さんかのはなし1
第1話
「白夜…?」
「ハ…?何でお前らここにいんだよ」
「何だよ。知り合い?」
わたし達は届くことのない想いを抱えた同志だった。
さ ん か の は な し 1
元々空手を習っていたのもあってその男にくっ付くようにいたわたしも仲間として受け入れてくれたこの場所は心地がいいものだった。
そんな新月の代替わり。高校1年の時にリーダーに指名された幼馴染と幹部に指名されたわたしは初めて紅龍の視察に立ち会う事になっていたけど…
「幼馴染みてェなもん」
「へェ、あんた幼馴染とかいたのかよ」
「てめェあいついない時だけ喋り方元に戻すのやめろ」
「ハア?嫌」
親である紅龍からやって来た2人。副リーダーと幹部補佐だと言ったそのうちの1人は同じ年の施設時代に一緒だった白夜。成長したその姿にとうの昔に諦めたはずの想いが飛び出そうになった。
元気だったかよ!普通。相変わらず愛想ねェな。そんな幼馴染と白夜の会話を半分ぼうっとしながら聞いていれば、あんた幹部?なんて薄紫の目がこっちを捉えるのが見えた。
「女が幹部じゃおかしい?」
「いや?俺らのリーダーも女の人だし」
「…え?」
「あ、来た。遅いっすよォ、壬黎さァん」
ごめん、着替えてた。そんな声が入り口から聞こえて気配のなさにゾッとしたし、怖いくらい綺麗な顔に息を飲んだ。
「傘下にはあまり来ないんだけど…代替わり早々に抗争あったらしいね。どれがリーダー?」
「白夜さんの知り合いらしいっすよ」
「へェ…あれ、女の子だ。よろしくね」
「あ…はい。よろしく、お願いします」
「俺は?」
「会ったことあるじゃん…あ、もしかして君がリーダーでしょ」
「…ハ?会った事あるなんて聞いてねェぞブス」
お前この子のどこがブスに見えんだよ!?ごめんな?ブスって言ってくんのは今に始まったことじゃないし、君が謝る必要ないよ。そんなやり取りをしながら並んで座り始めるリーダー同士。
まさか並んで座るとは思わない。どうしよう。飲み物を持って来たメンバーも二度見してる。ていうか、知り合いだって聞いてないよ。
「抗争は楽勝だったみたいだね」
「当たり前だろ?」
「うん、知ってる」
ふにゃりと笑うその女の子に幼馴染からぎゅんって音が聞こえた気がするし、見た事もない優しい顔をしてる。なるほど。揶揄われるのが嫌で知り合いって事隠してたでしょ。
そう思った瞬間だった。2人の間に身を捩じ込んで思い切り不機嫌そうな顔をしたまま座り始めた白夜が視界に飛び込んできたのは。
白夜さん、さすがにそれは牽制しすぎっす。何を牽制してんの?黙っとけブス。うるさいんだけどメカオタク。紅龍の3人で言い合いを始めてしまったし、何なら白夜の想いに気付いてしまって思わず顔が歪む。
あんなに人に興味がなさそうなのに、そんな顔もするんだ。
「…大丈夫?具合悪い?」
「え、」
「顔色悪いよ。座って。ちょっと白夜そこ退いて」
ゲシゲシと白夜を足蹴にするのが見えたし、更には自分が座っていたはずの席を譲られて察した。この人絶対白夜からの好意に気付いてない。確かにブスブス言われたら気づかなさそう。
なあに?不思議そうな顔をしている壬黎さんに苦笑いが出る。ついでにぼうっとその姿を見てる幼馴染の脇腹を肘で突いた。
「顔合わせも終わりましたしどうします?俺バイトあるんで帰りますけど」
「あれ、今日バイトなの?何で言わないの!?」
「他の人来れないって言うから来たんすよ。白夜さん先に1人で行かせたら俺らの印象最悪っすよ」
「それは確かに困るかも。ありがとねノエルちゃん」
「おい」
仲良さげに身を寄せ合って笑う3人にまた顔が歪んだし、幼馴染の顔も歪んでいた。
3人とも帰る事にしたのかまたねなんて言いながら立ち上がる紅龍に自分の顔は笑えているか少し心配になる。きっと、わたしのこの想いは届かない。
心底大事そうに隣を見てる白夜とそれに気付く事はない壬黎さん。もどかしくて、そしてとても羨ましい。ずるい。
「…おい」
「あ?何だよ」
「悪ィけど諦めろよ。渡せねェから」
「…っ、てめェマジで性格悪ィな」
何がとか何をとか肝心な所は言わないけど何を指しているのか分かってしまう会話を最後に、白夜と壬黎さんが突然紅龍を抜けたと聞かされたのは数週間後の話。
((この日からわたしと幼馴染は同志になった))
(お前まだ白夜の事好きだったのかよ)
(…っ別にいいでしょ!?)
((小さい頃の想いまで気付かれていた))
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