第2話 引きこもり救出プログラム
「川中聡美さんだね」
「はい…」
「私は本署の警部,佐藤で、後ろの席で書記を担当しているのが鈴木巡査部長。これは取り調べではないので気を楽にしてね」
「分かりました…」
「川中さん、鎌田千秋が学校所属のカウンセラーの山﨑先生を刺した件について、我々は取り調べをしています。参考人として署まで来ていただいて感謝します」
「はい…」
「念のためにこの聴取は録画録音させてもらうが構わないね」」
「は…はい…」
「さて、この刺傷事件なんだけれど、鎌田千秋が山﨑先生を刺す動機について思い当たることがあるかな」
「チーカマ、いや鎌田さんがそんなことをするなんて想像もできません。カウンセリングルームに入り浸って山﨑先生とおしゃべりすることが鎌田さんにとっては大切な時間だったから…」
「ん…どういうこと??」
「鎌田さん、大学で心理学を学びたいって言ってました。実際、大学も心理学で受けて志望校に合格しているはずです」
「確かに、12月に鎌田千秋は大学の合格通知を得ているね」
「だからそれも山﨑先生との時間があったからこその成果だし、感謝することはあっても山﨑先生を鎌田さんがナイフで刺すなんて考えられません!」
「ところが状況からして鎌田千秋が山﨑先生を刺したことは明らかなんだ」
「どういうことですか」
「事件は2月28日。カウンセリングルームから山﨑先生が腹部から出血したまま出てきて、階段を降り、別館校舎1階玄関で力尽きて倒れた。その際、山﨑先生は頭を強く打ったらしく、1週間が過ぎた今も意識はあるが当時の記憶を失っている。自分が刺されたことは理解しているが、誰がどこでなぜ刺したかは全く説明できない、ただ…」
「…」
「ただカウンセリングルームで、鎌田千秋が血まみれのナイフを握ったまま仁王立ちしていることが直後に発見された。鎌田も呆然自失の状況で、その後の取り調べでは放心状態が続き、自白には至っていない」
「チーカマがそんなことをするなんて絶対にない、ないに決まってる。チーカマは山﨑先生のことをとても尊敬していたから!」
「しかし状況は、鎌田千秋が刺したことを指し示しているとしか言いようがない。鎌田の握ったナイフには山﨑先生の血が付いており、特に柄の部分には、血の跡の上に鎌田の指紋、掌紋がはっきりと残っていたんだ。強く握りしめてまず刺し、持ち直したところでまた刺したということだ」
「でもチーカマ、いや鎌田さんは自白してないんですよね」
「確かに…今は意識薄弱を理由に警察の医療施設に収容されている。取り調べも進んでいないが、いずれ犯行の全貌は明らかになるはずだ」
「そんな…」
「念のために明らかにしておくが、鎌田千秋は犯行時すでに18歳となっている。2023年の法改正によって、鎌田千秋は高校生といえど成人だ。つまり鎌田は少年法の保護を受けない。おそらく裁判員裁判となるはずだ」
「じゃあマスコミで名前が報道されることもあるってことですか」
「インターネット上ではすでに鎌田の犯行ということで個人情報から何から何までさらされている。高校生ということで新聞やテレビは実名報道をしていないが、法務省からの通達で、どうやら実名報道に切り替わるようだ。成人年齢の引き下げによる処罰の適正化を明確にする方針のようだ」
「じゃあ、鎌田さんは逮捕されるってことですか」
「それは間違いない…精神鑑定も近年は厳しい…裁判では責任能力あり、と診断されるだろう。法務省はとにかく成人年齢引き下げで高校生が逮捕され、実名が広く報道される事案を求めていたからこれは格好の事件だ」
「チーカマかわいそう…まだ私、信じられない…」
「川中さん、そういうわけで鎌田千秋の犯行で間違いない。裁判に備え、我々は鎌田と山﨑先生の関係を明らかにする必要がある。この二人の関係を川中さんならば知っているのではないかと思ってね」
「確かに…チーカマと山﨑先生の関係はあまり知られていなかったと思う…」
「そうだね。鎌田の担任も認識していなかったようだ…だからこの1年で山﨑先生のところに相談に来た生徒ならば、何か知っているのではないか…少なくとも鎌田と山﨑先生の間柄の空気感のようなものを知っているのではないか、我々警察はそう考えたんだ」
