第32話 また喧嘩している
「いつも思うけど、暑いのが地面からくるって意味不明」
アスファルトの黒い地面を歩きながら愚痴る。上からは太陽の直射日光で暑いし、その照り返しで地面が暑い。
里の道路は土か石畳か
「だったら、戻ればいいだろう?」
「戻らないよ」
私は鬼頭の左手を掴んでサクサクと歩いていく。散歩と言って連れ出したため、体裁上はジジイと孫が手を繋いで散歩している風にしている。
「あっちの古い家がある方に行こう」
グルっと見渡して、ショッピングモールの北側にある昔ながらの家々が固まっているところを指した。
恐らくこの一帯は元は田畑で、大型ショッピングモールを誘致して新興住宅街にしようという都市計画なのだろう。東側と南側に新しい家々が見受けられるが、西側は空き地のようになっている。
そして北側にある古い家々が立つ区画。
南の方を見ながら区画の境界になる道を歩く。あるところまで来て足を止めた。ここだ。
北側を見ると多少は歪ながらも真っ直ぐに道が伸びている。南側はショッピングモールの駐車場が見える。ここからでは見えないが、さらに南側に問題の家がある。
そして背後にある小高い山。
「駐車場にするのに道を潰したのか。こういうのって意味がある道だったりするのに、どうしてわからないのかなぁ」
「何も見ようとしないからだろう」
「見えないからだよね。でも、言い伝えとか残っていると思うのになぁ」
私には関係がないから別にいいけど、困るのはこの地に住む人だ。
「それじゃ、南側に行こうか」
私が足を進めようとすると、私の右手が引っ張られて進めない。
鬼頭。ここに留まっても仕方がないよ。
「このまま真っ直ぐにいけばいい」
「目の前に大きな道路があるし、その先は駐車場のフェンスがあるから、駄目だよ」
「まどろっこしい。隠遁の術を使えばいい」
そう言って鬼頭は影をまといだし、空間に溶け込んでいく。
ちょっと、誰かに見られたら、人が突然消えたように見えるじゃない!
と私が言うまでに、鬼頭に抱えられて広い道路とフェンスを飛び越えて、駐車場に降り立っていた。
鬼頭は術が使えないわけじゃない。以前、安倍晴明を例に挙げたように術が使える。ただまどろっこしいといって、滅多に使わないだけだ。
たぶん私より多くの術を知っていると思う。私と鬼頭が生きた年月は天と地ほど違うからね。
そして駐車場内を鬼頭に抱えられたまま進み、南側の駐車場のフェンスを越えた。その先の、道路を挟んだところに問題の家がある。
「うーん?」
「どうした? 真白」
声を鬼頭からかけられたけど、手を上げて少し待って欲しいとアピールする。
これは中々難しい案件だ。
「根本的な解決は無理だね。現状を改善する応急処置ってところかな? その部分で二人ならできると判断されたのか」
結局のところは解決しない。強いて言うなら対処的に改善させるといったところだ。
その二人が問題の家から出てきた。それもまた言い合っている。
「俺の方が多くぶっ飛した」
「は? 私の方が多いに決まっていますわ!」
「何を言っている! 俺の方が多い!」
「私の方が多いですわ!」
どうやらどっちの方が多く祓ったかを言い合っているらしい。
「鬼頭。二人のところに行こうか」
「……」
返事がない。鬼頭の顔を窺うとイラッと感が出ている。
「騒がしいのは好きじゃないのは知っているけど、二人の担当は私だからね。言わないといけないことがあるからね」
「ちっ!」
舌打ち!!
鬼頭は舌打ちをして、片側二車線の道路を軽く跳躍しただけで飛び越えてしまった。
そして未だに言い合いをしている榕と若月の前に立つ。
「終わったのかな?」
私はそんな二人に声をかける。するとビクッと震えたあとに、慌てて周りを確認している。が、全く視線が合わない。
はっ! 鬼頭の隠遁の術がかかったままだ!
「鬼頭。術を解いてよ」
「こんな子供だましも見抜けないのか」
「いや、鬼頭の術は精度高いからね」
たぶん相手に術を施行されると鬼頭も見えないよとは言わない。基本的に『あやかし』というモノは隠れるのが得意だから、本気で隠れられると見つけるのが大変なのだ。
そう、この前の依頼の時のように。
鬼頭は呆れながらも術を解き、二人の前に姿を現す。私は鬼頭に抱えられたままで……下ろして欲しいな。
「「すみませんでした!!」」
何故か仲良く二人で謝る榕と若月。
これは何に対しての謝罪なのかな?
鬼頭の肩を叩き下ろすように促すも、下ろしてくれる様子がない。仕方がないのでそのまま話を続ける。
「何に謝っているのかわからないけど、終わったのかな?」
「はい! 真白様が散歩をすると言われていたので、その間に終わらせました!」
「完璧に綺麗さっぱりになりましたわ」
私と鬼頭が車内で昼食をとっていると、今回の依頼の場所を寿の式神が伝えてきたので、その式神に昼食後は散歩に行くから好きに行動を取ってくれていいと『伝声』の術を使って伝えていたのだ。
因みに陰陽師として依頼を受ける者につく陰陽庁の職員は、多少の術は使える。だが、『視る』『祓う』『縛る』『隔てる』『放つ』のどれかがかけており、実戦では使えないと判断された者になる。
なので、寿は『縛る』にあたいする式神と契約ができたので、言葉を伝える式神を扱うことができるのだ。
しかしそれすらもできない者は、柳森のように新人の教育という職につくのだけど……劣等感を抱えた者には里は生きにくいところだ。
さて、自信満々に答えてくれた二人だけど、どうしたものかな?
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