第3話 秘密の修行場①

この世界には貴族が魔法を修め、平民が武道を修めるという厳然たる隔たりが存在する。


その理由は単純である。


魔法を修行するためには、6歳以下で神の祝福を受け、精霊の力を借りて魔法への感知を開かなければならない。


しかし、神に供物を捧げて祝福を得るには、多額の費用が必要だ。貴族にとってそれは当然の出費であっても、日々の生活に追われる平民には到底手の届かないものだった。


その結果、平民は武を選ぶほか道はなかった。


だが、その道もまた容易なものではない。修行の過程には「境地」と呼ばれる壁が立ちはだかり、それを突破しなければ次の修行に進むことができないのだ。


境地の突破は外から助けを借りることができず、修行者本人が悟りに委ねられる。困難さゆえに途中で挫折し、諦める者が後を絶たなく、魔法と並ぶどころか、武は完全に埋もれてしまう存在となっていた。


一方、ライアン家の庭では、10歳の女の子が咒文を唱えていた。桃色の魔杖を軽々と振り、躊躇なく空へ向けると、空気を切り裂くような雷鳴が轟き、天空から一本の雷が大木へと直撃する。


雷の力で真っ二つになった幹が地面に重々しく倒れる音が響いた。女の子は満足げに頷き、大木の残骸に近づいていった。小柄ながらも凛とした姿は、彼女が幼いながらも類稀なる魔法の才能を持つことを物語っていた。


その時、青ざめた顔の侍女が、慌てた足取りで駆け寄ってきた。


「ジュリアお嬢様、ジェレミー坊ちゃんがまたルーカス坊ちゃんをいじめています……!」


その言葉を聞いた瞬間、ジュリアの顔から笑みが消え、代わりに年齢に似合わないほど怒りの色が瞳に宿った。


「またジェレミーね……」


裏庭では、冷たい風が吹き抜ける中、一人の少年が地面に倒れ込んでいた。


顔が苦痛に歪み、泥と草で汚れた服がその状況の過酷さを物語っている。肩を覆う衣服は破れ、腕には何本もの鞭打ちの跡が赤々と残っていた。


倒れた少年の前に立つのはライアン家の四男ライアン=ジェレミー。

金髪を陽光に輝かせ、どこか誇らしげな笑みを浮かべている。その表情は傲慢そのもので、手には彼が得意とする植物魔法を操る魔杖が握られていた。


「ルーカス、何度言えば分かる?」


「この裏庭は、選ばれた者だけが踏み入れる場所だ」

ジェレミーの口調には嘲弄が混じり、ルーカスの心を傷つけていた。


藤蔓つるはルーカスの体をきつく締め上げ、彼の動きを完全に封じている。


「お前のような神に嫌われた落ちこぼれは、裏庭に入る資格がないんだよ」


追い打ちをかけるように、ジェレミーは魔杖を一振りし、藤蔓をさらに締め上げた。苦痛に耐えかねたルーカスが警告した――


「ジェレミー、君も分かっているだろう。妹がもうすぐにここへ来る」


「炭になりたくなければ、僕を解放することだ」


しかし、魔法学院で1年間修行を積んだジェレミーは、ルーカスの警告を嘲笑いながら冷たく返した。


「妹に頼らなければ何もできない腑抜けが何を言う。ジュリアが来たところで、俺に敵うはずがないだろ」


だが、その言葉が終わるか否かのうちに、一筋の雷がジェレミーを直撃した。

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2024年12月15日 14:00

没落貴族の息子に転生した俺は、穏やかな生活を送りたかったのに、武神から最大級の祝福を!?でも、ここって魔法至上主義の世界だろ!? フカヒレ @sharkfin

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