「…」
「で、川中さんは山﨑先生にどんな相談をしたんだ…差し障りがない範囲で教えてほしいんだ」
「そもそも山﨑先生を紹介してくれたのも鎌田さんだし、鎌田さんに有利になるなら話してもいいです」
「話の内容は客観的に取り扱う。私たちが知りたいのはなぜ鎌田千秋は山﨑先生を刺したのか、その理由だ」
「私の話が役に立つかどうか…」
「それはこちらで判断する…聞かせてくれたまえ」
私がチーカマと共に山﨑先生のカウンセリングルームを訪れたのは、今から1年前の4月、まだ桜が完全に散る前でした。山﨑先生は前の年から学校専属のカウンセラーになったんですけど、あんまり利用率は高くなくて、生徒の間でも山﨑先生のことを知らない人の方が圧倒的に多いと思います。
でもチーカマは違っていました。チーカマは山﨑ルームに入り浸りで、たぶん山﨑先生は、チーカマのことは歓迎というわけではなかったと思います。私の目から見ると、チーカマが山﨑先生に依存しているようで、その依存を山﨑先生も自覚していたと思います。
ただチーカマが山﨑先生に関心を持ってくれたからこそ、私の家の問題は見事に解決できたし、それは感謝しかありません…そうです、私の兄の件です。
山﨑先生のカウンセリングはまるで魔法のように効果がありました。山﨑先生は、助けられる引きこもりと助けられない引きこもりがあるって言ってましたが、私の兄のケースは、断然助けられる引きこもりだと言われました。驚いたのですが、キーパーソンは私だったんです。
正直、兄は家で暴力をふるっていました。通販サイトで欲しいものをカートに入れると、翌日父が決済するという流れが私の家にはありました。兄の引きこもり当初、中学のうちはマンガやアニメのグッズ程度だったので父も決済に応じていましたが、高校に入学する年になって、パソコンやその周辺機器を買ったり、高額なオンラインライブのチケットを買ったりして、支払いが数万円では済まない月が増えてきました。当然、父は兄の要望にすべて応えたわけではなく、父の判断でカートから削除したり、なぜこれが必要なんんだと兄に問うこともありました。
そこからです。兄は壁にパンチして穴を開けたり、家具をひっくり返したり、母や父を突飛ばしたりしていたようです。ようです、と言ったのは実は私そういった兄の暴れる現場を見たことがないんです。
兄は暴れるのは必ず私が居ない時でした。そして山﨑先生はそれが鍵だと言いいました。
引きこもった人間を部屋の外に連れ出すには、三原則が必要だというのが山﨑先生の持論でした。一つは絶対的な味方がいること、一つは何をやったか、言ったかではなく何を言わないか、、やらないかに注目すること、一つは引きこもりの当時者の予想を超える発言をすること、これが三原則です。
だから山﨑先生は、私に兄の絶対的な味方になるよう言ってきました。兄が私の前で暴れれないのは、私に対して申し訳ないという感情を持っているからで、私が兄の味方の位置に立てば、そしてそれが兄に伝わったら、私の言う事は聞くはずだと言ってくれました。兄が好きに物を買ったり、家具を破壊したり、父や母を殴ったりすることは、兄がやっていること、だったらやらないことは何か…それが私に対して暴言を吐かない、私を殴らない…そういうことです。だから兄は私に敵意を持っていない…あるいは私のことを大切に思ってくれている可能性すらある…山﨑先生はそう推測しました。
確かに私は兄と仲が良かったんです。私は内気でいつもすぐ泣くような小学生だったのですが、そんな私を兄はからかうことなく、嫌がることなく、いつも優しく守ってくれました。
山﨑先生の言うことは言われてみれば当たり前のように思うのですが、なぜか私も父も母もそんな兄の良い点を見ずに、家で暴れる兄を腫れ物に触るかのように接してきました。山﨑先生はそれこそが間違いだ、と指摘してくれたんです。
山﨑先生は、私をキーパーソンに指名して、そんな私に兄に何を言うべきか、どんなことを言えば兄の想像を超えられるか、それを教えてくれました。それが私の私の進学相談だったのです。
