第39話死に行く君へ2

「かはッ!」




俺の口から血が飛び散る。




だが、これも計算のうち、この後、油断した天使を氷華の【咎人の束縛】で縛り付けてもらって俺の【次元波動爆縮アブソリュートゼロ】




「人間にしては見事な連携だったな。この後、お前は死に戻って来るんだろう?」




「な・・・に」




「驚いているのか? 一度死んだ人間が死に戻る。メタトロンから聞いておる」




作戦がバレている。




誤算だ。




そうだ。天使メタトロンは消滅した訳じゃない。




地上の身体は義体に過ぎない。




本体は別の次元に存在している。




致命的な作戦ミス。




「貴様の固有スキルはやっかいだからな。先ずはその小娘の視界外に消えさせてもらう」




瞬時に消える天使。




消えゆく意識の中、俺は絶望を悟った。




そして意識が無くなり、再び意識が覚醒すると。




「危ない! 伊織避けて!」




「早く逃げてなのです!」




氷華と結菜の声が重なる。




そして目の前には迫りくる天使。




・・・駄目だ。




間に合わない。




死を覚悟した時、突然目の間に何者かが現れた。




「プロテクション!」




「つ、つむぎッ!」




「ええい、うっとおしい。矮小な人間風情が我の邪魔をするなど!」




斬ッ!




「あッ!」




俺の前に立ちふさがったつむぎを情け容赦なく天使が剣で切り捨てる。




「【咎人の束縛】」




「なッ! 不覚!」




「伊織君、今のうちに早くとどめを!」




「ああ、任された! 【次元波動爆縮アブソリュートゼロ】!」




たちまち氷結する天使。




天使は尚も意識を保っている。




「赦せん。何故我が矮小な人間風情の道具あらねばならぬのだ? この我がたかが人間の為の駒とでも言うのか? そんな事は許される筈がない。間違っているのだ! ええいッ! メタトロン! 使えん奴! 情報が不十分ではないか! やはり下等な天使はクズッ!」




間違っているだと?




ああ、人間は矮小な存在。




醜く、ずる賢く、人を陥れる。




そんな生き物だ。




だけどな。




それでも好きな人の為に!




大切な人の為には身を犠牲にしてでも助けたいとか・・・。




そう思っちまう生き物なんだよ。




つぐみみたいにな。




つぐみの気持ちは痛い程わかる。




逆の立場でも俺はつぐみと同じ事をする。




どんなに憎くても、腹が立っても、酷い事をされようとも。




それでも人間って奴は長くかかわった人間を簡単に見捨てる事ができない。




そういう生き物なんだよ。




お前ら天使様がどんなにお偉いかしらねぇけどな。




これだけは言える。




「天使アゼザル」




「グッ」




氷漬けでピクリとも動かない天使アゼザル。




だが、怨嗟の視線を感じる。




お門違いだぜ。




「間違っているのはてめぇの方なんだよ!」




剣で天使を斬りつける。




氷像が壊れ、破片が飛び散る。




「人間は矮小だがなッ! 仲間や家族を思う事は出来る生き者なんだよ!」




更に像を斬りつける。




「つぐみはな! つぐみは! 俺の為に命をかけたんだ! お前らの様に仲間を愚弄する事しか出来ねぇ奴らとは違うんだよッ!」




ズガンッ! 一層大きな音が響く。




「人間の為の道具に作られた? 人間が矮小? そんな事は関係ない。俺達人間がお前らを作った訳じゃないだろう? 人間には関係ないだろ? それになぁ! 仲間を想う事すら出来ねぇお前らはな! クズなんだよッ!」




ズガーン! 俺の【斬撃】のスキルを乗せた一撃で、氷像は木っ端みじんに吹き飛んだ。




「伊織君。お願い。つむぎさんにヒールをかけてあげて。私、地上ではまだ探索者の力が使えませんの」




「わ、わかった」




俺は一体、何をしてたんだ。




怒りに任せて優先順位を間違えた。




「つむぎ、今助けてやるから」




俺はヒールを何度か唱えた。




「・・・伊織」




「つむぎ。なんで。なんでなんだよ。おまえらしくないだろ?」




「らしくないね。私、どうしたんだろ? 気が付いたら体が動いて」




「つむぎさん。話しては傷にさわるのですわ」




「・・・もうすぐ死にそうだから・・・お願い」




「・・・つむぎさん」




「もし生まれ変わる事が出来たら。今度こそ・・・伊織に相応しい幼馴染になるわ。でも、私は酷い女だった。ごめんね。ごめんね」




「・・・つむぎ」




「もし、再び幼馴染になったら、また彼女にしてね・・・お願いだから」




つむぎの口から紡がれる言葉を聞きながら、俺は何度もヒールをかける。




「覚えている? 伊織が告白してくれた時・・・あの時、嬉しかかったの。打算じゃなくて、心の底から。あの時が一番幸せだった。私の人生の頂上は・・・あの時だったの」




「つむぎ。それ以上喋るな。助けるから、必ず助けるから」




「伊織はドンドンカッコよくなって・・・行くんだね。ずっと見て・・・見てたかった・・・出来るなら、伊織と結婚して幸せな家庭を・・・作りたかった・・・何を言ってるんだろう・・・私、あんなに・・・あんなに酷い事した癖・・・に」




「もういいから、もうつぐみの事恨んでないから!」




「わ・・・忘れないで・・・欲しい・・・つぐみっていう・・・幼馴染が・・・いた事・・・酷い女の子・・・だったけど・・・やっぱり・・・伊織の事大好き・・・だった事」




「忘れないから! 忘れるものか!」




「私、役にたったかな?」




「ああ、ありがとう。おかげで天使に勝てた」




「・・・そっか・・・最後に・・・その言葉が聞けて・・・あ、あり・・・がとう」




「つぐみ! つぐみ! 目を開けてくれ! 話してくれ? 嘘だろ?」




俺は半狂乱になっていた。




「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール」




「・・・伊織」




「・・・氷華」




氷華は俺の手をとって握りしめていた。




「つぐみさんは・・・もう」




「わかってる! わかってはいるんだよ!」




「そうじゃない。私達にはまだ出来る事があるだろ」




「出来る事?」




「三日以内にエリクサーを飲ませればつぐみさんは助かる・・・てことだ」




俺は氷華に言われて、はッとした。




そうだ。




エリクサーなら、死んでも三日以内にエリクサーを飲ませれば生き返らせる事が出来る。




「氷華、結菜、俺に力を貸してくれるか?」




「当然だわ」




「もちろんですの」




俺はエリクサーを求め、天使への復讐を誓った。




こいつらの本体は傷ついてはいない。




つむぎをこんな目に遭わせた報いを受けさせてやる。




どんなに酷い女だからって言ってもな。




つむぎは兄妹同様に一緒に育って来たんだぜ。




人間に喧嘩売った事、泣いて後悔させてやるから覚悟して待っとけ。




俺は新たな決意を胸に、未踏破のダンジョンに挑む事を決めた。

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