前世最強の武闘派令嬢は、現世でも同じく無双したい!!
クラサ
始まりはいつだって唐突だ
「おはようございます、ユライお嬢様。」
朝、私、フェクトリ家の長女、ユライ・フェクトリの目が覚めると、
部屋にいたたくさんのメイドたちが、私に向かって一斉に挨拶をする。
「おはようございます。」
私はそう挨拶を返し、ベットから抜けだし、身支度を整えてもらう。
私はあくびをかみ殺し、眠気を必死に払う。
「お嬢様、今夜は貴女様の10歳の生誕祭がございます。
お嬢様の生誕祭にはたくさんのご令嬢やご子息様が来られますので、
失礼のないように.....まぁ、お嬢様なら心配ないと思いますが。」
フェクトリ家は貴族なのだが、そんな貴族の中でも、
地位は比較的高く、その家の長女である私の誕生祭には、
多くの貴族が招かれるらしい。
「えぇ、分かっています。」
ぼんやりと身支度を整えてもらいながら話を聞き、
今日が私の誕生日だったことを思い出す。
....ん?
な、なんか知らない記憶が私の頭の中にある....
「あ!!!!」
「ど、どうさられましたか!?お嬢様!」
突然、私が大声を出してしまったので、
私の身支度を整えていたメイドの皆さんが驚いた表情を浮かべる。
「何か困った事でもありましたか?それとも.....」
「―いいえ、何でもないんです!!」
心配してくるメイドに、私は少し大きな声でそう伝える。
な、なんでこんな時に思い出してしまうんだ.....
私の、前世の記憶を....!!
―――――
私は、前世で暮らしていた国が戦争に巻き込まれたことによって、
持ち前の身体能力をかわれ、女でありながら戦争に参加することとなった。
正直言って、始めのうちは、国はあまり私に期待していなかったんだと思う。
でも私は、並の男なんかよりも、とびぬけて身体能力が高かった事により、
戦場に出れば負けなしの強さで、私は最強とうたわれていた。
そんな中でも、戦争の激しさは増し、ついには世界中を巻き込む戦争に発展した。
私はある日、いつものように戦場へ行くために身支度を整えていたが.....
「―えっ?」
油断しきっていた私は、背後に迫りくる気配に気づかず、
背後から剣で体を貫かれた。
―その時の出来事は、今なら鮮明に思い出せる。
私を刺した人間は、昨日まで同じ戦場に立ち、
共に我が国を勝利へ導こうとした仲間の一人だった。
なぜ?どうして.....
そう聞こうとしたのに、死が迫っているからか、
口を開いても、声が出ない。
痛い、苦しい。
私は今まで、こんな残酷なことをやっていたのか。
そう思いながら私は長い間苦しみ、やがて、息絶えた。
私を刺した仲間は、そんな私を最後まで冷たい目で見降ろしていた。
―――――
今でもどうしてあいつが私を殺したのか良く分からない。
でも、一つ言えることがある。
それは、あいつの裏には大きな力が働いているということ。
あいつなら、何の利益もないのに私を殺すようなことはしないだろう。
―まあ、そう思い込みたいだけかもしれないが。
「お嬢様?本当にどうかなさいましたか?」
あ、メイドたちのことを忘れてたわ。
「すみません、少し考え事をしていて.....
あの、一人になりたいので、皆さんは部屋から出ていただけると
嬉しいのですが.....」
「わかりました。では皆さん。お嬢様のお部屋から出ますよ。」
「はい、それではお嬢様、朝食の準備が整い次第、またお呼びに来ますね。」
そう言って、メイドの皆さんは、そそくさと私の部屋から出ていく。
―――――
私はぼんやりと外の景色、自分の部屋の窓から眺める。
私が前世で死んでから、どのくらいの月日がたったのだろう?
そして、我が国は、戦争に勝てたのだろうか?
.....私の死に、誰かは悲しんでくれたかな?