私と兄はもう何年も全く話すことはありませんでした。きっかけがないため、没交渉がずっと続いて、私は兄と話をしたかったのですが、どうすればいいか分からなかったんです。でも、山﨑先生はここでも的確なアドバイスをしてくれたんです。
先生は私に、兄にまず謝ること、そして私が兄の意見を欲していることを伝えるように言ってくれました。
私は先生に教えられた通り、一つ一つ忠実に実行しました。まず兄の部屋の扉にに手書きのメッセージを挟みました。相談がある…父と母が寝た後に部屋に行っていいか、そんな内容です。挟んだメッセージは部屋の中に消えました。兄からの反応が何もなかったのですが、私はそれを承諾と受け取りました。
メッセージが扉の奥に消えた夜、何年かぶりに兄の部屋の扉をノックしました。4月の末の頃のことです。兄は髪をざっくりと斬った落ち武者のような見た目でしたが部屋に入ることを拒絶しませんでした。父や母が侵入すると烈火のごとく怒るのですが、先生の予想の通り、私には対して兄が怒ることはありませんでした。先生の予想の通りだったので、私は躊躇することはありませんでした。
私は兄に言いました、
私だけ高校に行ってごめんなさい。私は大学に行きたいんだけど、大学受けてもいいですか、と…
兄は心底驚いたようでした。後で分かったのですが、私が責めに来たと兄は思ったそうです。いつまで引きこもっているのか、と…
でも私が言ったことがまず謝罪で、続いて許可の求めだったので、それは予想の外側だったようです。
兄は、私のそんな思いを気の毒に思ってくれました。私だけが高校に通っていることを済まなく思う必要などないこと、大学には自分に遠慮なく進学すればいいとすぐに言ってくれました。自分が不甲斐ないとも言ってくれました。
兄はやっぱり兄だったんです。私の大切な優しい兄だったんです。
私はその夜、北杜夫の『楡家の人々』を兄に貸しました。兄の本棚には通販サイトの購入履歴通り北杜夫の作品がいくつか並んでいましたが、『楡家の人々』はないはずで、確かに兄はその作品を購入していませんでした。
私は『楡家の人々』を兄に貸し、大学では日本文学を学びたいと言いました。すると兄は、本棚から大江健三郎や中上健次の作品を取り出して、私に読むよう勧めてくれました。あといくつかのマンガも私が借りたいと言うと快く貸してくれて、その夜から父や母には内緒で、時折兄とおしゃべりをする時間を持つようになったのです。
これで7月の期末テストまでの時間で、兄とは3度、夜中に話し込む時間を作ることができました。兄は髭も伸びて、髪型も乱雑で、見た目は怖かったですが、話してみると、やっぱり頭のいい兄そのものでした。
山﨑先生は言っていました。引きこもりっていうのは、頭のいい奴しかできないんだそうです。バカは引きこもれない…これは例外なしの法則で、山﨑先生は繰り返し言っていました。
今思えば、兄は私と話すことで外の世界とつながりを持ったのだと思います。大学入試で必要な小論文や面接について相談したり、それこそチーカマや山﨑先生の話もしたりしました。
そんな感じになって、山﨑先生はそろそろ頃合いだと言いました。そもそも父と母が兄をだまして連れ出し屋に依頼しそうだったからこそ私は山﨑先生に相談したのですが、本気で兄のことを考えているならば、私に任せて変な業者に頼むのをやめて欲しいと、私は始めから父や母に言って聞かせました。これも先生の指導です。
秋になって私の大学合格も決まり、兄はそれを心の底から祝ってくれたと思います。それが山﨑先生にとっては頃合いの合図だったようです。
山﨑先生は、私の担任の許可を取ったうえで、私の両親をカウンセリングルームに呼び出しました。先生の存在は理事長先生の意向が働いているらしく、担任もこの話には口出しすることはありませんでした。名目上は私の心理的な苦しみを両親に説明するというものでしたが、呼び出された両親は山﨑先生から、私の兄を自立させたい気持ちがあるかと問いました。結構、高圧的な話し方だったと思います。
