意図せぬボクらの安全圏

 だからこそ、ボクらにはきっと、そういう場所が必要なんだ。


 声の向こうの誰かと話しているときだけは、自分が大学生であることも、誰にも見られていない現実も、全部忘れることができた。


 そして、ふと気づいたことがあった。僕が本当に求めていたのは、大学という「場所」ではなく、「誰かと繋がる」という実感だったんじゃないかということ。


 少し時を経て、それが少しずつわかるようになってきた。


 ふざけた話題の中で、「本当はこう思ってるんだよね」とポロッと本音を出すとき。それを聞いた相手が「わかる、それ」って返してくれる。その瞬間、自分の言葉が誰かに届いたという手応えがあって、孤独だった日々が少しだけマシになる。


 きっとひとと話していくなかで、自分自身の輪郭を確認したかったんだと思う。


 大学では手に入らなかったつながりや、リアルな人間関係のしがらみの中で埋もれてしまった「自分」をただ取り戻したかっただけなんだ。


 結局、そのときは明確な答えは見つからなくて、海外まで出歩くことになったのだけど。


 もしかすると、声ともに集まる人たちは、みんな何かしらの「窮屈さ」を抱えているのかもしれない。現実では言えないことを言うために、ほんの少しの嘘や見栄を織り交ぜながら、誰かと繋がるために。

 

 そう考えると、声ともは現代のスナックや居酒屋みたいなものなんだろう。顔も見えない、名前も知らない、だけど声だけが響き合う空間。そこで僕たちは、ほんの少し自由になれるんだと思う。


〈おわり〉


※この物語はフィクションです。フィクションということにしておきます。

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