第31話 既に実地訓練は始まっている
「真白。着いたぞ」
鬼頭の声に意識が浮上する。目を開けると金色の目が私を見下ろしていた。
ん? 見下ろしている?
うぉ! 鬼頭に膝枕されている。
飛び起きて、周りをみると誰も車内の中にいなかった。
もうすぐ到着するよってところで起こしてよ。出遅れてしまっているじゃない。
「二人は!」
「降りていった」
やっぱり出遅れている。慌てて車から降りると、そこは大型ショッピングモールと言われる場所の駐車場だった。
「ここどこ!」
新築の家が、なんたらかんたらって言っていたのに、ショッピングモールとはこれは如何に!
「あ! 真白様。お目醒めですか?」
買い物袋を両手に持っている
何? 買い物のためにここに寄ったの?
「あの……真白様。術を使えるようにしてもらえませんか?」
そんな強力な捕縛じゃないから、手順さえ間違わなければ簡単に解呪できるのだけどなぁ。
私は若月の腕に手をかざしながら尋ねる。
「ここには買い物のために寄ったの?」
「いいえ。目的地が住宅地のため、車が止められるところがないそうです。それで、いったんここでお昼休憩をしようとなりました」
お昼休憩ね。
でも車の中で食べるのかな?
ちらりと榕が両手に持っているものを見る。あれはどう見ても榕の一人分の量だよね。
車の中では広げられない量だね。
「車内で食べるの?」
私は今度は榕の術も解除しながら聞く。しかし、二人ともおかしな解呪の仕方をしているよね。
「寿が場所を探してくれている」
そんな大量の食べ物を広げて怪しまれない場所がこの施設内にあるのだろうか?
私はグルリと視線を巡らす。
ん?
反対側を見る。
うーん?
「私は鬼頭と車内で食べるよ。後で目的地を、式神を使って連絡してくれればいいから」
そう言って私は二人に背を向けて、車の側でこちらの様子を窺っている鬼頭の元に行く。
「どうした?」
「鬼頭、お昼にしよう」
そう声をかけて車内に戻る。そして、前列の後部座席の背もたれを前に倒し、テーブル代わりに出来るようにセッティングする。
「それで何があった?」
鬼頭が謎の空間から重箱を出しながら聞いてきた。
「何もないよ。でも、訓練はもう始まっているから私は口にださないでおこうと思って」
二人に課せられた依頼は新築に人の気配がするというものだ。凄く曖昧な情報しか与えられていない。
私が気がついたことは、そのうち何処かの時点で二人も気づかないといけない。
「食べ終わったらこの辺りをグルっと一周しよう」
「あの二人がやるべきことなら、真白はここで待機だ」
「たぶん、今回はあの二人じゃ無理かな?」
「だったら、依頼自体を放置すればいい。こういう話はよくあることだ」
家の中で物音がするとか、気配がするとか、置いていた物の位置が変わっているとか、そういう話はよくあることで、何れその家に誰も住み着かなくなる。
ただそれだけ。
「そうなのだけど。今回はちょっときついかも? それを調べるために、一緒に散歩をしよう?」
「散歩?」
「そう、散歩」
鬼頭は本当に外に行くのが嫌いだ。だったら私について来なければいいのだけど、鬼頭は過保護だから結局着いてきてくれる。
「わかった」
こんな風に、いやいやながらも、了承してくれるのだ。
「ありがとう。鬼頭。それじぁ、いただきます」
私は私用一段重箱を膝の上に乗せて蓋を開ける。半分ほどのちらし寿司に占領されたお弁当だ。
お寿司が多いなって? いや、昨日のは十環のためにいなり寿司を作ったのだ。それで今日のは日を持たすための酢飯なのだ。
外に出るのが嫌なのは私も同じ。何故なら、外の食事が口に合わないのだ。
これは里全体が龍脈の影響を受けていることに由来する。私たちは龍脈の地で育った食べ物から龍脈の力を摂取している。
だから、能力持ちが多く生まれてくるというもの。そして、里で育った作物は美味しい。
最初は里にはない食べ物がいっぱいあるので、物珍しさに買って食べていたけど、美味しくなかった。
結局、外の物を買って食べるのはお菓子だけになった。あのスナック菓子は里にはないからね。
そんなことで、一升の米でちらし寿司を作ってお昼と夜のご飯として用意したのだ。
昨日寝るのが遅くなったのも、二日分のご飯を用意していたのもあった。
しかし、面倒な依頼を引き受けたものだね。あの二人で解決って難しいと思うのだけどなぁ。
ああ、これが霜辰先生が言っていたことか。担当が違うから、いつも通りには行かないと。
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