第10話新パーティメンバー一ノ瀬 結菜

「あの、なんで俺の右側にそんなに引っ付いてるの? 委員長?」




「決まってますの。伊織君を守る為です!」




「物理的にも、それ以外にもその行為は何の意味も無いと思うよ?」




「そうだよ。何やっとんのじゃ! 委員長!」




そう怒鳴ったのは氷華だった。




ただ、彼女の発言に全く説得力が無いのは左の方から委員長と同じく俺の腕を抱きしめて離そうとしない点だ。




「なあ、これどうなってんだ?」




「うるせぇ! お前なんざ無視だ!」




「そ、そうだ、羨ましくなんてないんだからね!」




「死ね!」




何故にツンデレ?




クラスメイトの俺へのヘイトが更に上がったような気がするし。




それはおいておいて委員長を引き離さないと、午後の探索者授業でダンジョン攻略する予定が狂う。




「あの。委員長。午後の授業、ダンジョン攻略だろ? 委員長はパーティで参加する必要あるだろ?」




「それなら大丈夫なのですわ。先程、パーティリーダーからクビを宣告されましたわ」




「いや、それ大丈夫なの?」




「大丈夫ですわ。伊織君のパーティに入れてくれれば何も問題ありませんわ」




俺は氷華と顔を見合わせる。




すると、何かを諦めた様な顔になっていた。




「わかったよ。一時メンバーに入れるよ。でも、委員長は俺達と違って優等生なんだから、仲間と和解したら戻って欲しい。俺達が原因だろ?」




「え? 違いますの。リーダーが唐突に恋の告白をメッセージソフトでなんてして来たから、丁寧に罵倒し返しただけですわ。そうしましたら何故か激怒してクビを宣告されましたの」




「なあ、委員長。ちゃんと言葉をオブラートに包んだ?」




「そんな事しませんわ。だって、あの男、伊織君の悪口書いて来たのですわ。これは言葉の暴力の正当防衛が成立しますの」




やっぱり俺絡みか。




仕方ない。俺と氷華のパーティに入れるか。




委員長は確かヒーラーだからいてもらえると助かる。




治癒系の魔法は難易度高いダンジョンじゃないとスキル取れないからな。




今の俺と氷華の能力なら委員長を守りながら戦う事もできるし。




そうと決まったら。




「委員長。じゃあ、午後は八王子第四C級ダンジョンの攻略に行くからな」




「ねえ。委員長じゃなくて、名前で呼んで、結菜ゆなって呼んで」




そう言えば委員長って、一ノ瀬いちのせ 結菜ゆなって名前だったな。




下の名前呼びは抵抗あるけど、氷華の事は下の名前で呼んでるし、仕方ないか。




☆☆☆




俺達は受付を終えて八王子第四C級ダンジョンへ潜って行った。




「あら、八四Cって床の色が青なのですわ」




「ああ、委員長・・・いや結菜はここ初めてか?」




「前のパーティは安全第一でしたわ」




「そうだな。トップを狙わないならここへは来ないか」




このダンジョンは難易度が高い事で知られている。




主たる目的は俺の魔法の新スキルを入手する事。




他の難易度の低い踏破済のダンジョンでも可能だが、今の俺達は実戦経験の方が欲しい。




「氷華、お前も初めてか?」




「あたしも初めて。魔法のスキルだけなら、八三Dで取れる」




「そうだな。普通はそうか」




「でも、青って綺麗ね」




「そうですわ。幻想的ですの」




氷華と結菜は随分とお気に入りの様だ。




「じゃあ、行こう!」




「任された!」




「はいですわ」




☆☆☆




時間にして三十分。俺達は第五層に足を進めていた。




ここまではゴブリン、オーク、オーガが出る位。




数も少なく難なく進めた。スキルも使う必要がなかった。




俺が先鋒、氷華が中堅、結菜がしんがりという布陣。




氷華には結菜の守りを頼んだ。




何故かふにゃりと歪んだ笑みを一瞬見せて、なんか邪悪な空気を感じたけど・・・気のせいだよな?




「前方300mの角を曲がった処にホワイトウルフが十頭潜んでる」




「氷華、よくわかるな」




「私の【気配察知】のスキル、かなり有効よ。一キロ先の敵も察知可能よ。狡猾な気配や魔力消すのにはダメだけど」




「成程」




氷華の言っていたファーストルック、ファーストキルとはこの事か。




と、言うことは?




「なら、角曲がった処でアイスバレットぶちかませば楽勝って事?」




「そう言う事になるわよ」




「お前、ほんとスゲーよな」




「もっと褒めてもいいわよ」




氷華が得意気にドヤ顔を披露している。




気のせいか鼻がひくひくと少し動いている。




鼻が高くなってんな、こいつ。そこから来た言葉? 別にいいけど。




☆☆☆




「アイスバレット!」




ホント一閃ていう感じ。て、言うか俺達暇だよな。




「あの、氷華さん? そんなに魔法使って大丈夫ですの? 普通MPきれちゃいますわ」




「委員長は高ランクだから知らないのね。私、Fランクなの。だからMPの回復量半端ないの」




「実はそうなんだ。十年前からDランク以下の探索者なんて出てないだろ? だから俺達も知らなかったんだけど、Fランクって、MPもHPも自然回復量半端ないんだ」




「え? そうなんですか? 聞いた事ありませんわ」




そりゃそうだろう。俺だって探索者始めてから、周りのメンバーとHPやMPの自然回復量が桁違いって事に気が付いた。




パラメータを均等に振れば、最低Cランクにはなれる。Dランクって、十年に一度あるか無いかの発現率。




ちなみに前のパーティーメンバーはMPの全回復に五時間はかかるって言っていた。




俺は十分位かな。だから少ないMPでも消費MP1の支援魔法を同時に多数展開できた。




一度に展開できる魔法って【マルチキャスト】のスキルを使ってもせいぜい十二って処だからな。




「何か聞いてますと、Fランクっていい処、たくさんありそうですわ」




「そんな訳ないじゃないか。代わりにステータスがボロボロだよ。だよな、氷華?」




「あ、うん。そ、そだね」




氷華、目を逸らすの止めてくれない?




このダンジョン攻略中に俺達のステータスがバレるのは必然だけど、いきなり言っても信じてもらえないからな。




でも、目を逸らしてあたしは関係ないみたいな顔するの止めて下さい。




関係者だからな!




「伊織、それより二百メートル先にまずいのがいる」




「何だ氷華? もう次のモンスターを察知したのか?」




「うん。おそらくミスリルゴーレムだと思う。あたしの攻撃魔法と相性が悪い」




ミスリルゴーレムとは名前の如く、ミスリル銀の身体を持つゴーレム。




ミスリル銀は魔法伝導率が高く、魔力、つまりエーテルを宿しやすい特性がある。




魔法を全部吸収してしまう。




攻撃魔法って、氷華のアイスバレットなんかも含めて物理的な物より内包されている魔力、つまりエーテル粒子の濃度が強く影響する。




モンスターに現用兵器が通じないのはこの為。モンスターはべらぼうに物理攻撃に強い。




ミスリルゴーレムは物理攻撃が有効な数少ないモンスターなのだ。




故に。




「伊織。喜べ! 剣士職の出番」




「任された!」




俺は氷華の口癖をまねるとダンジョンの奥に一人突っ走って行って、【斬撃】のスキルを使って、ミスリルゴーレムを真っ二つにして切り刻んだ。




「ちょっと汗かいちゃったな」




「ステータス・・・低い・・・って、言ってましたよね?」




ジト目で結菜に見られた。なんか居心地が悪い。

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