第29話 統括研究所
翌日。
俺は一人、統括研究所に来ていた。
昨夜中にホタルがオルデュクス王と面会し、武器や防具、人工遺物の情報は開示してもいいと許可を貰ってきたのだ。
探索者の能力については本人に確認し、教えてもいいと言ってくれた者のみ開示される。
完全に条件を飲んでもらったわけではない。
しかしそれはもういい。既に覚悟は決めたのだ。与えられた情報で計画を立てる。それだけだ。
「おはよう。昨夜はよく眠れたかい? ヨゾラ君」
「そういうあんたは眠れて無さそうだなマクスウェル」
出迎えてくれたのは目の下にびっしりと隈を作ったマクスウェルだった。
髪の毛はボサボサで、着ている白衣は乱れている。
不眠不休で研究をしていたのは一目瞭然だ。
「いやなに、これほど完璧な状態の禁忌録の碑石は初めて見たからね。研究者ならば睡眠時間を削ってでも調べたいと思うのは当然だろう?」
マクスウェルの視線の先には、俺が運んだ禁忌録の碑石があった。どうやら昨日のうちにヴァルハラへと運び込んでいたらしい。
「俺にはわからない感情だな」
「そうだろうね。私も理解は求めていないよ。……っとそうだ。ヨゾラ君。興味本位で一つ聞いてもいいかな?」
マクスウェルが改まってそんなことを聞いてきた。俺は身構えつつも頷く。
「なんだ?」
「昨日はどこに泊まったんだい? ホタルくんの私室かい?」
本当に興味本位だったらしい。
肩透かしを食らい、身体の力が抜けそうになる。俺は目を細め、深くため息を吐いた。
「そんなことか……。オルデュクスが手配してくれた空き家だよ」
その空き家がホタルの家の隣だったのは言わなくてもいいだろう。ついでに金が入っている端末も支給された。
借りた金は既に返済済みである。
「なんだ。面白くないね。まあそんなことはどうでもいいか」
自分で言っておいてなんなんだとは思うが、話が進まないので黙っておく。
「さて、今日は武器や防具を見に来た、でいいのかい? 私としては統括研究所の施設を使えるうちに右腕の研究をしたいところだけど」
「その研究ってのはすぐに終わるものなのか?」
「それはデータ次第、としかいえないね。時間がかかる可能性も十分にある」
「なら先に武器と防具を見せてもらう。その後の時間で右腕を調べてくれ」
「わかった! ではそういう予定で行こう! 今から楽しみだよ! さぁこっちだ! ついてきたまえ!」
研究できるとわかった途端、声が大きくなった。
徹夜してテンションがおかしくなっているのだろうか。素の可能性も十分にあるが。
俺はもう一度ため息を吐いた。
マクスウェルの案内に従い、統括研究所内を歩く。
統括研究所はその名の通り、ヴァルハラ内に点在する研究所を統括している場所だ。
よってヴァルハラに存在する各種最新鋭の装備が揃っている。
ちなみに統括研究所は普通の研究者でも立ち入り禁止なんだとか。
入れるのはオルデュクス王と特級探索者、それと選ばれた一握りの研究者のみ。そんな場所に入ることが許されるとは、ホタルがかなり頑張ってくれたのだろう。
感謝しなければならない。
……銃器は当然あるな。
研究者を歩きながら周囲を見回す。
視線の先には様々な銃器が置かれており、白衣を着た研究者がいろいろと触っていた。
俺には何をしているのかは全くわからない。
記録では見たことがあったが、エリュシオンで銃器を目にしたことはない。
しかしアイザックが持っていたことから、ヴァルハラでは広く普及していることは予想していた。
作戦に組み込んでも問題ないだろう。
「これ、実際に撃ってみてもいいか?」
「もちろんだよ。何か意見があれば聞かせてくれたまえ」
射撃場に移動し、多種多様な銃器を試していく。
高精度な長距離射撃が可能な
高速で連続発射が可能な
携帯性に優れた
近距離で高い威力を発揮する
その種類は様々だが、どれも一長一短がある。俺は試射をしながらその情報を全て頭に叩き込んでいく。
「ふぅ。これで全部か」
一通り射撃を終えて息を吐く。
すると見守っていたマクスウェルが後ろから拍手をしてきた。振り返ると感心したような、驚いたような表情をしていた。
「ヨゾラ君は射撃経験があるのかい?」
「いや、ない。実際に見るのすら初めてだ」
「本当かい? それにしては精密な射撃だね。ほぼ全てド真ん中だ。普通初めてじゃこうはいかないよ?」
「反動や弾道落下を計算すればそう難しいことじゃないだろう?」
マクスウェルが苦笑を浮かべる。
「言うは易し行うは難し、だね」
「なんだそれは?」
聞き慣れない言葉だ。
「言うほど実行するのは簡単ではない、と言うことだよ。確かホタルくんの故郷の
「なるほどな。俺にはよく分からないが……」
「それは嫌味かい?」
「事実だ」
俺の言葉にマクスウェルはポカンと口を開けたあと、忍び笑いを漏らした。
「ククク。確かにその通りだね。キミは面白い男だ。ヨゾラ君」
なにやら馬鹿にされているような気がして眉を顰める。
「さて、次は防具かな」
そんな俺を無視してマクスウェルが歩き出した。
仕方ないので俺はため息を吐きつつもついて行く。
ここに来てからため息が増えた。そんな気がする。
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