【第一章】第二話

【第一章】第二話


「それにしても・・・薄気味の悪い森だな」

 ガッシュガードとリイロイクスの冒険者二人組がシルバーライトに辿り着いたのは夜明け前。僅かばかりの休息を取り、慌ただしい食事を済ませると、二人は昇り始めた太陽を背に暗く暗鬱な森の中へと足を踏み入れた。

 シルバーライト - 白銀光という名前とは裏腹に、その中は不気味で夜が明けたにも関わらず、中は暗く陰鬱。しかも、鳥の声ひとつしない静寂に包まれていて、いやが上にも不安を募らせる。

 そんな中、密集した下草を掻き分け、聳える木々の間を縫い、ガッシュガードとリイロイクスはひたすら森の最奥部を目指していた。

「規模こそ小さいですが、やはりシルバーライトですね。一筋縄ではいきません。ガッシュ、油断しないで下さい。しかし・・・」

 そう言ってリイロイクスは足を止める。それから、ひとしきり周囲を見渡してから続けた。

「このシルバーライトの魔力は随分と不安定ですね」

 ガッシュガードもつられて周囲を見渡すが、彼には足を踏み入れて以来続く、変わり映えしない暗鬱とした森の中の風景が見えるばかりである。

「ひょっとすると性格に難があるのかもしれません」

 そう結論付けるとリイロイクスは再び歩を進め始める。

 後に続きつつガッシュガードが疑問を口にする。

「性格に難?」

「はい。我々に個性、性格があるように、この森にも個性、性格があります」

「森だろ?」

「はい。でも、ただの森ではありません。魔力を秘め、意志を持った森です」

「・・・」

「その寿命の長さは数百年から長いものになると数千年といわれています」

「随分と長命なんだな。それじゃあ、アドアネア大陸の誕生が五千年前と言われているから、最も古い森はその当時から存在したことになるわけだ」

 アドアネア大陸の誕生には諸説有り、未だ決定的な説は存在しない。最も有力とされているのが五千年前説だが、その他にも二千年前、六千年前年、果ては一万年前迄と幅広く存在して、どれも信憑性を欠くという点で一致している。ただ一つ明らかなのはこの世界にはアドアネア大陸しか存在せず、そこは閉ざされた唯一の世界であるということだ。

「理論的にはそういうこともありえますね。ただ、この森は比較的新しいそれのようです。魔力が瑞々しく、力強く、そして・・・」

「不安定?」

「そう言う事です。もっとも、若いと言っても五百年以上は経過しているでしょうが・・・」

「性格に難っていうのは?」

「情緒不安定、と言うのが分かり易いでしょうか。森を魔法士に例えると、魔力の制御が上手くできない、場合によっては暴走することもある、そんな状態です」

「・・・」

「加えて、その秘めたる魔力は強大です。分かりやすい話をすると・・・昔話に登場する都市が一夜にして消えるエピソードがそれです」

「・・・そんなの作り話だろ?」

「いえ、実話です」

 リイロイクスは振り返り真顔で答える。

「・・・」

「実際、都市消滅が原因した八割がこの手のシルバーライトと言われています。エルフ界隈では有名な話ですよ。もっとも、そう頻繁に起こることではありませんがね」

「・・・歴史の教科書には絶対に載らない裏話だな」

「そうですね。その為、この手の森には普通・・・」

 不意に前方の風景が一変した。

 これまで密集した下草を掻き分け、聳える木々の間を縫い、二人はひたすら薄暗い森の中を進んでいたのだが、不意に開けた場所に出たのだ。

 そこは地面に密生した苔が放つ青白いほのかな光に満たされ、大木の太い幹がまばらに聳えている。そこから伸びる枝葉が天蓋を形作る、広々として神秘的な空間だった。

「ようやく第一関門を突破したようですね。ここからは私の後をついて歩かなくても、もう大丈夫です」

 森に足を踏み入れて以来、ガッシュガードはリイロイクスの通った足跡をひたすら辿って移動していた。

 リイロイクスが言うにはシルバーライトには通常、人を寄せ付けない為の魔法の罠が展開されているという。外縁部にくまなく張り巡らされたそれは、地面に記された古代文字で、一定の法則や順序を守らなければ排除の魔法が作動する。

