第7話 見鬼を不当に扱う者など必要ない。
「鬼頭様。そうやって幼子を上から睨みつけているから怖がられるのですよ」
「別に睨んでいない」
「視線を合わせてお話をした方がいいですよ」
するとため息が上から降ってきて、足が地面から離れた。
……こ……これが十環ちゃんが言っていた抱っこというもの!
くっついているよ! え? これ真白はどうすればいいの?
金色の目が思っていた以上に近かった。
「お前……」
鬼頭サマの手が伸ばされて、前髪に触れた。私はこの状況に困惑していたため、反応が遅れて見られてしまった。
「見ないで!」
両手で目を隠す。前髪に覆われた視界が明るくなったので、手遅れなのはわかっている。
だけど、見られなくなかった。
「真白は
「マシロは、ばぁの子になるから
ばぁの優しい声と共に頭を撫ぜられた。
ばぁが、鬼頭サマに言葉をかけるも、鬼頭サマからの返事がない。
やっぱり気味が悪い目と思われたのだろう。
「鬼頭様?」
「いや……
「そうですか……
結局、父親の元に返されること不安を覚え、前髪を押さえながら、ばぁの方に向く。
「ばぁ……」
「マシロ。ばぁは、ここから離れられません。鬼頭様はマシロの悪いようにはしませんよ」
私は後ろ髪を引かれるように、鬼頭サマに抱えられたまま、湯気が立ち上っている場所を後にしたのだった。
そして本家の母屋まで戻ってきてしまった。その母屋の周りでは私のことを探している人たちがいた。
なぜ、私のことなんて探しているのだろう?
母屋の奥にある別宅の入り口に立っている人物を見て、体が強張る。父がいる。
鉄のような鈍色の冷たい視線が私に突き刺さった。
「鬼頭様! もしや娘が『八重の屋敷』に侵入していたのですか!」
薄い茶色の髪の黒紋付を着た父が駆け寄って来る。その姿に思わず鬼頭サマの肩に顔を埋めた。
父は見た目は母より美人だけど、私や母が気に入らないと手を上げてくる。
それに父は刀鬼と呼ばれる者だ。
父が扇子を手にして振るうと、刀のように物を斬ってしまう。そう、ありとあらゆる物を刀としてしまう刀鬼。
それがとても恐ろしかった。
「申し訳ございません。この娘は無能力者の故、鬼頭家にとって無用の者でございます。母親の手前生かしておりましたが、直ぐに始末いたします」
父の言葉は嘘。おかあさんと一緒にいらないと思っていたくせに。無能の私を産んだおかあさんを責めていたくせに。
ただ鬼頭家に迎えいれた手前、里の外に出すこともできないから、飼い殺しにしていただけ。
「真白! こちらに来なさい!」
始末すると言った人のところには行きたくない。
あれ? さっきまでおかあさんと同じように死ねばいいと思っていたのに。死ぬのは嫌だと思っている?
「真白!……うぐっ!」
父のうめき声と共に周りから悲鳴が聞こえた。何がどうしたのだろうと、父の方に視線をむければ、真っ赤に染まって地面に倒れている。
何があったのだろう?
「鬼頭様!」
「何か不手際がありましたでしょうか? 鬼頭様」
周りから聞こえる悲鳴を聞きつけたのか、大祖父様と祖父様が駆けつけてきた。
髪が真っ白の大祖父様。だけど里の中で見かけるおじいさんより足取りがしっかりとしていた。
黒髪に白髪が混じった祖父様。
血の繋がりはあるものの、とても遠い存在。
母屋を出入りしている姿は何度か見たとこがある。多くの者たちを引き連れて、近寄りがたく、威厳ある姿だった。
そう今のように肩身が狭いという雰囲気はまとっていなかったのだった。
「この真白という子供は、こちらで預かる」
「え?」
もちろん驚いた声を上げたのは私だった。先程まで必要ない者と言っていたのに?
「しかしその子供は
「黙れ。
鬼頭サマは大祖父様に怒った。鬼頭サマの方がどう見ても若いのに、一番偉い人と教えてもらった大祖父様を怒っている。
「何故わからない。真白は『見鬼』だ。見鬼を不当に扱う者など必要ない」
ケンキ? 初めて聞く名前。
真白は
「
結界? 里の周りには結界があって、決められた者しか出入りができないと聞いたことがある。
だけど、ばぁがいたところに結界なんてあったのかな?
しかし父親から返事がない。あれ、ヤバくない?
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