両親は私と兄がコンタクトを取っていることを知っていて、それも山﨑先生の指導だということも分かっていたので、兄の自立を願っていると即座に返答しました。
ところが山﨑先生は願っているだけではだめだ、心底自立してほしい、そのためにならば親として何でもするという覚悟を決めてくれと強く言いました。
母はその物言いに抵抗があったようですが、父は多分何かを感じたんだろうと思います、山﨑先生に委ねます、と言って母を説き伏せました。
両親の意向が固まったことで、山﨑先生は、12月の初めての日曜日に、私の家を訪問することを決めました。
山﨑先生は、家庭訪問の際に自分が求めたことはどんなに嫌なことであっても実行して欲しいと両親に告げました。私の役割は、兄を先生と両親が控えるリビングに連れてくるだけで、それは難しいことはありませんでした。兄は私には素直だったのと、山﨑先生のカウンセラーという肩書に兄が関心を持ったからだと思います。
こうして12月の第1日曜日13時、私の家のリビングに私、兄、両親、そして山﨑先生の5人が顔を揃えました。そこからの先生は本当に圧巻でした。
「君が聡美さんの兄か…やはり聡明な顔立ちをしている…いいかい引きこもりっていうのはバカにはできないんだ。自宅自室で何年も閉じこもることができるなんていうのは、並大抵の才能ではないんだ。で、元々頭の良かったこの兄ちゃんをダメにしたのがこのバカ夫婦だ…」
両親は事前に、どんなことを言われても怒らない、そして言われた通りにふるまうと約束させられていました。言わばお芝居です。
「どっちがよりバカか分からないが、少なくとも夫婦二人揃って大切な才能を一つ踏みつぶしてきた…どうせ中学入試で無理をさせたんだろう…聞けば入った中学は名門中の名門、そこに数学が苦手で入ろうものなら、入った後に落ちこぼれるのは明らかだろう!それを特に本人が行きたいってわけでもなく無理強いして、バカ親毒親だよあんたらは!」
確かに山﨑先生の言う通りでした。中学入試は親の押し付けで、それでも行きたい中学を自分なりに見つけた兄はそれなりに塾に通ってそれなりに勉強をしていました。力を入れて勉強しているわけでもないのに、そこそこの成績が取れるのが兄なんです。ところがそんな兄に、父も母も期待しすぎたんだんと思います。兄の塾での成績を見て、トップ私立に行くべきだと兄を煽り、塾と個別指導で時間を埋め尽くし、兄の望んだ中学はレベルが低いと完全否定までしました。結局兄は操り人形のようでした。それで父と母が満足する中学に入るには入ったのです。最初は兄もエリートの一員になったと威張っていました。でも勉強で遅れをとると、学校に居場所がなくなり、中学2年目には学校を休むようになったのです。わざわざ望んでもいないエリートの自覚を持たされて、挙句挫折して立ち上がれなくなる…本当にバカみたいでした。父も母も、自分たちが兄を操ったという自覚はありません。学校へ行け、もったいない、と兄を煽る父と母の言葉は、結局、兄のみじめな心境を拡大するだけで、不登校や引きこもりを改めるような力を持つことはありませんでした。私が中学入試で、親の言う事を聞かずに志望校を決めたのは、兄のその無残な姿を見ていたからです。今年、兄と夜中に話した時、私が行きたい中学を譲らず、我を通し切ったのは、自分のダメな姿が理由だとしたら、こうして引きこもる意味があった、と兄は言いました。さすがに私はこの言葉には泣きました。
結局、リビングに来た兄の目前で、山﨑先生は父と母を土下座させました。頭を押さえつけ、額が床に着くまで何度も謝罪させました。
はじめは、事前の打ち合わせに反して父も母も抵抗する素振りを見せましたが、頭を押さえつける姿を冷たい目で見る兄の様子に、次第に父も母も自分がどれほど兄を傷付けてきたか理解できたのかもしれません。はじめは小さな声で形だけ誤っているように見えましたが、最後には本当に悪かった、判断を間違えた、悪いことをした、と生きた謝罪の言葉が漏れるようになりました。
兄は、その辺りで、もういい、と山﨑先生に言いました。山﨑先生は、最後に、父と母に向かって、最後に誠心誠意謝れ、とまた激しく迫りました。