 森の外に転移させられるだけならば良いが、場合によっては空気のない高空や地面の地下深く、あるいは木や岩の中に転移させられる可能性もあり、常に死の危険が付きまとった。

 その為、単調だが決して気の抜けない神経質な作業を、ガッシュガードはここまで強いられ続けてきた。

 黒髪長身の剣士は大きく伸びをする。

 魔法の力で地面に記された古代文字は魔力を扱う能力に秀でた者には視覚的に認識可能らしい。エルフであるリイロイクスはもちろん、人間でも上位の魔法士なら見ることができる。

 では、何故これまでこの森に挑んだ冒険者達が魔法士同伴にも関わらず、ことごとく失敗を喫したのか?

「この森の罠には随分と手が加えてありました。しかも一筋縄ではゆかない独創的で手の込んだものがです。ここの管理人はただ者ではなさそうですよ」

「管理人?」

「ええ。先程も言いかけたのですが、シルバーライトには森の状況を理解し、その安全を守る責を負った管理人が派遣されるのです」

「それじゃあ、今回の騒動の犯人は?」

「おそらく、このこの森の管理人でしょうね。秘法石を盗んだ目的は分かりませんが・・・」

「なんにせよ・・・ここでようやく一休みできるってわけだ」

 そう言うなりガッシュガードはひとつ息を吐くと手近な岩に腰を下ろす。

 森に入ってから今まで、彼はただひたすらリイロイクスの足跡をたどり続けてきた。全ての神経を集中し、一歩も踏み外せない緊張の連続。体力自慢のガッシュガードだったが、精神力となると勝手が異なる。かなり大きな消耗を強いられることとなった。

 一方、リイロイクスはというと、こちらは休息よりも好奇心が勝った。興味深げに周囲を観察し始める。シルバーライトの中に入ろうと思えばいつでも入ることのできる彼だが、見る物全てが珍しいらしい様子である。

 もっとも、二人とも周囲の危険に気を配ることは忘れなかったが・・・

「ところでリイロ」

「はい?」

「俺達より先にこの森に入った冒険者達はどうなったんだ?これまでのところ影も形も見えないが・・・」

「そうですね。普通この手の森に使われている罠というのは侵入者に同じ場所を際限なく回らせたり、空間を繋げた別の離れた場所に送ってしまったりするものがよく使われるのですが・・・最初こそおぼろげにあった冒険者達の痕跡も途中からは無くなってしまいました。その事を考えると・・・後者の線が濃厚でしょうね。でも・・・

「でも?」

 リイロイクスは周囲を見渡し、考えをまとめる間を一拍取ってから話を続ける。

「もし、その手の魔法が使用されたのなら現場に何らかの魔力の痕跡が残るのですよ。しかし、私にはこの森からはそんな痕跡を一切見て取ることができないのです」

「となると・・・物理的に何処かへ運ばれたって線は?」

「しかし、行方不明になっている冒険者の数は二十名近くにのぼります。それだけの人数を物理的に運ぶというのは容易ではありません」

「冒険者達も無抵抗じゃ・・・」

「・・・どうかしたのですか、ガッシュ?」

 不意に緊張した面持ちで立ち上がったガッシュガードを見て、リイロイクスも身構える。休憩中とはいえ周囲への警戒を怠っていた訳ではない。敵意や害意といった負の感情はガッシュガードよりリイロイクスの方が先に察知できる。

