第34話 情報の精査
「まずは、榕と若月」
「「はい!」」
「今回の依頼の内容についてどれぐらい知っているのかな?」
「はい! 新築の家に物音や人の気配がして住めないということでした」
ん? それって私が寿に聞いたことだよね? おかしいなと思って大津を見る。
「私は何も言っていませんよ。聞かれていませんから」
あ……うん。そんな性格だとはわかっているよ。そうか、学校から事前に情報があったわけでなく、大津も話していない。
ということは寿の情報だよりになるわけだ。初めから駄目だった。
「では、その情報で不審な点をあげてくれる?」
「不審な点?」
「新築っていうことですわ」
「若月、いいわね。他には?」
「人の気配がする?」
「榕。それは依頼者の感覚なので、精査する意味がないね」
「一般の人が何かを感じていることでしょうか?」
「そうだね。この旅館にもウロウロしてるじゃない? でも住めないっていうほどじゃない」
「走り回っている奴がいたよな」
「壺を被って座っているモノもいましたわね」
古い建物には何かしらがいたりする。それに反応して家鳴りが起きたり、床が軋んだりする。でも気の所為だと思えるほどなので、住めないと逃げ出すことはないのだ。
「では、その穴だらけの情報から、榕と若月はどのような行動を起こすべきだった?」
私は答えは言わない。答えは彼らが見つけるべきものだからだ。
「現地に行く」
「それで?」
「それで……全然わかんねぇ! ワカツキは?」
榕は頭をぐちゃぐちゃと手でかき回している。なんだか十環を見ているようだ。
「あの? 真白様が散歩に行くと言っていたことに関係しますか?」
「するね。大津、周辺の地図はあるかな?」
私は大津に声をかける。恐らく事前に色々情報を精査しているだろう。必要な物は用意しているはずだ。
「タブレットでよければ?」
「それでいいよ。それを見て、やるべきことを二人で相談して」
私がそう言うと、大津は二人の前に地図を表示したタブレットを置いた。遠目からみると、ショッピングモールがアップになっている。意地悪だなぁ。
ああそうだ。もう一つ大津に聞きたいことがあったのだ。
「ちょっと、大津」
私は大津を手招きする。すると、先程まで笑顔でいた大津の表情が消え、無表情で私の前に立った。コワイよ。
「何でしょうか?」
「大津だよね。私の『捕縛』の術を解除したのって」
「はい」
やはり、大津だったのか。ならば、何故あんな中途半端な解き方をしたのだろう。
「大津に解呪の才があるからって教えたのに、何であんなに中途半端なことをしたの?」
大津に解呪の才があると私は視えた。それで、高度の術式でなければ全て解呪できる術を教えた。
だから、榕と若月を縛った術ぐらい、簡単に解けるはずだ。
「それは勿論、車内でしゃべらないようにするためですよ」
「いや、そんな付加はないよ」
「ありますよ」
無いよ。ただ単に動きを阻害するための術でしかない。
「真白様からの制裁があれば、それを反故した場合、鬼頭様が動かれますから、死にたくなければ、動きませんよね?」
「なにそれ?」
横にいる鬼頭を見れば、素知らぬ顔をしている。
いや、実際には何も起こっていない。鬼頭は何もしてないから、変な疑いをかけるのはおかしい。
これは二人が何かを予見して、大人しくするだろうという大津の思惑だったと……思うことにする。
五分後、再び二人が口喧嘩を始めたので、話し合いはここで終了させた。
五分しか保たないって……どうして、そんなに喧嘩をすることになるのだろう?
いや、ここは五分も話し合いができたと褒めるところか。
「それでわかったかな?」
取り敢えず一人一人の意見を聞くことにする。二人の意見がまとまらなかったのだからしかたがない。
「ここに墓地がある影響だと思います!」
榕は西側にある墓地が影響をしていると言った。遠いな。因みに墓地があるところに寺がある。目の付け所は悪くないけど、全然違う。問題は墓地じゃない。
「ショッピングモールのところに何かあったと思いますわ。それがなくなったので、あのような状態になっていると考えました」
うん。それも目の付け所はいいのだけど、解決に導くには程遠い。
「二人とも50点だね」
「40点上がった!」
「アコウ。喜ぶところではありませんわ」
よっしゃーと喜ぶ榕に、冷たい視線を投げかける若月。
うん。答えとしては合格を出せないね。
「それじゃ、大津。大津の答えを聞こうかな?」
大津も事前に調べていたはずだ。その答えも合わせて聞いておきたい。
「私もですか? これは手厳しいですね」
「いや、現地に行かなくてもわかることはあるってことだよ。私は意地悪で言っているわけじゃないよ?」
「そうですね。寿に己の駄目さ具合を突きつけるということですね」
ちょっと待って、私は寿に関与しないよ。私は榕と若月の補佐なのだから!
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