第32話
地上に出れば、そこは異国の雰囲気の色が溢れた空間に美味しそうな匂いが漂っている。
露店には中華まんやゴマ団子に甘栗などの食べ物が並び、お土産屋さんもちらほら見かける。
ふたりで人混みの中をあちこち見ながら歩く。
繋いだ手はしっかりそのままに、そして調べてクチコミの良かった中華食べ放題のお店にたどり着いた。
お昼少し前のお店は少し人が並んでいるので、私達もその列に並ぶ。
「すごく美味しそうな匂いがするね」
「そうだな、クチコミ見てきて正解だな」
待つ間は次にどこに行こうかこの辺りを調べているうちに順番になり、お店に入る。
食べ放題でリーズナブルな価格だけれど、味は本格的で美味しいというネットのクチコミ通り。
エビチリも麻婆豆腐も油淋鶏も美味しいし、揚げパンも、ゴマ団子も杏仁豆腐も美味しい。
デザートも食事も美味しくて、色んなものを少しずつたくさん食べた。
要くんが取ってきてくれたのから少しづつ貰って食べて、要くんはそれを全部食べていく。
男の子の食事量ってやっぱりすごくて、要くんは結構な量をとても美味しそうに食べていた。
私もゴマ団子はおかわりしてしまった。
ゴマの風味と餡子が絶妙で気に入ってしまったのだ。
お昼を満足いくまで食べたあとは、中華街をブラブラと歩きお店を見てみたりしながら元町の方へと足を向ける。
元町へと来ると雰囲気は変わり、大人っぽい落ち着いてオシャレな雰囲気が強い。
そこらを歩き回るうちに、私達は神社を見つけた。
「あ、神社だ」
「日菜子と蒼に頼まれてたな。寄ってみようか?」
「うん!」
脇道から見えた赤の鳥居を目指し、ふたりで歩いていくと神社があった。
街中にあるのに一本細道を入っただけで、少し空気が違う感じだ。
「やっぱり神社って雰囲気があるね」
「そうだな」
そうして、お参りの仕方に習いしっかりとお参りを済ませると社務所によって学業のお守りを買った。
日菜子と蒼くんへのお土産だ。
その後は、この辺りで大きいショッピングモールを目指しそこでウィンドウショッピング。
靴を見たり、服を見たり。
アクセサリーやカバンを見たり。
そんな中で、お財布やポーチなども扱うアクセサリーショップをふたりで見ていた時に要くんがあるものをひとつ手にしていたので気になって見ると、それはシンプルなシルバーのリング。
「気になるの?」
あまりにも手にして眺めているので聞いてみたら、要くんは私を見てこう言った。
「これ、お揃いで買うとか言ったら気が早いと思う?」
要くんは私に聞きながら少し表情が固い。
緊張しているのだろう事がうかがえる。
「お揃いで持つの?」
「うん、そんなに高くないけれど。有紗とお揃いのものが欲しいなって思って……」
要くんは、私の返事を待っている。
「私も、お揃いの物欲しい」
私の返事にホッとした顔をする要くんに、繋いでいた手をキュッと握るとリングの並ぶスペースを一緒に見る。
ふたりでアレでもない、これでもないなんて見ているとお店のお姉さんが声を掛けてくれた。
「可愛らしいカップルさんだね! 少し幅がある物選んでくれれば今日は混んでないからすぐ刻印してあげるよ。うちで買ってくれたものなら刻印無料だから、どう?」
そのお姉さんの提案に私と要くんは顔を合わせて微笑むと、お姉さんに返事をした。
「それ、お願いしたいです!」
「OK!じゃあ選んでね」
そうして、あれこれ悩んでいた中から幅が広めのシンプルなシルバーのリングを選ぶ。
レジに持っていくと、お姉さんが対応してくれて彫る文字をどうするかと聞かれた。
すると、要くんは決めていたのかすんなりと答えた。
「大きい方にはA to Kそれと今日の日付を、小さい方にはK to Aと今日の日付でお願いできますか?」
それにお姉さんは素敵な笑顔で答えてくれた。
「かしこまりました。十分ほどで仕上がりますので店内でお待ち下さい」
そうして待つこと十分。
お姉さんから声がかかり品物を受け取ってお店をあとにした。
私もお金を出そうとしたけれど、要くんに止められた。
「今回は付き合った初めてのデートの記念も込めて俺が有紗にプレゼントしたいんだ。だから、ここは俺に出させて」
その言葉が嬉しくて、今回は買ってもらうことにした。
初めてのデートで初めてのプレゼント。
一緒に選んだお揃いのリング。
嬉しくて、自然と口元がゆるんでしまう。
それは要くんも同じみたいで、ふたりしてなんだかおかしくなってきて笑ってしまった。
ショッピングモールを出ると今日の最後の目的地。
遊園地へと向かう。
ふたりでデートコースをあれこれ悩んだ時に、ふたりしてデートの王道って観覧車? ってなったのでここに決めた。
遊園地に着くとお互い入園料を払い、観覧車の料金を払って乗る。
楽しい時間を過ごして、辺りは夕日が眩しい時間になっている。
これに乗り終わったら今日は帰る予定だ。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「有紗、これ着けていい?」
要くんが手にしているのは、さっき選んで買ってきたリング。
「うん」
私が答えると、要くんは右手の薬指に嵌めてくれた。
「私も要くんに着けていい?」
「いいよ」
ニッコリ笑ってくれた要くんに、私も要くんの右手の薬指にリングを嵌めた。
「有紗、今はお互い右手に着けたけど、いつかちゃんと大人になった時これよりしっかりしたのを左手に贈りたいと思ってる。それくらい本気で好きだから、それを忘れないで」
その真剣な顔と言葉に私は胸がいっぱいで、苦しいくらいに嬉しくて、なんとか口を開いて返事を返す。
「ありがとう。私も要くんが大好きだよ」
私の答えに微笑むと、要くんの顔が近づいてきた。
観覧車が天辺に来る頃、私達は初めてのキスをした。
温かくて、甘くて胸がいっぱいでとても幸せだと感じた。
「なんか、照れるな……」
「うん……。でも嬉しいよ」
私が素直に返事をすると、少し困った顔になった要くんは私の頬を撫でて手を当てると言った。
「有紗、可愛すぎだろ! 本当にまいる……、好きすぎて」
そんな言葉を口にして、もう一度キスをすると自然に微笑みあって二度三度とキスを続け、地上に近くなり降りる頃には自然と手を繋ぎふたりで帰り道を歩き出した。
ふたりの右手薬指にそれぞれ真新しい、輝くリングをつけて。
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