42話 手当

「打撲だとは思うけど、病院行った方がいいね。ヒビとか入ってるかもしれないし」

 保健室の先生は端的に評価した。私の手は湿布だらけになっていた。オージーザス。

「で、君はぶつけた程度だと思うよ」

 奴はそう言われながら、ほっぺたに小さな湿布を一枚貼られていた。なんか、奴の方がダメージ負ってなくね?普通、逆だろ。

「慣れないことするからよー」

 先生は手当した際に出たゴミを捨てながら、私が脳内で考えてたことのレスポンスをするかのように、そう言った。先生はエスパーか何かなんだろうか。

「はい。じゃあ、生徒指導部行ってらっしゃい」

 先生はやるべきことを終えると、私たちを送り出した。部屋に出る前は逃げようかとも思ったが、そんな雑念は、出た後待ち構えてた生徒指導部の「浜田」先生の顔を見てすぐさま放り投げられた。背筋がぴしっと伸びた。担任の先生もいたけど、そっちは顔が死んでた。毎朝の挨拶は空元気だったわけか。

「先生、終わりました」

「よし、じゃあ行くかあ」

 担任の気の抜けたような声が帰ってきた。すみません、余計な仕事を増やしてしまって。だけど、あからさまにため息はつかないでください。

「全く、またお前か」

 浜田先生は奴を詰った。奴は無視をこいていた。

「来年こそ、俺が受け持ってやるからな」

 またもや、奴は無視。浜田先生は慣れっこのようだ。にしても、浜田先生のクラスは正直…お断りである。先生自身が厳しいのもそうだし、熱血だし、何かと問題のある生徒を多く受け持っている印象だ。私も今回を機に、来年浜田先生のお世話にならないよう、なんとか事を穏便に済ませたかった。そして、おそらく、「事を穏便に済ませたい」という思いが合致している担任の先生と、私は目を合わせあい、その場限りのファインプレーを見せあおうと誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る