第21話

お昼を食べた後は、男子は川釣りに挑戦していて私達女子は所々にあるハンモックで寝たり読書したりとゆったりと過ごした。


そして夕方。


メインのBBQの準備を始める頃、そこに釣りから帰ってきた男子組のバケツには鮎やイワナ、マスが入っていた。

しかも、そこそこの数の魚がバケツに居たのだ。


「え、すごい! こんなに釣ったの?!」


驚くと、三人はニコニコ嬉しそう。


「まぁ、ここ釣り堀でお魚放流してるらしいから。釣りやすいよ」


そんな宏樹くんの言葉に要くんも蒼くんもうなずきつつ、言った。


「結構直ぐに食いついてくるだよ。だから簡単!」

「引いたら上げるだけだから海釣りより楽だぞ?」


そんな楽しげな三人に、私は言った。


「それで、これ誰が捌いて食べられる様にするの?」


私もさすがに魚は切り身でしか買わないから捌くことなんて出来ない。

美味しそうだけど、食べるにはそれなりに下処理が必要だと思われる。


「なーに、心配要らない! 俺がちゃんと美味しく食べれるようにしてやるからな」


私の頭にぽんと手を置いて、宏樹くんは自信満々。

そっか、宏樹くんはアウトドア好き。

釣りも好きだから、お魚捌くことも出来るのかと思い至った。


「宏樹くん、すごいね! 私も見てていい?」


「あぁ、構わないよ」


そうして釣ったお魚も加わり、夜のBBQはかなり豪華になっていく。


キノコと野菜とバターで一緒にお魚も包んでホイル焼きにしたり、シンプルに塩を振って塩焼きにしたり。

お魚は新鮮でとっても美味しかったし、男子達はさらに買ってきたお肉ももりもり食べた。


食べ盛りの男子高校生ふたりの食欲は毎回旺盛で、今回もそんなに食べれるの? って量をペロッと平らげた。


お魚の分お肉は余るかと思ったけれど、宏樹くんもそこそこ食べたのでお肉は綺麗になくなった。


「お魚で結構お腹いっぱいになったのに、男の子って本当にいっぱい食べるんだね」


そう、食事風景を見つつ呟く。


「たしかに、よく食べるよね」

「宏樹もいるから多めに買ってたけど、それで正解だったわね」


お姉ちゃんに聞くと宏樹くんは痩せの大食いってタイプで、食べても太らない体質らしい。

なんて羨ましいのか!

私なんて食べたら身につくから、日々気をつけているというのに。


「それ、女子にはかなり羨ましくて仕方ない体質ですよね」


日菜子が返した言葉に、お姉ちゃんは実に深くうなずいて返した。


「たまにね、ちょっと叩きたくなる事があるよ。食べ放題に行った時とか……」

「なんか、わかる気がする……」


女子の会話そっちのけで、男子組はとても豪快にたくさんの量のお魚、お肉、野菜を綺麗に食べ切ったのだった。


みんなでBBQのあと片付けをしたあとは、夏の風物詩。


「これ! みんなでやろう!」


日菜子が持ち出したのは花火のセット。

しかも置型、手持ちと大きなビニールバックにたくさん入ったやつ。


「おぉ! これは俺達準備してなかった。日菜子ちゃん分かってるね!」


そして、再び昼間の流しそうめん位に大はしゃぎしながら花火をした。


日菜子は、要くんと蒼くんが置型を並べ終えて離れるとネズミ花火を持ち出して驚かせたり。


手持ち花火でオタ芸しようとする蒼くんを要くんが危ないと止めたり。

花火の明るさと同じくらい、にぎやかで笑いが絶えない。


最後の線香花火は誰が一番長くもつか対決になり、勝ったのはお姉ちゃんだった。


「悔しい、もう少しで勝てたのに」


そんな私の呟きに、少し目を丸くしたあと、要くんは髪を撫でつつ言った。


「あぁ、惜しかったよな。最後姉妹対決だったし。またみんなでやろう」


その言葉に私も笑みを返した。


「そうだね、またやりたいね」


それが難しくなる事を隠したまま、私は笑顔を返した。


花火が終わると、男女に別れて温泉へと行き今日泊まるバンガローに戻った。

リゾート経営の会社が扱うだけあって、室内は綺麗で清潔感がある。


そこに布団を敷いて、みんなで転がる。

本当に楽しくて、楽しくて。

話しながらも疲れた私は、誰より早く寝てしまったのだった。


私が寝たあと、お姉ちゃんと宏樹くんは日菜子や蒼くん、要くんと話していた。

これは私が知らない話。


「今日は来てくれて本当にありがとう。有紗があんなに楽しそうにはしゃいで過ごす姿は、私達も久しぶりに見れたのよ」


その話に、日菜子は不思議そうに首をかしげた。


「有紗はいつもしっかりしてて、たしかに今日みたいにはしゃぐことは少ないけれど。いつも楽しそうにしてますよ」


お姉ちゃんは、その言葉にうなずいたあと、優しく微笑んで言った。


「そうね。有紗はいつも何事も楽しめるように過ごしてるわ。出来たらこの先この子になにがあっても仲良くしてくれると嬉しい」


三人はお姉ちゃんの様子に驚きつつも、返事を返した。


「もちろんです。有紗とは高校からの付き合いだけれどこの先もずっと友達だと思ってます!」


「俺たちふたりは、日菜子を通して仲良くなったけど、今は有紗ちゃんが優しくていい子なのを知ってます。それに要は今頑張ってるから」


ニヤリと笑いながら最後の言葉を言った蒼くんに、お姉ちゃんと宏樹くんは少し驚いた顔したあとに微笑みあってから要くんに言った。


「要くん。有紗が好き?」


「はい。それとなく本人にも伝えてるんですけど、有紗にはなにかあるのか、ちょっと壁があって……。でも諦める気は無いんです」

ハッキリと言い切った要くん。


その言葉を聞いて、お姉ちゃんは言った。


「要くん、有紗をそんなに想ってくれてありがとう。きっと要くんが有紗を諦めない限り、いつかその想いが有紗にちゃんと届くと思う」


そう言いつつ眠ってしまった私の頭を撫でて、お姉ちゃんはもう一言。


「有紗の思い込みを壊して。そしてその想いを伝え続ければきっとね」


そうして、その夜を境に要くんはもう少しわかりやすくかつ、何度でも私に伝えてくるようになる。


その気持ちをゆっくりと、確実に私の中へと注ぐように……。

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