結局、兄はこのお芝居から始まった本気に触れて、毒気が抜けたようでした。山﨑先生が、これでいいか、と問うと、兄はいい、と言いました。
この返事を受けて、山﨑先生は、ならばこれからの君の自立の話をしようかと兄に言いました。兄は、とても素直にはいと答えていました。
結局、兄は父方の祖父母の家に転居することになりました。大検を取って、1年半後には大学生になるそうです。専攻は文学か教育学、あるいは山﨑先生に影響されたのか心理学にも興味があると言っています。
山﨑先生は、父と母に向かって、引きこもりにまで行く者はこだわりが強い傾向がある。だから学問研究には実に向いている。だから大学院に進学することまでを想定して支援しなさい、と言いました。連れ出し屋や山の暮しのためにお金を払うよりはずっといいだろう、ということでした。
山﨑先生は兄に、大検を取る間、アルバイトをすることを兄に勧めました。日払いのバイトから始めて、気に入ったところが見つかるまでバイト先を転々とすればいい、そんなアドバイスに兄も少し勇気を得たようです。
この日を境に兄は、転居の準備をし、元々大好きだった祖父母と共に暮らすことを楽しみにするようになりました。何も話はしませんが、リビングで食事をするようになり、事務的な話し合いに関しては、主に父を窓口にして進めました。
兄は父と母を許したわけではありません。でも引きこもりにも飽きていたんだと思います。新しい一歩を踏み出すきっかけ、それが山﨑先生のお芝居だったのだとと思います。
だから我が家は山﨑先生には感謝しかありません。父と母に乱暴なふるまいをしたことも、それが必要だったからだと、私も両親も分かっています。だから山﨑先生がチーカマを怒らせたり、悲しませたりするような失敗はしないと思います。山﨑先生は緻密なんです。
だからだからチーカマが山﨑先生を刺したなんて信用しません。もし山﨑先生の体に傷があるならばそれはまた別の何か理由があるはずです。チーカマが犯人だと決めつけるのはやめた方がいいと思います。
「以上だね。山﨑先生のカウンセラーとしての腕の良さがよくわかる話だった。それと川中さんの思いもよく分かりました。かならず捜査の役に立つと思います」
「チーカマが犯人だと決めつけないでください!」
「もちろん警察は厳正に捜査をしているよ」
「じゃあチーカマは…」
「もちろ鎌田さんが無実だと言っているわけではないからね」
「チーカマ…」
「ところで川中さんの他に、山﨑先生のカウンセリングを受けた人いるようね」
「私はチーカマの推薦でカウンセリングルームに行ったのですが、私も、山﨑先生のことを信頼できたので、友達を紹介しました」
「いつ頃?」
「7月です。期末テストが終わった後です」
「となると、山根さんかな」
「はい、山根さん、引きこもる前の兄が言っていたようなことを漏らしていたので心配になって…」
「具体的には?」
「勉強がんばらないと…人生の敗残者になる…成績が全然上がらない…塾代が100万超えそう…、こんな言葉です。兄がよく言っていたことと似ているんです。私、山根さんが引きこもってしまうのではないかと心配で…それで山﨑先生のカウンセリングを受けるように勧めたんです」
「山根さんはどう言っていた?」
「控え目に言って最高…そう言ってました。山根さん2月の試験で大学決まったのも山﨑先生のおかげ、山﨑先生がいなかったら本当に怖かったと言っています」
「鎌田千秋は、そういった評価に対して嫉妬したりすることはなかった?山﨑先生を独占したいとか…」
「そんな感情はなかったはずです。チーカマとにかくは明るい性格で、おかしな気持ちなんて全くなかったと思います」
「分かりました…次に山根さんにも話しを聞くことになるけれど、山根さんの供述とあなたの供述に、食い違いがあった場合、またご足労いただくことがあるかもしれません。それでけはご了承ください」
「食い違いなんてないと思いますよ!でも分かりました!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます