第12話 小判ザックザク!!

「八坂のお饅頭屋で、十個も食べてしまいました。申し訳ございませんでした」


 奥座敷に入ってきた人物に対して、私は深々と頭を下げて謝罪した。

 私は一段高い場所に向かってではなく、一段高い場所から、入ってきた人物に向かって謝罪をした。


「養成学校の教室を破壊したことよりも、饅頭の食べ過ぎの謝罪が先なのか? 真白」


 威圧ある声に、おずおずと頭を上げる。


「それは真白を貶した奴が悪い」


 言い訳をしようとしていたら、先に鬼頭が口答えをしてしまった。


「蘇芳。それよりも、問題が起こった」


 鬼頭蘇芳すおう。この里の長であり、私の曽祖父にあたる人物だ。

 涼し気な紗の着物を身にまとった白髪の男性。見た目は私の曽祖父に見えないほど若い。三十になるかどうかしか見えないが、大祖父様は明治生まれだ。


「真白」


 鬼頭に名を呼ばれ、私は畳の上に立ち、一段下りて大祖父様の元に行き、目の前で膝をつく。そして和紙に包んだ物を畳の上に置いた。


 そして元いた一段高い場所に戻る。


 え? どうして私が、里の長である大祖父様より上座にいるかって? それは鬼頭が鬼頭家のトップであって、その嫁という役割の私は必然的に、大祖父様より立場が高くなる。色々複雑なのだ。


「これは?」


 和紙を開いて中身を見た大祖父様の言葉だ。

 和紙の中には鏡の欠片が元の形になるべくなるようにして包んでいた。


「里を守る結界の媒体の二箇所にあったものです。それにより触媒は龍脈を結界まで吸い上げられず、ある一定の龍脈の力が溜まれば、爆発するように仕掛けられていました」

「ふむ」


 大祖父様は頷いて、鏡に触れる。しかし何も反応しない。それはもう機能しないので当たり前のことだ。


「作成者の力は龍脈の力によって消し飛んでおり、わかりませんでした」


 呪具は作成者の力を込めるので、必然的に誰が作ったかはわかるのだが、流石に龍脈の力にふっとばされてわからない。


「呪具師に確認をしたところ⋯⋯不出来な鏡と言われたので、里以外で作られたものと思われます」


 不出来な鏡ということは、鏡を作る工程で作られていないということだ。

 これはガラスが使われていないとか、銀が使われていないとかだろうと思っていたら、ガラスではなくアクリル板の鏡だった。


 それで私達が見つけたときに壊れていたのは不出来な鏡だったからで、手順にそって作られていれば、壊れていなかっただろうと言われた。

 そう、壊れていた理由は不出来だったが故に、龍脈の力に耐えきれなかったからだ。


「外部の者がこの地を狙っていると?」

「確かに龍脈という存在の利点はありますが、これと言って理由があると思えません。それから全ての触媒は鬼頭の命令により二重防御にし、同じ手は使えないようにしております」


 そして私は着物のたもとから、取り出したものを私の前に置く。それは樹脂が化石かした琥珀のようなものだが、こぶし大ほどの大きさがある。


「そ⋯⋯それから、これを教室の修繕費に当てていただけると、大変助かります」


 教室の破壊は、鬼頭がやらかしたことだけど、私が怒られることは目に見えていたので、用意していた龍気の結晶だ。


 そして畳に手をついて深々と頭を下げる。


「それは、なんだね?」


 どうやら大祖父様には見慣れないものだったらしい。鬼頭は直ぐにわかったのだけどなぁ。


 説明をしようと頭を上げれば、視線の先に大きな手が伸びてきて、琥珀色の塊を掴んで大祖父様の方に投げてしまった。


 それ、扱いには気をつけてよ。


「龍脈の気の塊だ。二箇所目のところで媒体にしていた竹の内側からでてきたものだ」


 そう、龍脈の気の塊。一度目は表面しか見ていなかったので気が付かなかったのだけど、二箇所目に行ったときに竹の中も見た。すると金色の物体がみっちりと詰まっているではないか。


 まさかこれが昔話に出てくる小判か! と思い、鬼頭に竹を爆発させないようにと忠告してから斬ってもらった。

 すると残念なことに小判ではなかったのだ。


 どうも龍脈が途中まで次々と吸い上げられていくものの、どこにも逃げ場がない気が凝固したのだろうと鬼頭は言っていた。それも呪具の媒体に使うと使用者の力を込めなくて良くて便利だと説明された。


 しかし私の頭の中では小判ザクザクでなかったことが残念で仕方がなかった。

 もしかして、昔話の小判って龍脈の気の塊で、何故に小判ではないのだという怒りが物語を生み出したのかもしれない。


「自然ではなかなか生み出せない代物だ。溶かして武器を鍛えるのに使えばいい」

「あれ? そういう使い方?」


 私に説明したことと違う。武器の強化アイテムってこと?


「武器より呪具を使う真白に言っても仕方がないだろう」


 隣から呆れたような金色の瞳を返されてしまった。

 ああ、何にでも使えるってことね。



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