わんわんわん(三章)
わん・わんわんわん
あれから一夜明け、今日も今日とて仕事だとぶすくれながら家を出て行った佐藤さんを僕は笑顔で見送った。
その後リビングに戻りソファーに座ったところで、心の余裕ができたからこそ思い出したことがあった。
「……あれ、僕、随分と学校を無断欠席してるな?」
メイ探偵ばりに迷推理を披露し、さてどうしようかと頭を悩ませる。
まあ、無断欠席と言ってもそもそも僕、保健室登校なんだけれども。律儀に毎日行ける行けないと電話をかけていたのにも関わらず、全ての始まりである『忌引き』の連絡を入れて以降、何の連絡もせずに休んでいたのだ。
もしかしたら親戚が『咲羅は死んだ』とか何とか要らない連絡をしたかもしれないが、はて、今学校で僕はどんな位置付けになっているのだろうか。
一度気になったら、解決するまで気になり続けてしまう。それならばさっさと電話してみれば良いか。
佐藤さんにも家にあるものは使って良いと許可はもらっている。固定電話も然り。それに毎日学校には電話していたから電話番号も空で言える。よし、電話をかけるにあたって不足はなし。
…………
「良かったわ、小手さんに繋がって。」
「いえ、こちらこそしばらく電話もなしにすみません。家で色々バタバタしていて……」
「良いんです。あなたが元気でいてくれたのなら。」
「ありがとうございます。」
ちょうど電話に出てくれたのは僕の担任だったらしい。この先生は僕を邪険にせず、学校に行くのも強制しない。そのおかげか少しずつ学校に行けるようになっていたりする。優しい先生だと僕は思う。
「で、今、学校では何か変わったこととかありますか? ほら、例えば僕はもう死んだとか……」
「いえ、特には。というかその例えはなんですか。さすがに怒りますよ?」
「あ、いえ、その……すみません。」
と言うことは、親戚らは学校に何か吹き込んだわけではない、と。それが分かっただけでも収穫だ。
「また行けそうになったら、そちらに行きます。」
「はい、いつでも待ってますからね。」
その言葉を最後に、電話をプツリと切った。
…………
さて、気持ちを切り替えて、今日は取り敢えず家で出来ることをしよう。そう決めた。
「頑張るぞ!」
僕はリビングでフンスと意気込んだ。
というのも、家にいるだけだと僕はただの穀潰しになるので、その分家事を担えば佐藤さんの助けになるかな、と考えたからだ。
と言っても、今まで洗濯くらいしか真面目にやったことはないけれども。
服は綺麗なものを身につけていないと周りからなんだかんだと言われてしまうから。せめて見た目だけでもマトモな人間に見えるようにしなければならなかったのだ。
まずは僕の得意分野、洗濯から始めようと思う。
──楓真side
今日も今日とて行きたくもない労働をしに出かけた。サキちゃんと四六時中一緒にいられたのなら、だなんて願望で心を慰めながら、この疲れはサキちゃんに癒してもらおうと決めた。
「ただいま。」
玄関を潜ると、真っ暗な家が俺を出迎えた。
あれ、サキちゃんはどこかに出かけているのか? そう疑問に思う程暗く静かで、とても寒かった。
サキちゃんが来る前と何ら変わりないはずなのに、この静けさがとても嫌だと思った。これではサキちゃんが俺の家から出て行った時、俺が堪えられないだろう。
……ん? サキちゃんが、家を、出て行く……?
まさか昨日の今日で出て行ったわけではないよな? そんな嫌な想像を繰り広げ、それを振り払うように急いで家の中を探し回る。サキちゃんがいない生活を考えただけでゾッとしたのだ。
「キューン……」
「ん?」
キッチンの電気をつけると、まるで泣いているかのような声が聞こえた。
声の元を辿ると、サキちゃんの
「ちょ、サキちゃん、待った!」
直で皿の破片を触っているサキちゃんの肉球からは血が流れ出ている。それを見て俺はサッと顔を青ざめさせ、待ったをかける。
ポメラニアンの姿でキューンキューン泣いていたサキちゃん。もしかしたら皿を割って怪我をしたことでポメ化したのかもしれないな。
と、原因を考えながらも少し冷静になった頭は、取り敢えずサキちゃんを抱えてその場を後にする指令を出した。
そのまま鞄を引ったくって外に出て夜道を走る。
…………
「これで大丈夫だろう。」
「ありがとうございました。」
拾った時にもお世話になった近所の動物病院へと走り、処置をしてもらった。
いや、さすがに犬が怪我をした時の対処法までは頭に入ってなかったし、パニックでどうしたら良いか分からなかったのだ。先程頭が冷静だなんだと言ったが、そうでもなかったらしい。
「それにしても、この子はまだ犬のままなのか?」
そういえばこの先生に、サキちゃんはポメガだと教えられたんだっけ。覚えてくれていたんだ。
「いえ、何度か人間の姿に戻ってます。今日も朝は人間の姿でした。」
「ほう……?」
「で、帰ってきたら割れた皿をどうにかしようと素手で……それで怪我をしたのかと。」
「なるほどなぁ……。」
俺の話を聞いてウンウンと頷く先生。そして『ああ、そうだ。一つ言っておく』と忠告された。
「サキちゃん、だったか。この子、随分痛みに強いのか、痛みを感じていないのか分からんな。処置する前も痛みに泣いていたわけではなさそうだし、処置も大人しく受けてくれた。」
どうしても、痛みを感じると無意識に体が反応するだろう? それがこの子には無かったんだ。
そんなことを言われ、だからこそ怪我には気をつけるように、と釘を刺された。
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