第27話:唯一つを見据えて
カーツァラッテの視界に最初に入ってきたのはサムソーだった。
「また昨日までみたいに操ってあげるよ!
サムソーの腰にはいつもぶら下げている刀が無かった。
「ざ弱体呪術・『鈍亀の法・累乗』。」
ズ ウ ン ギ ン
「くっ……。」がくっ
「体が重い……!?メグメグの心と違ってすっごく重いよ!?でもこれで僕様の思い通りに……。あれ?狸君?」
サムソーは術を撃つと気絶してしまった。
「あ……成程ね自身の意識を手放す代わりに術の威力を上げる『後払い』を使ってるのね。昔食らった術よりもキツイなと思ってたけど納得したよ。じゃあ君はもういいや。後で潰すね。」
(あれ?他の連中は?)
カーツァラッテは頭を振り熱探知を行う。そして彼は自身が既に四人によって包囲されている事に気付いた!
(左に二人右に二人……!)
「符術解放!
ド シ ュ ウ ウ ウ ン !
「うあっ!?」
カーツァラッテの体に冷気と熱気が直撃する!しかし暗闇の先にいる相手に照準を合わせるのは困難だ!
「君達運が良いね。ズレてたお陰でどっちの攻撃も食らっちゃったよ。まあ九割相殺してそうだったけど。」
「「!!」」
(くそ……当たっただけでもラッキーだが同じところには当てられなかったか……!)
(明かりが無いと標準を合わせるのは厳しいな……!)
「でも百パーを打ち込んでたとしても無駄だよ。もう僕様は
「何ぃ!?」 「そんな技も有るのか……!」
(右に居た二人はもう無力化したも同然。今の僕様にとって一番の脅威は……。)
カーツァラッテは左に頭を向け横に移動する。接地面積を減らし音量を減らし移動しているのだ。すぐに左側にいた女子二人を彼は発見した。
「君だよメグメグ!喰らえ
「逃げるぞメグ子!」 「うん!」
二人はカーツァラッテの視界から外れようと背中を見せて走り出す!カーツァラッテは尚も追尾するが先程の呪術によってスピードが落とされているようだ!中々二人を視界に入れられない!
「僕様を遅くして逃げようってわけかい?ただ無意味だよ?君の生命力吸収以外有効打は存在しないんだから……」ぴた
カーツァラッテは動きを止める。
「どうした?来ねえと捕まえられないだろ?」
インフェルノが暗闇から話しかけてくる。嘘や隠し事は下手な女のようだ。その声には焦りが確かに含まれていた。
「ふ〜ん……ただ逃げてたわけじゃないんだね。」すっ
カーツァラッテは頭を地面に向け、地面を丸ごと口に含む。
「もごご……。」
「なっ……!てめえまさか!」
「じらひひほんへたんへひょ(地雷仕込んでたんでしょ)?ふぶふひのほうほうひゅはんはもん(符術師の常套手段だもん)。」
「くっ……!」 「嘘……!」
ボヒュウウウ!
右側から炎が飛んでくる。
「よし見えた!いくぞラーヴァ君!」 「はい!」
「……うっほおひいな……(鬱陶しいな……)。」
カーツァラッテは口に地雷を含んだままラーヴァ達の方を向く。
「まずっ」 「こっち見やがれク」
「ん ぱ っ ! !」
カーツァラッテは勢いよく口いっぱいに詰め込んだ地雷入りの土をラーヴァ達へ吐き出す!
「ちっ」 「うおっ」 ばっ
避けるラーヴァ達!
ド シ ャ ッ ピキィィィン……
「へ?」 「不味い地雷だ!」
ボ ガ ア ア ア ン !
「うわあああ!」 「ぐあああっ!」
シ ュ ウ ウ ウ ……
ラーヴァ達は地雷の爆発に巻き込まれてしまった!
「爆発か……いい線いってたけどまだまだだね。ふう……さて後は二人だけ。」
「ウオラアアアア!!」 「はああ!!」
二人はカーツァラッテが右を向いている間に彼の懐へ忍び込んでいた!
「符術装着!
