Titan RTXの順路・解決
国道沿いを数分歩き、俺はどうにか家にたどり着く。白い壁にポストと『NAGATSUKI』という表札があった。
そこはソーラーパネル付きの普通の一軒家だった。あれ……というか。
「俺ロゼの家来ちまったよ!?」
「別にいいじゃん。同級生でもないんだし」
いや同級生ならまだいいだろ。13歳と28歳だぞ!?
ま、まぁ出前とでも考えるか。ロゼが鍵を開け、ドアをガチャリと開ける。
やや体をこわばらせながら、俺はドアをくぐった。これなんかの法に触れねぇよな?
「ま、入った入った」
玄関の中は暗く、ほぼ何も見えない。
ロゼの声は、その中でよく響いた。
◇◇◇
「……どう?緊張して損した?」
「そうかもな。やっぱりロゼはオタクだ」
俺は明るくなった部屋の中を見る。
縦横2mの正方形の部屋には、隅々まで何かの空箱がいきわたっていた。
空箱には『Radeon』やら『Intel Arc』とか『Xeon』などのカラフルな文字が躍っていた。
ちなみに、勉強用具などの類はゼロだった。後、かわいらしいものも。
「中学生の少ないお小遣いとポイントで集めた、私の誇りたち」
「ふーん……で、その『復讐』の方法ってなんだ?」
「その前に、もしかしてだけど、Aって元カノに未練たらたら系?」
「……え?」
ロゼは軽くニヤけ、部屋の隅からまたマザーボードを持ってきた。
既にパーツが組み合わされたマザーボード。グラフィックボードも、ファンもある。
「おかしいとは思ったんだ。だって元カノが不法侵入してきたら、警察を呼ぶべきでしょ?」
「……まぁ、確かに」
というか元カノが作ったパソコンをまだ使ってる時点で、その可能性は正直頭に浮かんでいた。
でも……まさかな。
「じゃあロゼ、Aが未練たらたらだったとして、それがどう復讐につながるんだ?」
「Aはゲームもそのままにしてる……つまり、いつかプレイする可能性があるでしょ?」
「未練や後悔が収まらなくなった夜、とかか?ロゼ」
「まぁそういうこと」
ややわざとらしく笑った後、ロゼは部屋の隅から持ってきた基盤を持ち上げる。
「ねぇ、ここ見て?」
マザーボードのUSBやHDMIの差込口があるパネルを、ロゼは指さす。
その数秒後、ロゼは黒い長方形……グラフィックボードを指さした。
俺はまた、HDMIやよくわからない端子を見る羽目になった。
「何か気づかない?特に、端子のあたりで」
「気づかないって……端子?」
「同じ端子、2つあるよね?」
え?いや……あ!
「確かに……HDMIの差込口が、両方に!」
「そう。グラフィックボードは映像の専門家だけど、実はCPUだけでも映像は写せるの」
なるほど……いや、でもそれがどう復讐につながるんだ?
「なぁロゼ、グラフィックボードのことはわかったが……それでどう復讐するんだ?」
「まだわからない?意外と察し悪いんだね」
かなり腹が立つが、ここは大人の対応を見せて答えを待つ。
「……餅は餅屋。ここまで言えばわかる?」
ロゼはわざとらしく、それでいてスマートに2つの端子の間で指を動かした。
「内蔵のものより、グラフィックボードを使った方が、いい映像が写せるんだろ?ロゼ」
「Aがどうしても元カノのことを頭から振り切れない夜、Aは思い出のゲームをやろうとする。だけど、プレイはできない」
「……どうしてだ?ロゼ」
ロゼは目を閉じて、しっかり考えた後……言った。
「元カノがTitanに繋がってるケーブルをマザーボードに差し替えたから。Titanは高級品だからね」
俺は煽られたことへのお返しにと、ロゼの言葉を先読みした。
「Titan RTXでプレイできるゲームを、内臓のものでプレイできるわけがない。ってわけだろ?」
「大正解。まぁ最低限な理解力ってことかな」
何を思ってそんなに人を煽るのか。本当に謎だ。
◇◇◇
翌日朝6時。結局ロゼは、どういうわけかここで寝泊まりした。
「……うみゃ?えんみゃ?」
「おはよう。ロゼ」
ロゼは瞼をこすりながら、ゆっくりと起き上がる。
「……そういやロゼ、なんでその……『オーバークロック』の可能性をなくしたんだ?」
「え?オーバークロックはBIOSから設定するんだけど……BIOSまでたどり着けたなら、もっと他の復讐方法があるから」
「他の復讐方法?」
「例えば起動デバイスの優先順位を変える。そうすれば普通に起動できなくなるし、多分Aには直せない」
「ふーん……何言ってるのかさっぱりわかんねぇ」
「やっぱりデジタル力弱いねー、円馬」
頭で考える前に、俺はロゼのほっぺたを掴んでいた。
「いだだだだだ!えんみゃ~!」
「とっととこれ食って帰って学校に行きやがれ、ロゼ」
ロゼのもちもちしたほっぺたから手を離す。痛めつけがいがあるほっぺただった。
「この変態店主……ん?『これ』って?」
嫌々ながら、俺は約束を果たすために皿を差し出す。
両面しっかり焼いた目玉焼きと、3本熱々ウインナー。水にさらしてシャキシャキさせたキャベツとトマト。
最後に特製の塩ドレッシングをかけてやることで、朝プレートの完成である。
「……これがお礼?サービスなの?」
「あぁそうだ。とっとと食って帰ってくれ」
わかりやすく輝きだす、ロゼの両目。彼女は寝起きのまま、テーブル上のフォークを掴んだ。
「……ありがとう、円馬」
目の前のパソコンオタクは、笑顔でフォークをウインナーに差した。
これだから俺はロゼを出禁にできねぇんだ。
自作カーJCは名探偵 日奉 奏 @sniperarihito
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