 リイロイクスはあらためて神経を集中してみたが・・・やはりそれらしい気配を感じることはできなかった。

 戸惑いの表情を浮かべるリイロイクスの前で、ガッシュガードは素早く戦闘態勢に移行した。長剣を抜刀すると隙なく身構える。

「リイロ、行方不明の冒険者達は、まだこの森の中にいる。しかも、すぐ近くだ。生死は・・・不明だが、な」

 ガッシュガードは視線で示して見せた。

「上?」

 ガッシュガードが目配せした先を見て、リイロイクスは言葉を失った。

 地上の苔が放つ光が闇に溶け始める頭上高くに、数十名の冒険者達の姿があった。いずれも武装したの男女は枝葉の天蓋から伸びる蔦で足首を縛られ、逆さ吊りにされていた。誰一人として身じろぎ一つしない。淡い光の中であってもその表情に血の気がなく死人めいているのは確かだった。整然と横一線に並べられた姿は、誇らしげに飾られたトロフィーを連想させた。

「愚かなる人間どもよ。この森から即刻出てゆくがいい。さもなくばお前達も彼の者達と同じ末路を辿ることになるだろう」

 地から沸き上がるような低く威圧的な声が森の静寂を掻き乱した。空間を満たしていた光は翳り、世界は不気味な薄暗がりへと一変した。どこからか吹き込み始めた冷ややかな風が、枝葉を激しく揺らしざわめかせる。そんな中を気配はゆっくりとだが着実に迫ってきた。足音は地を揺るがせ、森を震わせる。

「ガッシュ、気を付けて下さい。何かがこちらへと急速に近づいてきます!」

 言われるまでもなかった。

 地面を揺るがせ、巨大な足音が急速に近づいてくるのが分かる。

「らしいな。目には見えないが・・・向こうからお出ましとは捜す手間が省けて、こちらとしては好都合だ!」

 闇を切り裂いて巨岩が次々と飛来した。大人の頭、十個くらいの大きさはある。当たればもちろん命はない。それらを軽快にガッシュガードは回避する。見えなくても気配さえ感じ取れれば攻撃に転じる事はできる。足音からは間もなくその機会が訪れるはずだ。ガッシュガードは粘り強く好機の到来を待つ。

 一方でリイロイクスは素早く戦闘区域から距離を取ると、すかさず呪文を唱え探索の魔法を発動させる。無数の魔法の触手が全周囲に放たれ、未だ見えない敵を探しだし、その姿を分析、位置を特定する。

「こ、これは?」

 魔法の結果にリイロイクスは複雑な表情になる。確認のため再度魔法を行使するが導き出された結果は変わらなかった。思いがけないその正体に困惑を隠せない様子のリイロイクスは意見を求めるように魔法による念話を飛ばす。一方通行の短い会話だが戦闘中など、状況によっては有効に意思を伝えることができる。

 しかし、ガッシュガードはというと、相棒の相談に応える余裕がまったくといっていいほどなかった。

 何故か目の敵にされたかのように彼一人だけに攻撃が集中され、無数の岩は湧いて出るように次々と飛来し、息を吐く暇もなかったからだ。しかも岩の大きさは刻々と大きさを増し続け、さらに足音はいまだ着実に近づいてくるのに、その姿は一向に現れない。

「リ、リイロ。暢気に・・・見てないで・・・な、何とかして、くれ!!」

 もはやガッシュガードは軽快なフットワークで回避するのではなく、必死に走り回って逃げるような有様だった。

 だが、そんな彼が相棒に助けを求められたのは、増し続ける岩の大きさに比例して、攻撃の間隔が長くなった為である。さすがに大人の背丈もある巨岩を矢継ぎ早に放つことは無理なのか、一瞬溜めるような間が必要になったらしい。

 それでも苛烈な攻撃にはかわりなく、ガッシュガード防戦一方で逃げ続ける。足音は相変わらず急速に近付いて来るが・・・やはり、その姿は一向に見えない。

「ガッシュ、反撃に転じる前に先に言っておきたいことがあります!敵は・・・」

 以降のリイロイクスの言葉は、再び魔法による念話でガッシュガードに送られた。

 今度は無事に受け取れたらしい。

「・・・なるほど」

 一瞬で全てをガッシュガードは理解した。

 これまでの不可解な現象も、これで説明が付く。

「いきますよ、ガッシュ!」

 リイロイクスの言葉と同時に空を飛ぶ巨岩は砕け散った。太鼓を打ち鳴らしたかのような低い音がひとつ大気を震わせたかと思うと、岩はまるで巨大な手に握りつぶされたかのように破砕された。

