35話 友達でいてくれてありがとう

「今まで通りでいよう」

「…へ?」

 身構えた私の緊張は徐々に解けていった。

「俺…、いや辻も含めた俺たちはさっき食事しながら思ったんだ。この関係性が崩れるのは嫌だなって。例え、自分の感情をセーブすることになったとしても」

 辻はうんうんと頷いていた。私はどうしたらいいかわからず、あたふたしていた。

「勿論、友達として接するのはこれまでより難しいかもしれない。でも、それは俺たちがどうにかするしかない。だから、波や南はこれまで通り接してくれたらいいから」

「そんな、でも」

「ええい!うるせい!」

 米屋はそう言って、机をバンと叩いた。アルコールランプの炎が大きく揺れた。

「この関係性が崩れてまでも、俺も自分の感情を優先したくない。恋愛的に好きだけど、それ以上に俺たちは友達だろ?」

 辻は言った。

「じゃあ、今まで通りってことだね」

 南が言うと、米屋と辻は頷いた。

「そ、それでいいの?」

「ああ」

 彼らは覚悟は決まったというような顔をしていた。

「あ、あとで駄々捏ねたりしない!?」

「おう」

 拍子抜けだ。こんな簡単に決まっていいのだろうか。

「…後悔しない?」

「おう」

 どうすればいいんだろう。あまりにも、私たちの関係を汲んだ考えだった。これでいいのだろうか。でも、本人たちがいいと言っているのなら、それを尊重したいとも思った。彼らは優しくて、強い。

「友達でいてくれてありがとう」

 私は真摯に言った。泣きそうだった。私は悟られないように干し芋を口に詰め込んだ。

「あ!ちょっと!私の干し芋!残しておいたのに!」

 南はプンプンに怒っていた。

「ご、ごめ…」

「いや、俺たち一個も干し芋食ってねえぞ。独り占めすんな!」

 私が謝るのを米屋は遮り、主張した。

「私が買ってきたんだから、私が全部食べるのは当たり前でしょ!?干し芋高いんだからね!?」

「そんな横暴な!」

 辻も参戦した。皆、食べ物に目がないな。

「そういえば、今何時?」

 なんとか干し芋を取り返した南は聞いた。確かに、ここにきてから結構な時間が過ぎている気がする。

「え?えーと、20時半…」

 一瞬の沈黙があった。皆一斉に顔が青ざめる。

「もう学校閉まってるじゃん!」

「また閉じ込められるやんけ」

「それだけは勘弁!出よ!」

「待て!アルコールランプ片付けろ!」

 私たちはドタバタで後片付けをし、部室を出た。警備員の目を掻い潜り、校門をよじ登ったのはここだけの秘密である。

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