「吸い取り攻撃!」
「うっ 懐に……!」
ズ バ ズ バ ズ バ ! ズ ム ム ム ……
インフェルノは斧で頭を上に上げたカーツァラッテの地面についている部分の皮膚を切り裂きそこに二人が侵入していく!
「そうすれば見えないって?考えたね……。」
「血の激流に飲まれたら最後だよ!肉と肉の間を上手く移動しよう!」キュウウウウン……
「おう!」ズババ
「不味い……どうすれば……!」
カーツァラッテは考えた。まずは高くジャンプし彼らに衝撃を伝えてみた。
「このっこのっ!出てこい!」
ド ス ン ド ス ン !
プ ッ シ ャ ア ア ア ア ……
「ぐううっ」
牙を岩に突き刺し全身を回すことで遠心力で傷口から彼女たちを出そうと試みたりもした。
「あががが!!」
ブ ウ ン ブ ウ ン ブ ウ ン !
ビ シ ャ シ ャ シ ャ ……
「ああっ」
しかし彼女たちはどんどん肉の間を突き進んでいく!
(駄目だ……このままじゃ死ぬ……。)
「首はここらへんか!いくぞ!」
「フェルちゃん仕留めちゃうの!?二人は……」
「うるせぇ!どうせお膳立てしないと使えねえようなら実戦じゃ役に立たないだろ!……あっ」
《グレイトバーンさん……ロマンってのは実用的じゃないからロマンなんですよ。》
《その研究の時間を他の事に割いたらどうです?貴方には才能が有るのですから……。》
《イヤぬるま湯かお冷が出来るだけでしょ!》
「……あんなのは……実用的じゃ……無かったのかも知れねえ……。まあとにかく!今ここでこいつは仕留めねえと駄目だ!」ズブブブ……
「……分かったよ!はああ生命力分離!!」キュウウウン……
「あっ ああっ あっ……。」
ファァ……
「あ……。」
首を内側から切られ、生命力を吸われ、絶体絶命の危機に瀕したカーツァラッテ。彼は走馬灯を見始めた。
(ああ……僕様も最期に……こういうの見るんだ……。)
《僕がこの東方諸島を守る聖獣です!よろしくお願いします!》
《うわあああデカい蛇が喋ってるうう!!》
《崇め奉るのじゃ!さもなければ儂らが殺される!》
(僕様……どこ行っても嫌われ者だったな……。)
《蛇神様……どうか憎き地底人を滅ぼし……我々地上の民に勝利を……!》
《それをしたら……皆僕の友達になってくれるのかな……?》
《はいもちろん!我々は魂の盟友になりましょうぞ!》
(今思えば馬鹿だったな僕様は……。都合良く利用されてただけなのに……。)
《お前は……騙されているぞ……上の……科学を持たぬ野蛮人共に……!》
《野蛮でもいい!僕だって皆に好かれたいんだ!友達が欲しいんだ!うわあああ!》ぐしゃっ!
《皆やったよ……僕やったよ……!あれ?出口が無い!?あれ?あれ?》
(もうこんな記憶……見たくない……。自分の記憶を消してやりたい……!)
《カーツァラッテ君!》
(あ……!)
