第4話 変わらない
クリスマスから小町と会うことないまま、大晦日になった。今まで通りなら、どちらかの部屋で集まっていただろうけど、今年はないだろう。
小町を避け続けた一週間は、長いようで、とても短かった気がする。
もう辛くはない。それでも避けてしまうのは、やはり気まずいからだ。
部屋の掃除をするも、そこまで散らかってはいないし、ゴミも多くない。日頃の成果というよりは、小町のおかげだろう。
午前中に終わってしまった。午後の予定もないし、年越しまで起きてるために、昼寝でもしてしまおうか。
そんなことを考えていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。現在進行形で疎遠となっている一人の友達を除けば、私に友達はいない。つまり、そのたった一人が来たのだ。
もちろん小町。
「…………」
気まずいのは事実。居留守をしたいところだが、私がいることは知っているのだろう。さっきまで掃除機かけてたし。
開けたくはない、でも開けなければ感じが悪い。気まずい、でも嬉しい。
さて、どうしたものか。
「茉莉ちゃーん、いーれーてー」
……開けるか。気乗りしないけど。
重い体を動かして、玄関の扉を開ける。いつも通りの柔らかい笑顔で、まるで何もなかったかのようだ。
胸の辺りまである髪は、ふわふわと巻かれていて、小町の雰囲気と合っている。
「おはよう。……あ、こんにちはの方がいいかな。時間的にも」
「どっちでもいいよ。それより、どうしたの?」
なんて白々しい。
小町が訪ねてきた理由なんて、火を見るより明らかだというのに。
「大晦日、今年はどうする?」
ほらきた。
どうするって、そんなの私に聞かないでよ。どう答えても、意識してるみたいでじゃん、意識させたいみたいじゃん。
「どっちの部屋で集まろっか。最近、私の方が忙しくって会えてなかったでしょ? 予定立てるのもすっかり忘れちゃってたよ。ごめんね」
……ん? え、集まるのは決まってるの? やるやらないじゃなくて、どっちの部屋でやるか聞きにきたの? ……マジ?
玄関で話すのも、と思って小町に入室するよう手で促すが、やんわり断られた。警戒しているのではなく、早く済む用件だからだろう。夜は集まるのはいいみたいだし。
「え、っと……どっちでもいいよ。準備とかするなら小町の部屋でもいいし、そういうのやらなくていいならウチでも」
「ちょっと待ってね。……うん。やっぱり、せっかくの大晦日なんだから派手にやろうよ! 準備して待ってるから、暇になったらウチ来てね。手伝ってくれてもいいよ!」
「うん、わかった。……あー、と」
「ん? どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
「えー気になるなぁ。まぁいいや。茉莉ちゃん、楽しみにしててね」
「そうさせてもらうよ」
小町が戻っていく。
出入りのときだけ扉を開けてずっと玄関で会話していたけど、それでも部屋が冷えた気がする。
私が言いかけたことは、小町が言っていたことについての疑問だ。
私と小町が会えていなかったのは、露骨にならない程度に私が避けてたせいなのだが、小町自身は「自分が忙しかったから」と思っているらしい。
小町は最近になってバイトを始めたから、原因はそれだと思う。
話の節々から気づいたが、小町はかなりのボンボンだ。学費も生活費も親から出してもらっているようで、バイトの許可が出ていないらしい。二十歳過ぎにもなって過保護すぎると思うが、親の会社を継ぐと聞いて、納得できないわけじゃない。
ならもっとセキュリティのいい部屋を探せばいいが、親の負担を減らすために私と同じ格安アパートを借りているのだそう。危なっかしい世間知らずの可愛い娘をもつご両親には同情しかない。
そんな小町が、急にバイトを始めたのだ。それも、かなり多くのシフトを入れて。欲しいものの為というわけでもないはずだから、経験としてか、それとも他の理由か。
どっちにしろ、聞けば教えてくれるんだろう。聞かないけど。
「ふぅ……」
それにしても、よかった。思ったより普通に話せた。
ガチガチになって話せなくなるかも、とか思ってたけど、いざ話すとなればそんなことはなかった。
吹っ切れたわけじゃないけど、それでも踏ん切りはついた。
私は、軽く身だしなみを整えてから、小町の部屋へと向かった。
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