第14話 鬼頭が勝手に脅していたらしい
「えっと、何かあったのかな?」
白い文鳥はフルフルと震えながら、首を横に振る。なにこれ? 絶対に何か隠しているよね。
「鬼頭。
「くだらない用件で入ってきたので、叩き出したことがあるぐらいだ」
くだらない用事? 十環がそんな用事を私に言ってくるとは思えないけど。
『くだらなくはございません。とわさまは、マシロさまと遊ぼうとお誘いを』
「え? いつの話し?」
『初等科のときでございます』
そんな昔のこと! いつからか十環が休みの日に遊ぼうと言ってくれなくなったと思っていたら、原因は鬼頭がくだらないと断っていたからだった。
学校からの帰りに、遊ぼうと言ってくれていたけど、休みの日は予定があるのだと思っていたのに!
「十環ちゃんごめーん! 鬼頭! 遊ぶことも大事なんだからね! 明日、十環の好きな、ばぁ特性のいなり寿司を作ってあげるよ」
「ちっ! さっさと用件を言って去れ」
『キャル! キャル! キャル!』
文鳥が変な鳴き声をしだした。これはどういう意味だろう。
『はっ!⋯⋯失礼しました。とわさまからの伝言です。「真白ちゃん。明日の授業は外だって! あれから大変だったんだよ〜
白い文鳥から、謎に十環の声が聞こえてきた。これは十環の声を式神に込めて相手に伝える術になる。『伝声』という術だ。
『「そのとき、鬼頭様と真白ちゃんがラブラブで昼ご飯とっているのを目撃されていたから、明日はブーイングの嵐だからね〜覚悟しておいてね〜」以上でございます』
いや、お昼になれば、お腹も空くよね。お饅頭を十個食べたけれど。
山の中腹を一周と言っても谷とか崖とか川とかあるから、真っすぐ突っ切ることはできない。だから、普通は通れるところを通るよね。途中で休憩ぐらいとってもいいじゃない。お饅頭を十個食べたけれど。
それから、鬼頭とご飯を取るのはいつものことじゃない。何がラブラブだ。
「十環に伝声を」
『はい。承ります』
私は息を吸い、口の前に右手を出す。そして人差し指と中指を立てて、文鳥に向かって言葉を発した。
「明日のことはわかったよ。でも今日のことは文句を言われたくないなぁ。あれは結界の見回りの途中だっただけで、遊んでいたわけじゃないよ。以上ね」
『了解いたしました。それでは御前を失礼します』
白い文鳥はペコリと頭を下げて、ずんぐりむっくりな体を重そうに宙に浮かせて飛び立っていった。
十環。ちょっと餌を与えすぎじゃないのかな?
「鬼頭、晩御飯を食べようか⋯⋯って自分だけ先に食べてる!」
鬼頭はいつの間にか居間に入って、一人素麺を食べていた。確かに時間が経った素麺は麺がくっつくから食べにくいけどね。せめて、一言先に食べるぐらい言って欲しい。
こうして、一日が過ぎていったのだった。
翌朝。小さな子供から成人になる者までが、徒歩で学校に向かっていく中に混じる。
里の道は昔ながらの道が多いので、車が通れるような道は少ない。
だから、陰陽師養成学校に通う者は基本的に徒歩で通学している。
その中でも今日は異様な物を運んでいる者が目に入る。だが、それに誰も突っ込むことはない。
初等科の者ですら、見てみぬふりをしているのだ。
「真白ちゃーん! おはよー」
背後から声をかけてきたのは十環だ。
「十環。おはよう。昨日は伝言ありがとう」
「どういたしまして。鬼頭様。おはようございます。今日も真白ちゃんは可愛いですよね」
「ああ」
相変わらず、十環と鬼頭の間で謎の挨拶が交わされた。
「十環、これ。ばぁ特性のいなり寿司」
「うわぁ! 嬉しいなぁ」
「勿論。揚げさんは三角だよ」
「お稲荷さんだものね」
ばぁのレシピのいなり寿司は、十環の好物でもある。そのいなり寿司を敷き詰めた一段重箱を風呂敷で包んで、十環に渡した。勿論これは十環一人分の量だ。
「お昼のお弁当いらないって、言っておいて良かった。
そう言って風呂敷に包まれた四角い箱を掲げて、クルクル回っている。
今日の十環は白いワンピースに白いカーディガンを羽織っているので、夏の朝の日差しに白色が反射して眩しかった。
そして校門をくぐると一角だけ異様な雰囲気に包まれているところがある。そこに私も十環も向かっていった。
「わぁ、皆準備している。⋯⋯あ! 桔梗ちゃんが帰ってきている。ききょぉぉぉちゃーん!」
「うるさいですわよ。十環さん!」
桔梗は今日もきっちりと
「すごーい! ガーデンパラソルだ!」
桔梗は自分の席の背後に、大きなガーデンパラソルを設置して日除けとして用いていた。
昨日、十環から伝言があった『明日の授業は外』という意味は、教室を破壊したクラスは罰として教室が修繕されるまで、外で授業するということだったのだ。
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