映し出される記憶はより深い所へ移動する。彼の根源の記憶だ。
《またルゲイッソヨ君にやられたの?酷い……目が潰れちゃってる……。》
《僕は弱いから……七聖獣の面汚しだから……仕方ないんだよ。虐められる側にも……》
《言うな!そんな横暴、僕は許さない!》
《その声は……ヴァルシュバルト君……。》
《最近は本当に酷いね……。前から暴れん坊だったけど何でこんな……。》
《あいつどうやら僕達が仲良くしてるのを見るのも嫌らしい。暫くこっちにいよう。ここならバレないはず。》
《うん……。》
《今治すからねカーツァラッテ君!》ポアアア……
《……二人はどうしてこんな僕に優しくしてくれるの?二人にとっても本当は不愉快じゃない?こんな弱くて不器用で情けない同僚……。》
《そんな卑屈にならないでよ……。》
《でも僕は……》
《弱かったとしても。情けなかったとしても。僕は君に消えて欲しいなんて思った事は無い。君は僕達と同じくガネーシャ様に作られた存在だ。もう百年以上放置されてこそいるが……きっと僕達は望まれて生まれてきている。君が自分を価値の無いものとして捉えているなら、それは君でなく君を活かせないコミュニティの問題だ。君は僕やメグメグさんや、他の皆にも必要とされている。それで……》
《……う、うん……。》
《長々しく喋るのは効果的じゃないよヴァルシュバルト君!》
《ん?そうかい……?》
《こういう時は一言で良いんだよ。理屈じゃない、魔法の言葉。ヴァルシュバルト君も思ってるはずだよ。》
《……そうだね。》
大好きだよ。
(うぇへへ……これが僕の……根源の記憶……。……やっぱり僕は……メグメグさんとヴァルシュ君が……大好きなんだ。悔しいなああんな悪く言っておいて……やっぱり僕はメグメグさんが欲しくてたまらないんだ。)
(あれ……今……これ……。)
《……おっ!目が開いたね!良かった治ったんだね!》
(見えてるじゃん……。僕の頭の中で……。)
《大丈夫だよ。居なくなったりしないよ。ほら、こうすると温かいでしょ?カーツァラッテ君がもういいって言うまでずっと一緒にいてあげるからね……。》
「『
ギ ン !
「うぁ……」ぐた……
「!?どうしたメグ子ぉ!後ちょっとだぞぉ!」
ギ ン !
「あがっ……」がくん……
カーツァラッテ。彼の能力は概念系である。目から記憶消去光線を照射しているわけでは無く、彼が見たと判断した時その能力は作動する。死に瀕した走馬灯で一万年経っても色褪せない二人の姿と確かに溜めてきた能力の経験値によって彼の身には変化が起きた!彼は頭の中にかつて自分が見た対象の姿を服装・小物に至るまで精密に再現することで遂に肉眼でなく心眼でその能力を発動するに至ったのである!
「ほら……出ておいで……。」
彼は傷口を下にし体をよじり二人を排出した。
ずるずるっ ポチャチャ……
「……ありがとうメグメグさん。貴方のお陰で僕は覚醒できた。だけどごめん、やっぱり譲れない……!僕には貴方達しか無い!無理矢理でも僕の旅に連れて行く!」
「……にを……」
「?」
「何をぺちゃくちゃしゃべくってんだバケモンがああ!!」ドズ!
「なにっ!?」
サムソーの刀を持ったギャンブが襲いかかる!
「
「うおお!喰らえええ!」
自分の方へ振り向くだろうと読んでいたギャンブは既に刀を投げていた!
ズ ブ
「ぐっ」
カーツァラッテは右目を潰された!
「読みが当たったぁ!」
(これがオレの限界!右の死角から逃げるぜぇ〜!)
「……『
ギ ン !
「あっ……。」どさ……
ギャンブは記憶を失い気絶する。
「ふぅ……。あ、生きてたんだね。二人も。」
「「!!」」
カーツァラッテは舌を出し嗅覚で後ろの情報を把握する。濃厚な若い男の血の匂いだ。……彼はラーヴァとフリジットが立ち上がっている事に気付いた。
「見なくても分かるよ。さっきので足が折れちゃってるでしょ?」
「さあな……ボキッ
「あがっ」
「いわんこっちゃない。」
「赤髪の子は特に闘志が強いから……
(もはや第三の目をこの乾いた外界に晒すまでも無い……。)
「志路磨堕乱・追……」
ぴんっ
「!?」
(何だ!?熱探知が反応してる……!?)
彼はふと見上げた頭上に後ろの二人とは別のもう一つの生体反応を熱で感知した。
「いっけええええ!!」
「君達は囮か!」
(適応済みの攻撃しか撃ってこない二人と謎の反応、狙うべきは……)
「シャアアアアア!!」ばっ
彼は空高く飛び上がる!
(一度この目に収めてしまえば、後は記憶の目で倒せる!)
「……!?」
しかし彼の視界に入ってきたのは機械の腕だった!彼は勢い良くそれを飲み込む!
ゴ ク ン ! チ リ チ リ チ リ ……
「あ……あづっ」
「先生が……言っていた……!蛇の熱探知は赤外線を利用している……!お前はそれを人だと思わずにはいられない!」
カーツァラッテの傷つき薄くなった喉は赤外線照射により熱され赤熱する!
