大魔導士ディックの入門試験

異端者

『大魔導士ディックの入門試験』本文

 剣と魔法の世界、ゼン・ラ。

 その世界において絶対的な存在と言える大魔導士ディックは考えていた。

 私の老い先はもうそんなに長くない。持ってあと十年だろう。そろそろ後継者のことを真面目に考えなければ……。

 ディックは椅子に座ると深いため息を付いた。

 だが、それは邪悪な者であってはならない。他人のために正しく力を使える、そんな良識のある者を選ばなくては……。

 これは、少々難しい問題だった。

 この離れ小島に越してからも、彼のもとには弟子にしてほしいという者が度々やってきていたが、全員断っていた。彼らには、あわよくば自分も大魔導士になり、富と名声を手にしたい――そんな欲望が見え透いていたからだ。

 どうすれば、正しき者を選ぶことができるか――。

 彼は天井を見つめ、思案を巡らせた。


 数日後、ディックが弟子を取りたいので入門試験をするという話が持ち上がった。

 条件は男性、年齢は十五歳から三十歳まで。

 これはすぐに世界中に広まり、小さな島には入門希望の男性が溢れかえった。

 誰もが、ディックのような大魔導士になりたいと思っていた。

 彼は、受付で名前、年齢、出身地等を記入させると、彼らを一か所に集めた。

 それは、数百人は居ただろうか。壮大な光景だった。

 彼らの正面の台に、彼は立つと言った。

「今すぐ、ズボンとパンツを脱げ!」

 ざわめきが起こる。しかし、相手は大魔導士。この意味不明な命令にも従わない訳にはいかない。

 大半が脱ぎ終わったのを確認すると、彼は続けた。

「諸君には、このまま一ヶ月この島で過ごしてもらう。下半身は常に露出したまま、手で隠すのも禁止。その間、私は魔法で常に監視しているから、決して不埒ふらちな真似はせぬように。入門試験の結果はそれを見てからとする」

 ざわめきが大きくなる。その中には、呆れて帰ろうとする者も少しは居た。

 だが、大多数はそれに従うことにした。弟子となって、やがては大魔導士になれるのなら、少しぐらいの恥や外聞など……そんな考えが透けて見えた。


 こうして、数百人の男たちの下半身丸出し生活が始まった。

 最初のうち、若い娘などはきゃあきゃあ声を上げて逃げまわった。年寄りたちは呆れて笑った。

 多くの男たちは、滞在するのに十分なお金を持っていなかったので、島の住人の仕事を手伝うことで糊口ここうを凌いだ。畑仕事や漁で半裸の男たちが働くようになった。

 幸い、島は温暖な気候だったので寒さで体調を崩すような者は出なかった。

 島の住人たちも、最初は奇異の目で見ていたものの、徐々に慣れていった。

 最後の方になると、もはや上半身まで脱いでしまい、全裸になって若い娘と遊ぶ強者つわものまで現れた。

 事件といえば、漁の手伝いをしていて引き上げる網にアソコが巻き込まれてもげそうになるという珍事件があったが、それ以上は何も無かった。

 こうして、意外にも平和なまま一ヶ月が過ぎた。


 一ヶ月後、再びディックが皆を集めた。

 誰もが、こうして言いつけを守ったのだから自分が選ばれるに違いない――そう確信していた。

 そんな彼らに、彼は告げた。

「お前ら全員、不合格!」

 なんだと!?

 奇声にも似たざわめきが起こる。

 ありえない! 恥を忍んで頑張ったのに! ここまでさせてあんまりだ!

 彼を非難する声が飛び交う中、一人が言った。

「せめて理由を! 理由だけでもお聞かせください!」

「いいだろう」

 彼は平然と言った。

「何の考えも無しに、言った通り従うしかできない輩など要らん! 大きな力には、大きな責任が伴う! ……合格したのは、最初に帰った者たちだけだ!」

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