第27話全国高校探索者大会予選5藤堂の場合

藤堂視点




ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッ!




俺は他のパーティメンバーと一緒に、にっくき伊織のパーティメンバーの一人、委員長の結菜の元へ向かう途中、リスク察知のスキルで危険を感じていた。




「ちょッ! 藤堂! 何を逃げようとしてんだ?」




「いや、慎重に近づくべきだと思ってだな」




「相手は委員長だぜ。あの化け物の伊織や姫野さんじゃない。何を言っているんだ?」




バカかこいつら!




感じないのか?




このヤバい雰囲気が?




「慎重には慎重をだな!」




「ちょっと、藤堂。混乱しているのはわかるけど、姫野さんや、あの伊織があんなに強い訳がないから、きっとエーテル量子コンピュータにバグが発生しただけよ」




「そ、そうだな。伊織があんなに強い訳がないな」




そうだ。俺は一体何を慌てていたのだ?




相手はあの伊織と脆弱なその仲間に過ぎん。




委員長の結菜はヒーラーとしては優秀だが、戦闘力は皆無。




どうせ再試合。




委員長が隠れているところを見ると、バグは伊織と姫野だけか。




「みなすまない。俺とした事が動揺した」




「頼むぜ、ほんと」




本当に俺は一体どうしたのだ?




伊織が信じられない活躍を見せて、心が不安定になったか。




そんな事があるはずがない。




あいつはFランクなのだ。




故に最下層の人間で、俺と同じ立場の人間じゃない。




それなのに、俺とした事が恐れを・・・恐れ?




この俺に? 俺に恐怖を与えたのか? 伊織が?




全く信じられない無礼。




俺にそんな感情を抱かせるなど、言語道断。




明日からクラスのみなと、より本格的な虐めを考えよう。




これは罰なのだ。上位者を不愉快にした者はそうなるのだ。




「よし、先んじて結菜のとどめは俺が指そうじゃないか」




「よしなよ。それはクラントップの藤沢栄一郎君の任務とみなで約束したでしょ?」




「まあ、硬い事言うなよ。どうせ再試合だろ?」




「まあ、それもそうか」




よし。俺は自信を回復した。




クラントップの藤沢栄一郎を出し抜いて、結菜の首をとってやる。




一度、女の首を刎ねてみたかったのだよな。




最近、ちょっとはまって来たからな。例のヤツ。




「想像するだけでたまんねぇぜ」




「おいッ! お前ら、持ち場が違うだろ? そんなに雑に近づいたら気取られるだろ?」




「はあ? お前ら、隣の高校の弱小パーティじゃねえか。俺達に意見するなんて十年、いや、百年早いぜ」




「藤堂君、百年もたったら、死んじゃうわよ」




「違いないな。まあ、死んでも俺達の高みにはたどり着けないという事だな」




「お前ら。いい気になるなよ。油断して他のクランが全滅したのを忘れたのか?」




「うるせぇ!」




「全く、なんて奴らだ」




がたがたうるせえヤツだ。所詮、雑魚は雑魚。




俺に意見するなんてな。




藤堂は全く気が付かなかったが、この時に結菜の符を踏んづけていた。




奇襲攻撃成功の可能性がゼロになった事に彼は全く気が付かない。




「なえ、藤堂君、なんか空間が歪んでいない?」




「ほんとだ。なんか空間が歪んでいるような」




「それ、死亡判定の時のヤツじゃねえか?」




「どうやら、やっぱり量子コンピュータに異常があったみたいだな、俺が歪んだ空間ごと、必殺の刀剣一閃でぶち壊してやる」




「おお、お前のあの技なら、多少のバグ位吹っ飛ばすかもな!」




「洗濯機を叩いて直すのと同じね!」




何故か前方の空間に揺らぎが生じている様な気がするし、空間が割れているような気がする。




やはりバグと見て間違いないな。




ここは俺の刀剣一閃の見せどころか。




「おおおおおおおッ!」




俺は真っ直ぐに歪んだ空間に向かって突っ走った。




「おい、お前! 止めろ! 逃げろ!」




「どけッ! うるせぇッ!」




ビルの影から出て来た他のパーティのヤツが邪魔なので突き飛ばす。




そこで、俺の剣の一閃!




ガキンッ!




「え?」




「は?」




宮本と伊勢崎が間の抜けた声を出す。




俺の剣が・・・砕けた。




それだけじゃない。




例のヤバい雰囲気がよりいっそう増している。




「ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!」




「ちょッ! 藤堂君。痛ッ!」




俺は一目散に逃げだし、途中で邪魔な宮本を突き飛ばした。




「大丈夫か? 宮本?」




「え、うん。伊勢崎君。え? あれ? 伊勢崎君、身体が?」




「宮本ッ! お前の身体も崩れているぞ!」




俺は後ろを振り返りながら全力疾走し、己の判断の正しさに満足した。




やはり王者の貫禄だな。あれだけの死地を一瞬の機転で切り抜けるとはな。




「藤堂ッ! てめぇ! 許さないからな!」




「もう、だめ。身体が壊れて・・・く」




宮本は死んだか。




伊勢崎ももうじきだな。




俺はとにかく無我夢中で走った。




・・・すると。




「い、伊織!」




「藤堂か?」




そこにいたのはにっくき伊織だった。




出会ってしまったからには戦うしかない。




幸い、剣は途中で落ちていたのを拾った。




流石俺だぜ。




例えバグだとしても、俺の真の力を全開にすれば、あるいは。




いや、俺がこんな底辺なヤツに負ける訳がねぇんだよ。




「ポイズンペイン!」




「なッ!」




「伊織、どうだ? 毒を喰らった感想は? 地味に効くんだぜ。一分あたり10%HP削られるからな」




「藤堂。お前の謎のスキルの正体はこれか?」




「舐めるな。あれはそんなモノじゃない。このスキルはその恩恵に過ぎん」




「どういう事だ? お前のスキルスロットはもう一杯の筈だ。こんなスキルを習得できる空きがあるはずない」




「まあ、天は二物も三物も与えるという事だ。選ばれし俺に相応しい」




途端、伊織の顔が曇る。




だが、毒の苦痛に見舞われて、まともに戦える筈がない。




後は俺のスキルを駆使してじわじわとなぶり殺しにすれば、俺の勝利もあり得るな。




「馬鹿な。藤堂は覚醒したのか? それじゃつじつまが合わない」




「ごちゃごちゃ言っていないで、さっさと死ね! エレメントゲイザー!」




「フレアシールド!」




「何ッ!」




どういうことだ?




あれは魔法職の魔法防御壁のスキル。




伊織は支援スキルでスロット枠はいっぱいの筈。




確か、一つ、スロットに空きがあったとは聞いていたが、まさか。




「お前も例のスキルを手にいれたのか?」




「例のスキル? なんの事だ?」




とぼけやがって。無理もないか。




あれは他人の命の犠牲が必要だからな。




まあ、俺の為に死ねるのだから奴らもあの世で満足しているだろう。




「藤堂。悪いが毒は効いていない。毒耐性のスキルをとっておいたからな」




「は? 何を言って?」




「悪いが決めさせてもらう」




次の瞬間、伊織が俺の隣を通り過ぎた。




同時に俺の意識はブラックアウトした。

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