「見えた!いくぞラーヴァ君!」「はい!」
「符術解放!
「……無駄さ!君達の炎と氷じゃ僕の喉は貫けない!」
パキパキパキボヒュウウウ!!
「ああ可哀想に……!二人共同じとこに撃つから相殺されちゃったよ!残念だった……」
(……いや本当に?何か策があるんじゃ……。彼らはこんな土壇場で意味の無い行為をするのか!?)
「
ギ ン !
「うっ」 「くっ」
「飛んだ勢いのまま潰して……」
キィン……
「へえっ?」
ブツブツブツブツ
カーツァラッテは攻撃が当たった首の辺りに熱さとも冷たさとも違う奇妙な感覚を覚える!
―― ―― ――
「……う……。ここは……?」
インフェルノは目を覚ます。
「!」
彼女は見た。
「ウェアアアアアアア!!」ブツブツブツブツ
カ ッ
「「『
ボ ッ ッ ッ バ ア ア ア ア ア ア ア ア ン ッ ッ ッ !!
「ああ……!」
激しい閃光と共にカーツァラッテの首が弾け飛ぶのを。
彼女は涙を流した。
「……ありがとう。……ありがとう!!」
シ ュ ウ ウ ウ …… ド チ ャ ッ
(あ〜……やられたぁ〜……。僕……このまま死ぬな……。……もう動けない……。)
カーツァラッテは首で二つに分断され、その巨躯で二人を潰すことは叶わなかった。
《いつか僕メグメグさんとヴァルシュ君と一緒に!世界……回ってみたいな!》
「……能力解除。」
カ ッ
「うっ!?」
「ラーヴァ君もしかして……。」
「はい。遠隔!狐火!よし全部撃てる……!」
「やったな!」
「……?オイ待て!あいつなんかまだ口走って……」
「一点集中……『
ギ ン !!
「「「!!」」」
「ンマ〜往生際の悪い!オマエまだ……。」
「どうだギャンブ!」
「……ち。最後っ屁だ。こいつ死んだぜ。今ので。」
「喰らったのはサムソー以外で気絶してる奴……ハッ!メグ子!メグ子ぉ!」
ギャンブが起きたにも関わらずメグメグは気絶したままだ。
「ンマ〜どこまで粘着質なんだテメエ!」げしげし
「……う……。」
しかしすぐに彼女は目を覚ました。
「お!?」げしげし
「ギャンブさん、死体蹴りはしないであげて……。」
「お……おうすまねえ!」
「メグ子……今ギャンブさんって……。俺は分かるか?おい?」
「ん、フェルちゃん……。」
「良かった!無事そうだ!」
「皆疲れたよね!待っててね!今治療するから!」
メグメグはインフェルノ、ギャンブ、サムソーを治療してやると二人の前に来る。
「あ……メグメグ……。」
「フリジットさん足が折れ曲がっちゃってるよ!ここまで引きずって動いたの!?それに両手も……!今治すからね!」ポアアア……
「助かるぞ!」
メグメグはフリジットに生命力を注ぎ込む。
「あれ……?メグメグさんなんだか手が……!」
ポアアア……にょきっ!
「「「!?」」」
メグメグはフリジットの欠損した両手を新たに再生させた!
