第2話 異世界? え、……嫌です
そういえば寝転んだままだった。わたしの常識センサー全然発動してないなこれ。イケメンさんはパチンと指を鳴らす。気づけばふわふわな白い一人掛け用のソファに座っていた。どこから現れたんだろう。でも今はそれよりも、一度座ったら立てなくなるタイプのソファだ! 人生で一回は座ってみたかったんだよね! ……まあ死んでるっぽいけど。
虚しい気持ちになりながらもふわふわを堪能していると、正面から視線を感じた。こちらもいつの間にか現れたソファに足を組んで座ったイケメンさんがじっとこちらを見ている。負けじと見つめ返してみた。
イケメンさんは古代ローマにありそうな形の黒い布で作られている服を着ている。金色の糸で星座のような細かい刺繍が成されているそれを着こなす姿はやっぱりイケメンだ。黒をまとったイケメンさんはこの白い世界では異質なものに見える。
「さて、準備も整ったところだし早速本題に入るよ。お察しの通り、君は死んだ。僕は君たちが言うところの神様。ここは
「あぁやっぱりわたしは死んだんですね……」
思ったよりショックを受けていない自分にショックを受けてしまった。っていうかショックは思わぬところで受けるものだった。
イケメンさん改め神様が神様なのは正直納得だ。イケメン過ぎて神々しいし、この空間謎だし、ソファ現れたし。……ちょっと神様、何ですかその可哀想な子を見る目は? 確かに我ながら何考えてるんだろうって感じだけど!
「と、ところで
「生者の世界と死者の世界、今の世界と昔の世界、君がいた世界とそれ以外の世界……、その名の通り全ての世界の間がこの空間だね」
「なるほど……? つまり、ファンタジーな小説とかに出てくる感じですか?」
「まあ、うん。これからだんだんと分かっていくだろうから今はそれでいいよ」
神様もそう言っていることだしファンタジーなあれということにしておこう。ところでさ、今聞きずてならなそうなことを言われた気がするんだ。
これから……? わたし死んだのにこれからがあるんだって感じだよね?
「それで、君をここに呼んだのは、僕と共にとある世界に行ってほしいから。君たちが言うところの異世界だね」
「え、……嫌です」
異世界とかあれじゃん。命がいくつあっても足りないような感じじゃん。物語の主人公は主人公パワーで乗り越えてるけどわたしには無理なやつだから絶対! また死ぬのはお断り! 今までの生活で十分満足していますから!
僕と共にってことはイケメンな神様を見放題……の可能性もあるけど! ちょっとどころじゃなくてだいぶ惹かれはするけど!
「魔法が使えるようになるよ。空を飛べたり瞬間移動したり、水や炎だって自在に操れる」
「ぐぅっ、魔法……」
魔法が使えるのもかなり魅力的……いやそれがあったとしても命には変えられない。死んでいるわたしが言うことではないのかもしれないけどさ。
でもやっぱり魅力的ではある。オタッキーな心の持ち主として魔法を使えるようになるのはちょっとした夢だったりするから! イケメンを愛でたいってのもその一つだからっ! ちなみにイケメンというのは顔だけでなく行動も、です。ここ大事。
「でもでもやっぱり嫌です」
「ふふっ、そうだろうね。君ならそう言うと思っていたよ」
どういうことですか。まるでわたしを以前から知っていたようなその言い方。どこからか見ていたの……!? まあ神様だから全然あり得るか。プライバシー!
神様は足を組み直し、挑発するような笑みで言う。なんか悔しいけど絵になってるんだよなぁ。
「一つだけ、君が元の世界に帰って今まで通り生活できる方法がある」
怪しい、非常に怪しい。こういうのは大抵、大きな対価が必要だったり何か罠があったりするものって決まってるから。特にわたしが読んでいた物語ではね。
「……お高いんでしょ?」
「そうでもないよ。ただこの試験に合格すればいいだけの話さ」
神様の右手の上に現れたのは何かが書かれた紙と万年筆だった。目を凝らしてみてももやがかかっているように書かれているものは読めない。さすが神様とでも言うべきか、カンニング対策はばっちりのようだ。
「どんな試験ですか?」
「たった一問だけの簡単な試験だよ。——君が覚えていればね」
深読みが出来過ぎる言い方しますね。でも、一問だけで、簡単だったらワンチャンいける気がしてきた。まだその試験を受けると決めるには情報が少な過ぎるけど。
「ルールとかあるんですか?」
「試験時間は10分。正解したら、君を元の世界に帰して今まで通り生活ができるようになる。不正解または答えられなかった場合、君は僕と一緒に異世界へ行く。ちなみに試験を受けなかった場合も僕と一緒に異世界へ行くことになる」
……ずるい。いやそりゃそうだけどさ。今このよく分からない状況からわたしを帰すも連れていくもできるのは神様だけなんだから。話をしてくれているだけマシなのかも。なんというか、飴と鞭? の使い方がお上手ですね。こんな状況じゃなかったら素直に推してたよ、神様。
さて、できることをやるのか、流されてしまうのか。まあ決まってるんだけど。
「じゃあ、試験やります」
「そうこないとね。はいここに座って、……はい用意できた」
神様が嬉々として指を鳴らすと、もふもふなソファは学校にありそうな固い木の椅子に変わっていた。目の前にはこれまた学校にありそうな机、そしてさっきの紙と万年筆がある。どうして学校仕様なのかは突っ込んだほうが良いのかな。でも神様だしなぁ、……そうだ神様だった。
時に、あのもふもふなソファ、もう少し堪能していたかったと思ったのはにこにこしている神様には秘密だ。
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