世の中は分からないことだらけだけれど、今を生きているのであれば、
分からないなりに進んでいくしかない。
「お嬢様、朝食の準備が整いました。」
「わかりました、今行きますね。」
―――――
「おはよう、愛しのユライ。今日は誕生日おめでとう。」
私がグレート・ホール(この地域の貴族がご飯を食べる場所)に入ると、
開口一番に、お父様にそう言われる。
「おはようございます、お父様。」
私がやんわりと微笑みながらそう返事をすると、
お父様が頬を緩める。
「それより、お母様たちは?」
ご飯を食べるときには、私達家族は、そろって食事をとっているのに、
今日は何故だかお父様しかいない。
(ちなみにフェクトリ家の家族構成は、母、父、兄二人、私の五人構成だ。)
「ああ、皆、ユライの誕生祭の準備をしているからな。
.....私が言えたことではないが、皆、ユライを溺愛しているからな。」
私は、お兄様たちよりもかなり年が離れており、
なおかつ、女の子だからか、かなり家族のみならず、
この家に仕えている、メイドや従者からも溺愛されているのだ。
「あぁ、なるほどです....」
誕生祭、行きたくないな~。
いや、主役が不在のイベントなんて、意味がないのは分かっているが、
あまり私は目立ちたくないのだ。
「ささ、ユライ。早く席についてご飯を食べよう。」
「はい。」
私は、いつもご飯を食べるときの席について、ご飯をさっそく食べる。
ご飯を食べた後、何をしようかな?
前世の記憶を思い出したせいで、体を動かしたいという気持ちが強いのだが、
見つかったら厄介だしな....
いやでも、人の目をいちいち気にしていたら、生きづらいよな。
よし、食事が終わったら、メイドたちに頼んで、模造刀を持ってきてもらうか....
「ユライ、ユライ!」
「ふぇ!?ど、どうかなさいましたか、お父様?」
「それはこちらのセリフだよ、ユライ。
...もしかして、どこか具合でも悪いのか?
メイドたちから、朝からユライの様子が変だと聞いているのだが....」
あ、お父様のみならず、メイドの皆さんにまで心配かけてしまったのか....
「い、いえ。少し考え事をしていただけです。」
「そうか、何か悩みでもあるのか?私でよければ
いつでも話を聞くが?」
―じゃあ、今日急に前世の記憶を思い出して、
前世では最強とうたわれていたんです、なんて言って、
本当に信じますか?信じませんよね!?
絶対、アタオカに思われるだけじゃん!!
「いえ、お父様の手を煩わせるほどの事ではありませんので。」
私は本音を隠しながら、やんわりとお父様の提案を断る。
「そうか、でも思い詰めすぎるのも良くないからな。」
「はい、分かっています。」
―――――
私は朝食をとったあと、すぐさまメイドに模造刀を持ってくるよう頼み、
私に頼まれたメイドは、頭にハテナマークを浮かべながらも、
理由を追求せずに、取りに行ってくれた。
「懐かしい、この感触。」
メイドから模造刀を受け取り、構えると、昔戦場で戦っていた時の記憶が蘇り、
私は思わずそんなことをつぶやきながら、ニヤッと笑ってしまう。
「はっ!!」
私は構えた模造刀を喝を入れながら力いっぱい振り下ろす。
ビュンッ!!
「キャッ!!」
私が模造刀を振り下ろすと、私の周りに風が発生し、
見守っていたメイドの皆さんが、小さな悲鳴を上げる。
だが私は、そんなメイドの皆さんの悲鳴も耳に入らないぐらい興奮していた。
私は、これまでずっと、おしとやかに生活していて、
あまり運動をしてこなかった。
でも、木刀を握り、振り下ろしてみると、
前世には程遠いが、それなりの威力が出た。
この調子なら、前世と同じような訓練を積めば、
あっという間に強くなれるのでは!?
そう思いいたた私は、何回も何回も模造刀を振り、
私の周りに人が集まっているのにも気が付かない程、熱中していた。
「ユライ?これはいったい、どういうことだ?」
突然聞こえたその声に、私はぴたりと木刀を振る手が止まる。
一見優しそうな声音だけれど、私にはわかる。
その言葉の裏側には、とてつもない怒りが隠れていることを。
「ラフィネお兄様....」
「ああそうだよ、愛しの妹よ。
....だがまずは、この状況の説明をしてもらおうか。」
ラフィネお兄様。それは、私の兄であり、フェクトリ家の長男だ。
「説明も何も、私はただ、木刀を使って素振りの練習をしていただけです....」
私はラフィネお兄様の顔を極力見ないようにし、そう答える。
「そんなの見ればわかるよ、ユライ。どうして君が素振りなんてしているのか聞いているんだ。」
見なくても分かる、ラフィネお兄様の顔。
きっとニコニコしているんだろうが、
その表情には隠し切れない怒りの感情が浮かんでいるのだろう。
―てか、なんで私の行動に、こんな風に言われなくちゃいけないの?
