第49話 祓う
「十環。桔梗を叩き起こして」
この刀を抜くには桔梗の力が必要だ。
「本当にこれぐらいじゃ、びくともしないんだぁ。結界も壊れないし、ちょっとチート過ぎない?」
そんなことはないよ。私は戦いには不向きな鬼だ。
「まぁ、いいか。ほらいつまで寝ているのかなぁ。いい加減に起きろ!」
何かに向かって命令をする雀もどき。
すると、串刺しになったガマの表面がボコボコと泡立ち始めた。
そして崩れ去り、黒い塊だけが残される。
不形成な黒い塊が縦に伸びたり横に広がったりを繰り返している。
これだ。これが異様な気配を放っていた正体だ。
「そんな感じなのぉ? きもーい」
いや、それを雀もどきが言うわけ?
しかし、これは何なのだ。一言で言うのであれば死の塊だ。いろんな悪霊の集合体に一つの意思が乗っ取ったという感じだ。
そして気になったのが、地面に横たわっている生徒の中に石蕗さんの姿がないということ。
「それで、こんなことをした理由を聞いてもいいかな?」
「えー雀は知らないよ。理由だなんて、ただ……」
「ただ?」
「楽しそうだったから!」
人ならざるモノの考えそうな答えが返ってきた。
「そうだったら、もう祓ってもいいよね」
「祓えるものならね」
「はぁ、鬼頭。使うよ」
「ああ、しかしその刀を先に……」
「これは大丈夫だって言っている」
私はたもとから黄色い塊を取り出して鬼頭に渡す。そして私は鬼頭に手を差し出す。その手に黒い徳利を受け取った。さっき渡しそびれた酒だ。
「龍神よ。神酒を対価に神風と恵みの雨を降らし給え」
願いを口にし、黒い徳利を投げはなった。すると風がすっと通っていき『承った』という声が耳をかすめる。
やはり、神には私の結界など無意味か。
そしてパンと両手を叩く。すると校庭に張った結界が解ける。だが、別の壁がこの場を覆っていた。四角い箱に閉じ込められているような結界だ。
「『東は
そう、昨日蛇神様に教えてもらった呪だ。お前たちが使っていたものを返してあげようという、鬼頭の嫌がらせだ。
でも、これっていわゆる自爆行為でもあるのだけどね。
外から突風が吹き込み、四角い空間の中を荒れ狂う。そして空が晴れているにも関わらず、雨が地を打ち付け、嵐が起こる。
「痛い! 痛い! 痛い! なにこれ!」
風に煽られ、雨に打たれている雀もどきが悲鳴を上げる。
だけど、他の人達は何が起こっているのかと呆然と立ちすくんでいた。
「真白ちゃんこれなに? 何故、私達だけ結界の中なの?」
鬼頭に頼んで十環をこちらに連れて来てもらっていた。
「十環。私達が結界の外に出ると、あんな感じになるからだね」
私は黒い塊を指して言った。
そこには声にならない悲鳴でも上げているように、天に黒い身体を伸ばし、伸ばした先から崩れていっている謎の物体の姿があった。
「こわっ」
そして風向きが変わり一気に外に向かって風が渦巻いていく。
私はタイミングを見計らうように空を凝視する。
ここだ。
「里に悪意をばらまくモノは去れ!」
里に病をばらまくように侵食していくモノは立ち入るな! 結界の一部を解除し、上空に撒き散らす。
そして鬼頭から渡された龍脈の塊を使って直ぐに結界を修復をした。
その時に結界の特性の変更をするのも忘れない。
「終わった〜」
怪しい謎の黒い塊も、雀に憑依していたものも、全部雨で流し風で吹き飛ばした。
そして怪しい黒い物体がいた場所には石蕗さんが倒れている。
やはり彼女を依り代にされていた。これで普通の術を使っていたら効果がなかっただろう。
なぜなら彼女は目見えるものしか干渉することができないのだから。
『何がおわったのじゃ。このようなものを胸から生やしてからに』
背後に引っ張られる感覚がして上を見れば、金色の目と目があった。鬼頭ではない。
「龍ちゃん、久しぶり」
『さっき会ったであろう』
深い水面のような紺青の色の髪の人物に見えるが、額から二股にわかれた角があることから、人ならざるモノであることが一見にしてわかる。
『しかしよく、このような物を刺されてピンピンしておるのぅ』
その言葉に懐からあるものを取り出す。
「身代わりの人形を三つも用意しておいたからね……って三つともどす黒くなっている!」
『まぁ、これは対価をもらいすぎた分じゃ』
そう言って龍神様は消えていった。ああ、龍脈の気を練り込んだ酒が気に入ったということだね。
あーしかし、私を殺して結界を解きたかったのかなぁ。解いてどうするんだろう? わからないな。
「お饅頭が食べたいなぁ」
なんだか凄く甘いものが食べたい気分だ。
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