第26話
「先生に頼まれた一学期の中間だけでなく、その後は期末、二学期中間と毎回テスト対策ノート作ってくれてるし」
「部活で忙しいと言えば、なにかしらの差し入れ持ってきてくれて。しかもそれが大体私の好物だし!」
「俺は英語だけ苦手だけど結局全教科まとめノート作ってくれてるよな?」
三人に言われると確かにそんな感じだけれど。
「お節介過ぎた?」
「いや、めっちゃ助かってて。むしろ今後もお願いしたいくらい」
揃っての返事に聞いてた茜は、クスクス笑い出した。
「末っ子のはずなのに、この面倒みの良さはなんでだろうね?」
そんな茜の言葉に三人は顔を見合わせつつ、蒼くんが言った。
「もう、有紗ちゃんは天性の世話焼きなんだと思う」
蒼くんのこの、最後の一言にはずっと聞いていたクラスメイト達も大いにうなずいていた。
そんなことないと思うんだけれどな。
ぼんやりと思っていたのだけれど、そんな私をクラスのみんなと日菜子達はニコニコと微笑ましげに見ているのだった。
こうして、和やかに準備しつつ迎えた金曜日。
今日はプレ文化祭で、校内の生徒のみで楽しむ日だ。
私はクラスの和風喫茶と、家庭科部の両方に顔を出すから意外と忙しくバタバタしている。
「当番交代ね! なにかあったら電話して! クラスの方にいるから」
そう告げて家庭科部の販売スペースから慌ただしく移動する。
四階の家庭科室から三階の三年生の教室の並ぶフロアへ移動すべく階段を降りていた矢先、私はクラっと一瞬歪んだ視界から足を踏み外して階段の真ん中辺りから落ちていく。
まずいと思って腕を手すりに伸ばすも届かない。
身体が反転して背中から落ちていく。
「有紗!!」
私を呼ぶ声がして、ドン! とぶつかった先は床ではなかった。
「っって、大丈夫か! どっか打ってないか?!」
私がぶつかった先、それは要くんだった。
なんでここに居るの? そう思いつつも、ビックリして固まってしまう。
「有紗! 有紗! どっか痛いのか?! 保健室か!」
そう言うなり今度は抱きかかえられそうになり、慌てて声を出した。
「ごめん、大丈夫! ビックリしすぎてただけで、痛い所はないよ。それより、私がぶつかっちゃった要くんは大丈夫?」
勢い込んで聞いてきた私に、大きく息を吐いて要くんがギューって抱きしめてくる。
「もうすぐ喫茶店の方の当番だから、迎えに行こうと向かってたら階段から有紗が落ちてくるところで。本当にびっくりした……」
私を抱きしめるその手は、微かに震えていた。
「間に合ってよかった。有紗、今日はこれからは一緒に行動するから!」
その言葉には強い意志と力があって、私はうなずいて答えるしかなかった。
クラスに着くと、休憩に入る子達と店番を交代する。
着替えるのも面倒で今日は既に浴衣を着ていて、その姿で家庭科部の店番もしていた。
なので、ここに来て身につけるのは自分で作ったカフェエプロンだけ。
それを身につけると、私は控えのスペースから店のスペースへと移動して接客を始めた。
「いらっしゃいませ。和風喫茶へようこそ。お客様は二名様でよろしいですか?」
「はい、ふたりです」
「ただいまご案内します」
空いてる席へと案内して、メニューを置いてご案内。
「こちらが当店のメニューになります。お好きなお菓子と飲み物をお選びください。決まりましたらお声をかけてくだい」
席を離れて、オーダーの準備スペースへ。
仕入れた和菓子と飲み物をカップに入れて、準備ができると和柄のマットと共に持っていきそのマットの上に注文の品を乗せて提供する。
そのマットも和柄の布を四角に縫うだけなので、エプロンの後に私が縫った。
飾りとしてあると、やっぱり雰囲気が良いので作って良かったと提供の様子を見つつニコニコしていた。
そんな私に日菜子が近づいてきて、聞いてくる。
「有紗! 階段から落ちたって聞いたけど大丈夫なの?! 店番なんかなんとでもなるから無理せず休みなさいよ!」
強めの剣幕に一歩後ろに下がりつつ、日菜子に返事をする。
「要くんが迎えに来てくれてたところで、運良く受け止めてもらったから怪我もないし大丈夫なの。そんな心配しなくて平気だよ」
私がしっかりと受け答えするから、心配そうな顔は変わらないけれど仕方なさそうに一息つくと、日菜子は言った。
「大丈夫なのね? でも無理しないでダメだったら保健室に行くのよ!」
「うん、無理はしないから。大丈夫だからとりあえずこの、オーダーの品届けてくるね」
当番の時間は二時間。
大盛況で常に席が埋まる人気っぷりに驚きつつ、店番をこなした。
そうして、店番の交代の時間になりエプロンを外すと同じくエプロンを外した日菜子と蒼くん、要くんが声を掛けてきた。
「有紗! もう家庭科部の店番も無いんでしょう? 一緒に校内回ろう!」
明るく元気いっぱいな日菜子に笑いながら返事を返す。
「うん、一緒に回ろう! まずどこ行くの?」
聞いてみれば、日菜子はニヤっと笑って言った。
「もちろん、茜のクラスのお化け屋敷でしょ!」
そんな訳で、私達はまず隣のクラスの茜が居るお化け屋敷へと行くことにした。
たまに悲鳴が聞こえてきてて、どうなってるのか気にはなっていたんだよね。
怖いもの見たさ的な?
すれ違うお化け屋敷から出てきた下級生たちの声が聞こえてくる。
「ヤバイ、なんなの。なんでこんなに怖いの!」
と言い合っていて、私達は顔を見合わせつつお化け屋敷に辿り着いて中に入ったのだった。
茜のクラスのお化け屋敷……。
誰だ、高校の文化祭にあんな高クオリティにしちゃった輩は!!
とだけ言っておこう……。
終始私は要くんの腕にしがみつき、キャーどころかギャーギャー言って叫び続けた。
ホラーが苦手な人が入っちゃダメなやつだった……。
高校生の文化祭のお化け屋敷でしょ? なんて思ってたのは間違ってたよ。
出てきた時には私も日菜子も叫び疲れていた。
それをなんと出口で待ち構えてた茜に再び叫ばされた。
「わー! ちょっとビックリさせないで!!」
そんなビクビクの私を見て茜はクスクス笑っている。
この友人は楽しいことに目がないのだ。
「あー、かー、ねー!!」
「ふふふ、よくホラー嫌いな有紗が入ったね! はい、これお値引券! 美味しかったから食べに行っておいで」
茜がくれたのは二年生がやってるクレープ屋さんの割引券。
「いいの?」
「私もう終わりまで当番で抜けれないからね! 行ってきなよ」
怖い思いをしたけれど、いい事もあるものだ。
「わ! クレープ屋さんのとこか! このあと行こうと思ってたからラッキー」
私の手元を見て日菜子も喜ぶ声を上げる。
「じゃあ、クレープ屋さんに行きますか!」
お化け屋敷を無事切り抜けた私達は、次は食事系の出し物が並ぶ中庭を目指して校舎を出るべく一階へと移動して行った。
もちろん、落ちた前科のある私はしっかり要くんと手を繋いでいた。
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