 リイロイクスによって放たれた攻撃魔法は一瞬の内に硬質な岩石を脆い砂糖菓子の様に粉々にする。

 ガッシュガードは鋭く身を翻すと粉塵の靄を突き破り、見えない敵へと一気に肉薄する。位置はリイロイクスから送られた魔法の念波によって分かっている。瞬く間に敵へと肉薄したガッシュガードは躊躇なく、しかし、明らかに手加減をして軽く左手を振った。

「ふぎゃっ!?」

 潰れたような無様な悲鳴がして、何かが落下し、苔むした地面の上を転がった。音から察するに二転三転してようやく勢いが止まったらしいそれは、最初こそ見えなかったが、ほどなく背景から滲み出るように姿を現した。うつぶせに地面に張り付き、ピクピクと痙攣するその背中には二枚の真っ白な翼が生えている。

 リイロイクスは翼をソッと揃えて摘むと小さな身体を持ち上げた。

「どうやら彼女が今回の騒動の張本人のようですね」

「妖精、か?」

 ガッシュガードは手のひらサイズの小さな女性を妙に警戒しつつ観察する。

 顔立ちは卵形で整っているが大きめの目のせいかやや幼い印象を受けた。緩く波打った髪は藍色でそれを髪を肩まで伸ばしている。手足はすらりと伸び体付きは華奢だ。どちらかといえば衣服を嫌い肌の露出を好む妖精達だが、目の前の彼女は若草色を基調にした袖のないベストにミニスカートを着込み、足下は軽くヒールの入った踝までのブーツで固めている。その姿は何かしらの職業の制服姿をガッシュガード達に想起させた。

「妖精に会うのは久しぶりだな。最後に会ったのはいつだ?昔、子供の頃は森に遊びに出かけると結構良く会ったりしたが・・・」

「魔力の衰退の影響で彼女らも昔に比べると随分と数が減ってしまいましたからね。最近はほとんど姿を見なくなってしまいました。あ、気が付いたようですよ」

 ゆっくりと大きな瞳が見開かれる。まだ意識がはっきりとしないのだろう。その視線はあてどなく虚空を彷徨った。二度、三度、ガッシュガードとリイロイクスの姿を映しては行き過ぎる。

 しかし、霞んだ瞳は意識の覚醒と同時に急速に澄んだ青い輝きを取り戻し始めた。

 おそらく自分の身に何が起こり、今どのような状態にあるのかを、まだ正確に理解できてはいないだろう。

 だが、背中の羽を押さえられ身動きのとれないという現実から、身の危険はひしひし感じているらしい。華奢な手足を懸命に振り回して抵抗を試みる。それでも状況が打開できないと判断するや、文字どおりの口撃に移行した。

 愛らしい小さな口から飛び出したのは表記に困る罵詈雑言オンパレードだった。

「ぬぅぉぉぉぉっ、はーなーせー。この○×△野郎共。さもなくばあたしの魔法の力でお前らの?を?して●●●したあげく▲▲▲してやるぅ。さらに親友のあくどい魔女を呼び寄せて二人してお前らの◇◇◇◇◇を▲▲▲▲▲して◎◎◎◎したあげく▽▽▽▽して、あまつさえ×××を■■■■したりするような酷いことをしてやるんだからぁ。それからさらに知人の精霊達を大勢読んであんた達の◎◎◎◎に◇◇◇◇◇を▲▲▲▲▲して〜・・・うわっ!?」

 不意に妖精は口を噤んだ。

 相棒に許可を求めたリイロイクスが無言の了承を受け取ると同時に、翼を捕まえていた指を唐突に離したからだ。戒めを解かれた妖精は落下したのも一瞬、すぐに翼を羽ばたかせて空に舞い上がる。

