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き、き、昨日と同じパターンなんだが!?
今仲は走りながら胸の内で叫ぶ。
いや、違う。昨日と同じではない。
なぜなら、昨日は敵の超能力者は1人、今日は2人だからだ。
つまり今日の方がやばい。
今仲は必死で生き延びる道を考える。
ここはもう、“あの人”の助けを借りるしかないのかもしれない。全て白状して、どんな罰でも受け入れて、守って下さいと懇願するしかないのかもしれない。
でもそのためには、この場から離脱しなければならない。
今俺の後ろにいるデカい女から逃げるだけじゃだめだ。
じきにアユミと呼ばれたバーテンダーも来るだろう。
あいつに捕まったら、それこそ廃人にされて一巻の終わりだ。
後ろに迫るデカい女の“気配”を感じる。
くそつ、くそっ。
まずはこいつをどうにかしないと……。
不揃いな形をした屋根を乗り越えて、飛び降りた先は奥まった空間だった。狭い通り道はあるが、四方向を建物に囲まれている。どの建物もシャッターを下ろしていて、そのあちこちにBボーイ崩れか何かが描きなぐったようなタギングが残る。地面にはガラクタが雑然と転がされている。
どの方向に逃げるか一瞬悩んだその時、後ろに奴が着地した。
今仲はデカい女の方に向き直る。
もう逃げられないと悟った。
どの方向に走っても、すぐに後ろから掴まれて引き倒されるだろう。
それならまだ、勝負に出た方がましだ。
足元に倒れている錆びてバラバラになったバリケードから、単管パイプを取り出し、震える手で構える。
本当に逃げられない。背水の陣だ。
男を追い詰めたサラは、これまで以上に慎重になる。
昨日のような失敗はもうごめんだ。
目線を合わさないように、男の足を視野の中心に持ってくる。
アユミに言われたことを思い出す。
——あいつの目を見ないで。
わざわざ教えてもらわなくてもわかってるし、そんなこと。
ていうか、アユミもこいつの〈催眠〉能力を知ってたってこと?
じゃあ昨日のあれは何だったの?
こいつをブチのめした後で、アユミから全部聞き出してやる。
男は手にした鉄パイプを後ろに引き、力を溜める。
それから、まるで木の枝でも振るような、鉄の重さを感じさせない速さで振り抜く。
〈身体強化〉を使っているのだろう。
風を切る音を立てて左右に振り回すが、間合いが全然遠く、サラには一切届いていない。
サラは左足を前に出し、オーソドックスで構えると、細かくステップを刻みながら踏み込むタイミングを狙う。
足元しか見ていないのに、男の動きが手に取るようにわかる。
目が暗闇に順応し、明かりのない空き地でも見えるようになったからか。
いや。それだけじゃない。
どこに何が存在しているかが“濃淡”として感じ取れる。
まるで、自らを囲む“空間そのもの”を認識しているような感覚だ。
それはモノクロの映像に似ているが、視覚ではない。
嗅覚にも近い気がするが、もっと方向や距離がはっきりわかる。
試しに目を閉じてみる。
やっぱりわかる——周りの状況も、男の動きも。
これも超能力の一種なんだ、とサラは気づく。
よし。この“力”を使って、こいつを制圧する。
男がサラの左こめかみに向かって鉄パイプを振る。
サラはそれをスウェイバックで躱す。
鉄パイプが鼻先を掠め、顔に風を感じる。
次の瞬間、男に向かって大きく踏み込む。
男は鉄パイプを返し、サラの右脇腹に向けてなぎ払おうとするが、その鉄パイプの手元をサラは掴み、抑える。
男と力比べの形になる。
——逃がさない。
サラは掴んだ鉄パイプを押し上げ、隙のできたボディを狙う。
体幹を反らし、そのバネを使って左足を振り上げ、中足を腹に叩き込む。
空手をやっていた頃の得意技、三日月蹴りだ。この蹴りはレバーの急所を狙うことが多いが、サラはそれに拘らない——試合でレバーを狙い、ガードされ、足を怪我したことがある——代わりに、ガードしにくい場所を狙うようにしていた。ボディーに当たりさえすれば、急所じゃなくてもダメージを与えられるからだ。
サラが放った蹴りは少し狙いを外れ、ズボンのベルトの上あたりに当たった。
それでも、男の戦意を奪うには十分だった。
「うぎっ」男は呻き声を上げ、鉄パイプから手を離し、その場に蹲った。
鉄パイプを投げ捨て、サラは息をつく。
ふう。何とかなった。
「やるじゃん、サラ」
後ろでアユミの声がした。
気づかない間に、こっちに来ていたのか。
「アユミ……そっちはどうなったの?」
「5人とも昏倒させた。これから数日間は動けないし、今日の記憶も戻らない」
「そっか……そうすれば、私たちのこともすっかり忘れてると」
「そうそう……サラ、どうして目を瞑ってるの?」
「あれっ?」
サラは自分が目を閉じていたことを忘れていた。
それくらい、〈空間認識〉で周りの状況を把握することに違和感がなかった。
目の前に蹲っている男がいる。さっきと同じ姿勢のまま動かない。
アユミが言ってたことが事実なら、こいつは女性に睡眠薬を盛ろうとした最低男だ。
「アユミ、こいつどうするの?」
「少し話してから考える」
アユミは男の前に立つ。
サラは、男の運命が完全に掌握されたのを感じる。
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