8話 七不思議が繋げた縁
事の経緯はというと、私がトリオに付いて行くところまでに遡る。
「これってどこに向かってるんですかね」
見るからにどんどん人気が少ないところに連れて行かれている。そして、歩くこと数分、目的地は、今はあまり使われていない旧校舎だった。てっきり、体育館裏に呼び出されるのかと思っていた私は予想を裏切られた。
旧校舎内の2階に行き、暫く廊下を歩くと、ボブがここと言って指を指した。実験準備室と書かれていた。
ボブがドアを開けると、おそらく実験に使うであろう薬品の匂いが漂ってきた。中を覗き見ると、そこは案外広そうだった。
私は中の様子に気を取られていて、トリオの存在を一瞬忘れていた。後ろを振り向くと、トリオが並んで立っていた。すると、次の瞬間、トリオたちは手で勢いよく私の体を押した。私はバランスを崩して、床に倒れた。
「何するんだ…」
よ。その一言を言う前に、ドアが閉まり、カチャカチャという音がなった。おそらく鍵をかけられた。私は、すぐ立ち上がって、ドアを開けようとしたが、それはびくともしなかった。
終わった。
私は暫く声を張り上げ、助けを求めていたが、やがてそれは無駄なことに気づいた。そして、私は己の危機管理能力の無さにイライラしていた。嫌な予感はしてたんだけどね。まさか、初対面で閉じ込められるとは思わないだろう。
私は一旦、また室内を見物し始めた。カタカナで長ったらしい名前で色々書いてある物品に特別興味はそそられなかった。
中をまっすぐ進んでいくと、突き当たり左角に曲がれた。私はそこを曲がろうとした時、心臓が止まりそうになった。人がいる。
「ひああ!」
私は間抜けな声をあげ、体を仰け反った。そこには男子生徒がカメラを使って、室内を撮影していた。びっくりしたぁ。
「静かにしてくれ」
「す、すいません」
反射で謝ってしまった。いや、待てよ。私悪くなくね?いるなら、いるって言ってくれ!
「あの、何してるんですか?」
私が質問すると、彼は待ってましたと言うように説明した。
「七不思議の1つである旧校舎のうめき声について検証しているんだ」
「七不思議があるんですか!?」
うちの学校に??なにそれ気になる。いやいや。興味はあるが、今はそれどころじゃない。というか、それ本当だったらめっちゃ怖いんですけど。一刻もここから早く出なければ、幽霊の餌食になるってことでしょ。それに、七不思議があるこんな場所、絶対誰も寄りつかないじゃん。ジーザス。
「有名だぞ。知らんのか」
「知りませんでした。というか、私たちここに閉じ込められたんです。早くここから出ないと死にますよ!」
私は必死に訴えかけた。
「閉じ込められたのは、さっきお前が散々騒いでいたから知っている。まあ、俺は死んだとしても、未練はない。それに死後の世界も興味あるからな」
なんでそんなに冷静なんだよ。閉じ込められてんだぞ。私はこんなところで死にたくない。それにこんな奴と一緒に野垂れ死ぬなんて嫌だ!
私は思い立って、窓からの脱出を試みるべく、それを開けようとしたが、長年使われていないせいでゴミが溜まっているのか滑りが悪く、隙間程度しか開かなかった。これは無理だ。そうだ。スマホがあるじゃん。スカートのポケットを探ったが見当たらない。しまった。カバンの中か。
「おい。落ち着けよ。夜まで待て。おそらく、警備員が巡回し出すからそこで助けを呼ぼう」
「夜まで!?」
私は夜まで閉じ込められ続けるよりも、こいつと夜まで一緒に過ごさなきゃいけない方が嫌だった。これ、少女漫画だったら、密室に男子と2人っきり!ドキドキ!なのだろうが、そんなときめきは1ミクロンも感じなかった。悲しいが、この現状は変わらない。私は諦めて、床に座った。彼はそんな私を横目に見ながら、検証の作業を続けた。
「検証ってどうやってやるんですか?」
私は暇になって、話しかけた。不機嫌そうだったが、幸い、こういったホラーの話をするのは嫌がらなかったためよかった。脱出するまで、ずっと黙っていたら居心地が悪すぎるしね。
彼が説明した検証のやり方は、ホラーに対して無知な私にとって、理解が難しかった。だからといって、退屈というわけでもなかった。むしろ、関心が湧いた。
「うまく検証できたらいいですね」
検証がうまく行くということは怖い思いをすることに直結するのだと思うが、彼の頑張りを見ていると、良い結果になってほしいといつのまにか願っていた。
「これ検証してどうするんですか?ネットに投稿するとか?」
彼は首を横に振った。
「新入生歓迎会の時に部活動紹介があるだろ?その時に見せるんだ。それで、興味を持ってもらって、新入部員を増やす。部活存続の危機なんだ」
「大変ですね。何の部活ですか?」
「ホラー研究部だ」
名前は何となく聞いたことがある。しかし、実態はよく知らない。
「よかったらどうだ?」
「考えておきます」
興味はあるが、保留にしておく。何せ実態がわからないからな。
「何人入れば、存続できるんですか?」
「5人だ。入らなければ、来年で廃部だ」
彼は顔を曇らせた。先ほど、私にホラー話をしている時の活き活きした顔とは大違いだった。
「大丈夫ですよ。なんとかなりますって」
「だといいんだがな」
彼との会話にひと段落つけると、何やら窓の隙間から放送音が漏れていることに私たちは気づいた。話に夢中で気づかなかった。何か喋っている。しかも、聞き馴染みのある声だ。私たちは、わずかに聞こえる放送に耳を傾けた。
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