私がしたいと思ったことに口をはさむとか、たとえ家族でも....
「うっざ」
思わず前世の名残で、イラついた顔をしながら本音を漏らしてしまう。
「なっ!?ユライ、君は本当にどうしたんだ!?」
ラフィネお兄様は、私の言葉でひどく取り乱し、私の心配をする。
「いえいえ、何でもありませんわ~。」
私は、イラついた表情を隠し、ラフィネお兄様に笑いかけながらそう言う。
「―ユライ、とにかく、俺は女の子が剣を握るなんて、断固反対だからな!!」
「ラフィネお兄様に反対されたって、なんにも関係ありませんわ~。」
私は言葉をやんわり包みながら、ラフィネお兄様に本音を言う。
「ぐっ、な、ならば勝負だ!!」
ラフィネお兄様は、私の本気を悟ったのだろう。
「俺と剣術で勝負し、俺が負けたらユライが剣を握ることを許そう....
ただし!!俺が勝ったら金輪際、剣を握ることは許さん!!
分かったか!?」
「えぇ、分かりました。その勝負、受けて立ちます。」
凛として、堂々とラフィネお兄様にそう言う。
実は私、前世で24歳まで生きたんです。
そしてラフィネお兄様の今の年齢は、21歳。
すなわち、私の方が、歳は上!!
私はにやりと笑いながら、お兄様を見る。
「さあ、そうと決まれば早速、勝負しましょうよ。」
ラフィネお兄様は、まさか私が勝負を受けるとは思っていなかったらしく、
私の言葉に一瞬目を見開いたが、すぐさま余裕そうな表情を浮かべる。
「それじゃ、妹とはいえ手加減しない。
―おい、誰か模造刀を!!」
「はっ!!」
ラフィネお兄様がそう声をかけると、
すぐさま従者の一人が模造刀をラフィネお兄様に渡す。
そしてお兄様は模造刀を構え、私の方を見て、こう言う。
「おい、ユライ。初手は譲ってやる。」
「あらあら、いいんですか?その余裕がいつまで続くか....」
私はしゃべりながら、シュッとジャンプし、常人ではどんなに頑張っても
届かないくらいの高さまで跳ぶ。
「見ものですわね!!」
私を見て、あんぐりと目と口を見開く、ラフィネお兄様やメイド・従者たちの
間抜けな顔が面白く、私はニヤニヤと笑う。
そして、私はついに重力に負け、ラフィネお兄様めがけて頭から落ちていく。
「はっ!!」
私は、ラフィネお兄様の構えた模造刀に、
自分の模造刀が届く、ぎりぎりの高さで模造刀を力いっぱい振り下ろし、
その振り下ろした勢いで体制を整え、
ラフィネお兄様の目の前にシュタッと華麗に着地する。
「チェックメイトです。」
その声に、お兄様ははっとなり、自分の手に、
構えていたはずの模造刀がないことに気が付く。
「なっ!?馬鹿な....!」
「疑うなら、もうひと勝負いたしますか?」
私はラフィネお兄様を馬鹿にするようにふふっと笑いながらそう言う。
周りの者たちは、私の10歳らしからぬ行動を見て、驚いている。
―まあ、正確には、前世あわせて34歳生きてるし....
「ラフィネ!ユライ!お前たちはいったい何をしている!!」
えっ、お、お父様!?
....やばい、一番厄介のが来たわ....
「ラフィネお兄様、後は頼みましたわ。」
私は、勝負に負けたことによって、放心状態になったラフィネお兄様に
そう声をかけ、そそくさとお父様から逃げる。
さて、どこに隠れるのが一番合理的なのだろうか?
私は走り出し、とりあえず図書室に逃げ込むことにする。
図書室は大変入り込んでいて、誰かが来たとしても、
隠れれる場所は豊富にあるからだ。
私は何とかお父様や従者たちから逃げ切り、
図書室に入ってパタンッとドアを閉める。
―よかった、逃げ切れた!!
私は疲れや安堵から、へなへなと床に座り込んでしまった。
前世最強の武闘派令嬢は、現世でも同じく無双したい!! クラサ @kurasa
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