 そのまま身を翻して逃走に移るかと思われたが、そうはせず、素早く距離を取ると遠巻きに冒険者二人組を観察し始めた。不可解な行動をとった黒髪長身の剣士と銀髪美形の魔法士に少なからぬ興味を覚えたらしい。

「アナタ達・・・何者?」

 こちらを遠巻きにしながら恐る恐る訊いてくる妖精に、ガッシュガードは剣を収めて敵意がないことを示してみせる。

「別に取って食いやしないよ」

「我々は例の物を返してもらいに来ただけです」

 こちらも杖を下げてリイロイクスが穏やかに語りかける。

「例の物?」

 妖精は愛らしく、しかし、不思議そうに小首を傾げて見せた。しばらく考えてから頭上を指さしてみせる。

「アレのこと?」

 二人して小さな指の先を追ったガッシュガードとリイロイクスは、その先にあったものを確認すると、複雑な表情を浮かべて顔を見合わせた。妖精が指さした先にあったのは、この森に挑んで戻らなかった冒険者達だった。皆傷だらけの満身創痍。中には手足が不自然に曲がっている者も混じっている。かなりこっぴどくやられたらしい。いずれも生死不明のまま、土気色の顔に悲壮な表情を浮かべて吊り下げられていた。

「いや、まあ・・・アレも返して貰わなければならないんだが、この場合はちょっと違うな。と言うか・・・」

 まず最初にこのことを確認するべきだったと後悔しつつ、ガッシュガードは妖精に確認する。

「連中は生きてるんだろうな?」

「うん。仮死状態にしてあるだけで死んではいないわよ」

「もちろん、元に戻せますよね?」

 リイロイクスの質問に妖精は頷く。

「もちろん。と言うか、アナタ達が帰る時に一緒に連れて帰って。いつまでもここに置いとけないから」

 冒険者二人組は揃って安堵の吐息を吐く。

「了解しました。責任を持って引き取らせてもらいますよ」

 話が一段落したのでガッシュガードは話を元に戻すことにする。

「俺達が言ってるのは上にぶら下がってる冒険者達じゃない。巨大な秘法石のことだ。お前が盗み出したそれを俺達は取り返しに来た。素直に返すのも良し。さもなくば実力行使で取り戻すまでだ」

 一度は収めた片刃の長剣をガッシュガードは再び抜き放つ。軽く反った刀身は磨き抜かれ、危険な光を宿し、目にした者の背筋を凍りつかせる。さらにその切っ先と、その使い手の眼差しの鋭利さには、切り結ぶまでもなくに手練れの同業者達を後退らせる威力が籠もっていた。一瞬の均衡の喪失が白刃の輝きと斬撃の唸りを生む剣呑な状況。周囲の気温が一気に数度も下がったかのような錯覚を覚える。

 だが、そんな手練れの冒険者すら身を竦ませる鬼気とした空気も妖精をたじろがせる事はできなかった。

 森の力に絶対的な自信があるのか、それとも単に彼女の気質なのか、妖精には危機感が微塵もない。それどころか何やら不思議そうな表情を浮かべて、冒険者二人組を見比べている。

 妖精が不意に思いがけない事を話始めたのは、そんな対峙がしばし続いた後のことである。

「・・・アレは盗んだんじゃないわよ。返してもらったの。約束どおりにね。むしろ、約束を破ったのは人間の方なんだけどけどな。だから、『返してもらった』と言うよりは『取り戻した』と言う方が正確かも」 

「どういうことだ?」

 ガッシュガードの問いは妖精にではなく相棒へと向けられた。

 しかし、当事者ならぬリイロイクスに事情など分かるはずもなく、小さく肩を竦めるほかない。

「ガッシュ、とりあえず剣を収めませんか?あと、妖精さんも詳しく事情を話してください。我々が聞かされている話と根本的に相違があるようです」

「そうね。お互い知っている事を出し合って情報交換といきましょ」

「やれやれ、単純な力仕事かと思いきや、面倒な頭脳労働になりそうだ」

 ガッシュガードは嘆息混じりにぼやきつつ、相棒の提案に従い再び剣を鞘に収めるのだった。

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