がりゅうがくえん

第2話

『あ、もしもーし。久々ー』




「…はァ、お久しぶりです」




『白夜さァ、今から牙龍学園に来てくんない?』






何言ってんだこの人。いや…頭おかしいのは昔からだけど。






が り ゅ う が く え ん






『つーかもう転入手続きしてるからさァ。ちなみに壬黎も来る』




「行きます」




『ちゃんと!見張ってるからな!変な事すんなよ!』






そんなの知るか。ぶちりと通話を終わらせてここ数ヶ月会っていない姿を思い浮かべる。




そういえば、あいつどこの高校に行ってんだ。制服着てるところ見た事ねェけど。抜けると決めて徹底しているのか電話番号すら変えているようで連絡すらつかない。きっと変わってねェ…はず。




バイクに跨り指定された所へ向かえば馬鹿みてェにでかい校舎。






「あ、来た」




「お久しぶりです、飛鳥さん」




「お前の方が早かったか。とりあえず斗眞んとこ行って制服着替えるか」




「あの人ここで何やってんすか?」




「臨時理事長」






今年から。付け加えるようにそう言われて顔が引き攣る。あの人も大概だろ。




昔から彼女がいる所には必ずと言っていいほど兄である斗眞さんの姿があった。シスコン拗らせすぎなんじゃねェの。






「何?お前なかなかいい高校行ってたの?」




「久々に顔合わせんのに一言目がそれってどうなんすか」




「まァいいや。これに着替えて。クラスは2-D」




「マジで話聞かねェなあんた」






案内された理事長室にはだらりとソファーに座ってこっちを見ている斗眞さんの姿。




放られた制服に着替えれば少し違和感がある。ずっと学ランだったからか。




そんじゃ、いってらっしゃーい。にっこりと笑顔で手を振られるのを無視して飛鳥さんについて行けばおかしい事に気付いた。マジでこの先代共…






「あんたら嵌めましたね」




「人聞き悪いな。嵌めたわけじゃなく頼まれたんだ」




「あいつ嫌がりますよ」




「多分知らないだろ。元々合併予定だった学校通ってたし」






はい、ここがお前のクラス。そう言い軽く背を押されて一歩足を踏み入れれば確保!なんてでけェ声が聞こえてくる。




おい、何人でこっち向かってくる気だ。重てェ。






「白夜さん捕まえたァ」




「…そういえばお前ここだったな」




「今までどこで何やってた?全然見つかんねェし」




「何だっていいだろうが」






まァ確保したから別にいいけどと言いながらこっちを眺めている聖夜。少しはこのくっついてる奴らどうにかしようとしろよ。




つーか鼻水ついてんだよ。さっき着替えたばかりだぞ。




右腕にくっついているメンバーの顔を少し押し退けていれば、また飛鳥さんが顔を覗かせる。






「壬黎さん逃げる!抑えろ!」




「はい、壬黎さん確保ォ」






降ろして!聖夜の腕の中でジタバタと暴れている久々に見る姿。思わず聖夜から壬黎を離させればにやにやした顔を向けられた。うっざ。




初めて見る制服姿は少し新鮮だった。そもそもスカート履いてるのすら写真でしか見た事ねェ。






「白夜はノエルちゃん達いるの知ってたの?」




「ここに着いて思い出した」




「それはそれで…どうなの?」




「いや、壬黎さんは知らなかったでしょ。そっちの方がどうなんすか」




「うぐぅっ!」






何でこう、兄妹揃って変な反応すんだよお前ら。




斗眞さんみたいっすね。聖夜の呟きも隣から聞こえてくる。凄ェ嫌そうな顔をする壬黎だけどその顔も斗眞さんに似てるのを本人は気付いてねェ。






「せっかくスマホまで新調したのに…こんなことされたら何の意味もないよ」




「そうっすよ!連絡もつかないからこっちはてんてこ舞いです!」




「ははは、うける」




「なんもうけねェ」






言い合いをする聖夜と壬黎を横目にその手からスマホを奪い取り連絡先に追加していく。




何ヶ月も連絡取れねェとかたまったもんじゃねェ。毎日会っていたのにそれが急になくなった虚無感を、きっとこいつは知らない。




渇いて渇いてしょうがないような、そんな感覚。もうあんな思いはしたくねェ。






「あれ、白夜さんも連絡取れてなかったんすか?」




「え…?あたし白夜に連絡先教えてなかったっけ?だから音沙汰なかったんだ」




「…っハア!?この…っ、ブス!」




「っ痛い!」






俺の事何とも思ってねェのは分かってたけどここまでか。少しは自分から連絡しようとしろよ。何のコネ使ったか知らねェけど調べられなかったんだぞ。




小せェ頭を鷲掴めば少し涙目になっていて思わず喉が鳴る。無防備にそんな顔すんな。






「ところでこんな状況なんで戻ってきてくれますよね?」




「え?嫌だけど」




「いやいやいや、ハ?」






戻ってもいいんじゃねェかなんて言葉が出かける。壬黎にも考えがあるんだろうけど、事も落ち着いてきてるだろうし。




少し助けを求めるようにこっちを見上げる灰色の目と目が合い、少し頬を撫でれば不思議そうな顔を向けられ思わず顔を手で覆った。本当に鈍すぎる。






((これからは、傍に))



(戻ってきてくれますよね?)



(…しょうがないなァ)



(いつまでひ引っ付いてやがるてめェ)

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