第3話 質問
用意されたのは大型の馬車だったが、車内に全員が入ってはさすがに手狭だし、御者(運転手)はいなかったので俺とラックのどちらかが御者台(馬車の運転席)に座り、馬を操作しなきゃいけなかったのだが……。
とてもいい雰囲気のラックとエリザベス公爵令嬢。
とても『じゃあラック、運転してくれ』と言い出せる雰囲気ではない。
仕方ないので俺が御者台に座り馬を操ることにしたのだが……。
「ほぉ~。これが御者台の座り心地か。さすがに初めての経験だね」
なぜだか、すこしワクワクした様子で俺の隣――つまりは御者台の助手席に腰を下ろすシャルロットだった。やはり貴族令嬢らしからぬ口調だな。
「ご令嬢。この席は夜風が当たって寒いので」
「そんな畏まった口調は不要だよ。私とキミの仲じゃないか。気軽に『シャル』と呼んでくれ」
「…………」
まさかの二度目の『シャル』呼び要求だった。
いったいどんな仲だよ? いくら親戚になる予定だったとはいえ、ときどき挨拶する程度の間柄でしかなかっただろうが。
と、そんなツッコミはグッと飲み込んだ俺である。魔の森まではそれなりに長い旅路となるからな。普段の口調でいいというのなら、そっちの方が気楽でいい。
「じゃあ、遠慮なく。シャルロット、そんなドレスじゃ風邪を引くぜ?」
「ははは、大丈夫。風の魔法を応用すれば冷風を遮断できるからね。とても温かいからキミも試してみるといい」
「しかしなぁ」
「……それと、あの二人のイチャイチャを車内で見せつけられるのは少し辛いものがある。と言えば納得してくれるかな?」
「あー……」
そりゃたしかに。
人の恋愛は普段なら微笑ましいものだが、こんな状況で、しかも車内という至近距離で見せつけられるのは勘弁して欲しいのが本音だろう。
納得しかできなかった俺はシャルロットを助手席に載せ、馬車を動かし始めたのだった。
◇
馬を操る、とはいえ四六時中集中している必要はない。特に王城の馬は頭がいいので、道に沿って素直に進んでくれる。
というわけで、俺はとても暇を持て余していた。かといってさすがに馬を放置して車内に入るわけにもいかないので、必然的にシャルロットと雑談をすることとなる。
このシャルロット、結論からすれば面白い女だった。
貴族令嬢にありがちな男に媚を売る言動はないし、かといって自分勝手というわけでもなく、こちらの話を静かに聞いたり、相づちを打ってくれたりしている。
何とも楽しく、話しやすい女性だ。
「まぁ、なんだ? 今日は弟が悪かったな」
そんな話しやすさのせいか、ついついそんなことを口走ってしまう俺だった。婚約破棄をされたばかりで傷ついているかもしれないのに、だ。
「いや、気にする必要はないよ。むしろ安心したね。キミの弟がこちらに興味を抱いていない――どころか、苦手意識を持っていたことは分かっていたから。あのまま夫婦になってもお互い不幸になっていただろう」
「あー」
俺でも分かるんだから、シャルロットでもそりゃ分かるか。まったく、こんな美少女で、こんなにもおもしれー女のどこが不満なのやら。
「……それに、ボクとしてはアーク君に興味を抱いていたしね?」
「興味を抱かれるのは光栄だが……『ボク』? 『アーク君』?」
まさか貴族令嬢からそんな砕けた単語が飛び出てくるとは思わなかったので目を丸くしてしまう俺だった。いや今までも十分すぎるほどに砕けた口調だったが、限度というものがあるだろう。
「おっと、しまったね。アーク君とは話しやすいものだから、ついつい地が出てしまったよ。普段は猫を被っているのだけどね?」
にゃーん、とばかりに猫の手をしてみせるシャルロットだった。やはりおもしれー女だ。
「まぁ、貴族のご令嬢が演技をしているのは普通のことだよな」
「……そう言ってもらえると助かるね。さすがに今さら『貴族令嬢らしい言動をしろ』と言われても困ってしまうから」
にんまりと。
なんだかイタズラを思いついた悪ガキみたいな顔をするシャルロット。
「ところで。一つ真面目な質問をしたいのだけど、いいかな?」
「真面目な? まぁ、俺に答えられることならな」
「では遠慮なく。――アーク君には、
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