何故か自分のスマホを見てぎょっとしていた目を益々見開き始めた。目が落っこちそう。






「鼻眼鏡」




「…なんて?」




「高瀬さん鼻眼鏡なんてかけるんだね。意外」






慌てて自分のプロフィール画像をタップして見てみるとキメキメのツインズ、鼻眼鏡に呆然と立ち尽くしている自分、三角帽子に私が主役!のタスキをかけている白夜。




いつの間にかプロフィール画像は魔の写真に変更されていた。この間までは幹部で撮ったプリクラだったのに。




またもやギッ!と肉争奪戦を繰り広げている白夜を見れば困った顔でスマホを女子生徒の大群にポイっと投げているのが見える。






「あの馬鹿…」




「え、今どれに対して怒ったの?プロフィール?連絡先?」




「…?プロフィール以外になんかあるの?」




「澪城、どんまい…」




「本当、壬黎さん鈍感っすか?馬鹿なんすか?」




「ちょっと、ノエルちゃん」






戦利品の肉を抱え団長とは逆サイドの隣に腰をおろす聖夜。相変わらず持ってくる量は人の倍以上。どこに消えてくんだろう、それ。




そんな聖夜に対して顔をそらし緑茶を口に含んだ瞬間、明らかに普通のものよりも酒の量の方が多いそれに思わず眉間に皺が寄った。






「壬黎さん、それ俺の」




「緑茶ハイって言うより緑茶の酒割だよこれ…」




「これで高瀬さんも共犯者、と」




「嘘でしょ…?」




「俺巻き込まれたくないんで離脱しますね」




「どういう事!?」




「ちょっとノエルちゃん!どこ行くの!寂しい!」




「こういう事です」




「団長も!何でどっか行こうとするの!」






ぎゅーっと2人の腕を掴みその場に引き止める。遠くで白夜がぎょっとした顔をしたのを見た…気がした。気のせいかもしれない。




その後の記憶は見事吹き飛び、気付いた時には溜まり場の仮眠室に聖夜と白夜にサンドイッチされ転がされていたのは、また別のお話。






(え…あれ?何で?)



(酒入ると面倒臭いっすね、相変わらず)



(誰がここまで運んだと思ってんだブス)



(ブスは余計じゃない?)

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