第33話 マイナス100点ですね
「どこが完璧だ。後ろを振り返ってみろ」
私がどうやって言おうかと悩んでいると、鬼頭がズバッと言ってしまった。
そういう言い方は駄目だよ。自信をなくさせないように言わないと……。
「は? なんで来たときと同じに戻っているんだ?」
「私はきちんと祓いましたわよ! アコウが手抜きをしたのではなくて!」
「あ? 手を抜いたのはワカツキの方だろう!」
また始まってしまった。どうしてこの二人は直ぐに言い合いになってしまうのかな?
「口を噤め。愚者に発言権はない」
「鬼頭。言い過ぎ」
「すみませんでした!」
「ごめんなさい〜!」
あれ? もしかして、さっきのも鬼頭に謝っていたの?
再び私達の方に向かって頭を下げている二人の背後には、白い壁の綺麗な家が建っている。
二階建ての小さな家だ。いや、周りの家々と同じような大きさなので、鬼頭家の敷地内にある建物が大きすぎるということか。
今どきの家の造りなのか窓が細く、明かり取りだけの窓が二階に並んでいる。
風通しが悪そうな家だ。
その窓からこちらの様子を窺う者たちがいる。それも一人や二人ではなく、みっちりと表現してもいい感じだ。それが一階の大きめの窓からも見える。
「榕と若月は10点」
「真白の方が言い過ぎだと思うが?」
うるさいよ鬼頭。そして、私関係ないしという感じで、スマホを見ている寿に視線を向ける。
「寿はマイナス50点」
「え?」
まさか自分の名前を呼ばれるとは思っていなかったのだろう。
唖然とした表情でこちらに視線を向けてくる寿。その寿の横でニヤニヤとした笑みを浮かべている大津に言う。
「大津はどうかな?」
「え?」
まさか同僚の大津に、意見を求められるとは思っていなかったようだ。だけど、今回の実地訓練は学生である榕と若月だけでなく、どうも慣れていなさそうな寿も含まれていそうなのだ。
「そうですね。私としましてはマイナス100点でしょうか」
これは評価する価値なしと言いたいのだろうか。大津も容赦がない。
「そう、では場所を変えて総評としましょう」
依頼主がいるということは、人様の家の敷地に長々と居座るわけにはいかない。だから、場所を変えようと私は提案する。
「了解いたしました」
そして私達は今日宿泊する予定の旅館まで移動した。先程の場所から数キロ離れたところだった。
まぁ、あの辺りは住宅街という感じだったので、宿泊しようと思えば、離れたところになるだろう。
学校側も一日では終わるとは思っておらず、予備日にもう一日実地訓練に割いているのだ。
霜辰先生が昨日、『明日と明後日』と言っていたのが、こういう理由からだった。
その旅館で、榕と大津に充てがわれた部屋に集まる。
鬼頭と私は何故あるのかわからない、窓側の細い空間にあるソファーに座っていた。
毎回思うけど、この縁側のような空間は何なのだろう?
対面に置かれていたソファーの向きを変え、テーブルが邪魔だといって鬼頭にのけられ、窓を背にして横並びに座り、その先の畳の部屋に榕と若月が並んで正座をしており、その後ろに寿も正座をしている。
何か違わなくない?
これ反省会とかじゃなくて、お前たちが悪いと一方的に言う形になっていないかな?
私の斜め前に立っている大津を見るが、特に問題視していない。ちょっと突っ込んでよ。
以前私についていたとき、すごく毒舌だったじゃない。
そう、この大津は以前私についていた陰陽庁の職員だ。しかし半年で挫折した。けれど、もった方だとは思う。
「私としましては、私を頼った時点で話になりません」
大津が最初に切り出した。これは学校の駐車場の時の話だろう。
事前の話では、榕は若月の担当職員のどちらかがつくという話だった。恐らくこれは陰陽庁の教育実習も兼ね備えていたのだろう。
そして、大津は別行動する予定だったのではないのだろうか。寿を評価するためにだ。
「それも私に運転手をして欲しいなど、ナメていますよね」
え? そうだったの?
いや、でも事前に試験だとか実習だとか言われていなかった可能性が……
「今回のことは貴女の試験だと、事前に通達されていたはずです」
言われていた!
もしかして、誰かに頼ってしまう系の人なのかな?
「色々言いたいですが、真白様の意見を先に聞かせてください」
それは後から寿にグチグチというってことなのかな? あまりきついことを言わない方がいいよね。
「えーっと……今回の問題の家の情報はどうやって精査をしたのかな?」
「精査? ですか?」
……全然わかっていない。え? これ担当に当たった若月が可哀想な状態にならない?
もしこれが桔梗なら『ありえないですわ! 貴女は何を学校で習ってきましたの! 出直してきなさい!』っと言われているのが、私の頭の中で再生されてしまったよ。
「ごめん。大津。私も話にならない。だから、榕と若月の話をするよ」
私としてはここで『あ! そうでした!』となってくれるのを期待していたのだけど、私の言葉にハテナが飛んでいるようでは、話をしても駄目だと感じたのだった。
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