第11話 舐めるな!

「真白! 怪我は?」

「え? 結界を張ったし、鬼頭が爆発が届かないところまで移動したし」


 私は黒竹があった場所を見る。そこには黒竹があった場所を覆うように透明な膜が存在しているため、周りには被害はない。

 そして里を覆っている結界には変化は見られなかった。


 私と言えば、鬼頭に再び抱えられていた。霧に覆われながらも、先程いた場所がなんとか目視できる場所にだ。


「ちょっと戻ってくれる?」

「まだ何か仕掛けられている可能性があるのではないのか?」


 それを調べる為にいかないと、何もわからない。


「たぶん問題だったのが触媒に刺さっていた鏡だと思う。それが今は結界に全て突き刺さっているから、何かあっても結界が受け止めるよね」


 あれは地面に落ちていたものだと思うから、爆発は黒竹と見せつつ地面からだったと思われた。


「わかった」


 鬼頭は納得したのか納得できなかったのかはわからないけど、警戒しながら近づいていく。


 そして結界で覆った場所まで戻ってきた。黒竹は吹っ飛んで無くなっており、地面がえぐれていることから、やはり地面から爆発したことがわかる。


「龍脈の異変はなし。龍脈を狙ったわけではないということは、やはり里の結界の破壊かな?」

「鏡が呪の媒体にされたか。蓄積された龍脈の力の暴発に見せかけた、人為的破壊工作だな」


 ああ、龍脈の力を利用されたから地面からえぐれているのか。本来なら、もう少し時間がかかったことだけど、鬼頭の火の力が呼び水となって、爆破したというところか。


 鏡はそのまま結界に覆うようにくるんで保管しておこう。あとで呪具の専門の者にみてもらうためだ。

 鬼頭の肩を叩いて地面におろしてもらう。鬼頭もこれ以上の危険はないと判断したのだろう。


「別に、里に結界が張ってあることは隠してないけど、迷いの霧の阻害をしてまで、こんなことする理由は何? 全然わからないけど?」


 そう言いながら、私は凹んだ地面に笹を突き差す。


 はっきり言って、現代において陰陽師の役割は殆どない。だから陰陽師以外の術師もこの地に集まってきているのが現状だ。

 単独でこの業界で生きていけるのは土地に縛られた者ぐらいだろう。そう神道のようにその地で神を祀る者たちぐらいだ。


 しかし神道と陰陽庁は棲み分けをしているので、そこで争うことはない。いや、最近はどこも厳しいといい、神職をしていた者もこの里にくることがあるぐらいだ。


「真白。二重結界にしろ」


 鬼頭にそう言われ、もう一本の笹を窪地の外側に差す。


 私は一歩さがり着物のたもとから、ひし形に連なった紙を取り出した。

 着物のいい所はこうやって小物を隠せるところだ。


 その長く連なった紙を投げ放ち、先程地面に差した笹を囲うように、円状に空中でとどまるようにする。

 そして両手を打った。


 すると辺りから音が消え去る。遠くに聞こえるセミの声も風が木々を揺らす音も消えた。


「『幸魂さちみたま奇魂くしみたま守り給え幸い給え』」


 リーンという甲高い音が響き渡る。


「『幸魂さちみたま奇魂くしみたま守り給え幸い給え』」


 更に鈴のような音が重なり合って聞こえてくる。


「『幸魂さちみたま奇魂くしみたま守り給え幸い給え!』」


 そして柏手かしわでを打つ。すると地面から金色の光が空に向かって走った。

 光が収まると、成長した青竹が一本だけ立っている。

 見た目は竹だけどアレは竹ではない。

 笹を物質変換して竹に見えるように、見せているだけに過ぎない。


 私は生えてきた青竹に近づき、手を伸ばす。すると手前でパシッと手が弾かれた。


 よし、上手いことできている。見えない結界が触媒の竹を覆っており、直接触媒に触れられないようにした。


「鬼頭。これでいいか⋯⋯な?」


 結界に触れた右手を鬼頭に掴まれていた。え? 何?


「って舐めるな! って指噛んでいるし!」


 結界に弾かれたことにより、指先が傷ついてしまっていた。これ絶対に血の匂いに反応したよね。


「もごもごもご」

「何が腹が減っただ。昨日、人の腕二本食ったじゃない〜! 痛い痛い『痛覚無効』」


 着物を切り取られないように袖口を肩まで上げる。


「ばぁの着物は汚さないでよね!」


 っと言った先から、私の腕は切り取られていた。ただ傷口は切られたと認識していないのか、血は吹き出してはいない。直ぐに腕を再生したことにより、着物のクリーニング行きを免れた。


 やればできるのに、何故に何処かの依頼を受ける度に、殺人現場なみの車内になるのかが不思議だ。


 そして結局全ての結界の触媒の状態を確認することになった。すると南側でもう一箇所見つかり、人がよく出入りする南側が狙われていた。


 それから全てを確認して寄るところによって、鬼頭家に帰ったのは夕暮れ時だった。朝から行動していたのに、鬼頭が私の腕を食うから、再び八坂の饅頭屋に戻って、まんじゅうの補給をしてから回った。なので、この時間になってしまったのだ。


 そして私は本家の奥座敷に足を運び、とある人物を待っていたのだった。


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