「はあ!?メグメグお前……他人への欠損再生出来たのかよ!?」
「え?ああはい出来ますよ?」
ラーヴァの質問にメグメグが答える。
「じゃあ何で今までやらなかったお前!?」
「あれ……?確かにそういえば今までやってなかった……。」
(カーツァラッテ君が抜いた記憶ってもしかして……それに関わる事だったのかな?……ありがとうね。)
(メグ子の事好きなのは本当だったみたいだな。)
「さてと……あっ待たせたね!お兄さんも治療するね!」
「「「!」」」
「お……お兄さん……。そんな……まさかラーヴァ君の記憶だけ抜いたのか……!?」
「や〜いオレ未満〜!」 「黙っとけ。」 「ンマ〜姉貴も辛辣!?」 「はひふへ本当にお前はうるさいな……。」 「あ!師匠おはようございます!」
「メグメグ……その……。」
「どうでもいい事だけどさ〜不思議だね〜私達初対面なのにさっきお兄さん『今まで』とか私の事知ってるみたいに話すね〜。」ちらっ
「メグメグさん思い出せないか!?この人はラーヴァ君っていっておれ達と共に旅してくれている仲間で……」
「フリジットさんも黙っといてやれ。」 「え!?」
「岩に挟まれた感じかなこれ〜。すぐ抜け出せてよかったね〜。」ちらっ ちらっ
「オレが二人を岩から……もごごっ」 「「黙れ!」「ありがとな!」
「ん〜ちょっと待ってね……もうじき治療終わるからね「メグメグ!!」
ラーヴァは大きな声で彼女の声を遮る。
「んえっ!?どうしたのお兄さん!?大丈夫!?どこか痛いところでも……」
ラーヴァは頭を地面につける。
「忘れててすまーん!!」
「良いよー!!」ポアアア
メグメグはすぐにラーヴァの怪我を治しきった。彼女はラーヴァの頭を上げさせる。
「俺……メグメグの事、嫌いなわけじゃないんだ!寧ろ今は割と好きなんだ!」
「割とは余計!」
「あっ ああっ」
「でも謝ってくれたから良いよ!ただ一つ宣言するね!」
彼女はラーヴァの肩を掴み目を合わさせて言った。
「フリジットさんは忘れられなかったのに!私だけ忘れられて!私悔しかったから!ラーヴァ君の記憶から一生!二度と忘れられたくないから!!意地でもその気にさせて!大好きで!大切で!かけがいのない女になるからぁ!!!」
「「「!?」」」
「はぁ はぁ ……覚悟しててよね。……はい終わり!この話終わり!次の事考えよっ!」
メグメグは手を離した。
「お……おう……。」
ラーヴァは驚きで放心気味だ。
「うわあああなんじゃこりゃああ!!」 「何でおら達はあんな奴を女神なんて呼んでたんだあ〜!?」 「クソ……三年以上人の事使い潰しやがって!」
「おお!街の人の記憶も戻ったんだな!」
「よっしゃ 後は潜水艦だけだな!」 「さしすせそういえばそんな話あったな。」
「……あ!俺新しい術使えるようになってるっぽいです先輩!そういえば二戦目(書かれてないところで
「おお!どんなのだ!?」
「えいっ!」ボッ
ラーヴァは右の人差し指から火を出す。
「……?」
「あれ……?なにこれしょぼ……。」
「ンマ〜こういうのは特殊効果付きなのが定番だろ!」
「それもそうだな!カーツァラッテの遺体で試すか。」ボッ
「ちょっ 死体蹴りはやめてって!」
キーン……
「!」
ラーヴァの頭にカーツァラッテの記憶が入ってきた!
「……お前にもつらい過去があったんだな……最期のお前は確かに戦士だった。死体蹴りを謝罪するよ。」
「急に良いやつになったぁ!?」 「ラーヴァ君は素直でいい子だぞ!」 「あいうえお前にはな……。」
「名付けて『
五人は一部の街の人や船員達も呼びラーヴァに付いていく。
「確かここに秘密基地の入口があって……。」ほりほり
「この珊瑚礁の迷宮を進んでいった先に……。」すたすた
「よし!有ったぜ潜水艦!」
「「「でかした!」」」
「おら達を助けてくれたのは皆だろお。ありがとうなあ。」
「いえ俺達も皆さん、特にあなたには助けられましたので……!ところで街の皆さんのご意向は……。」
「もちろん!皆戦う気満々だぜ!」
「お前は先輩の胸筋を揉んだ野郎……!」
「いやごめん。ホントごめん。」 「いいぞ!」 「ホント?じゃあお言葉に甘えて……。」 「あっ そういう方のいいぞでは無くてだな……!」 「目覚めちゃってる!」 「フツーにもう女より男だわ。」 「上も下も色々変わっちまったな……。」
「ここは俺の故郷に近い。」
ラーヴァは低い声で話す。
「「「!」」」
「クソみたいな独裁者に占領されてて、皆人と接したいだけなのに傷つけあってる……。でもここは俺の故郷とは違う。皆生きてる。大人が殆ど殺された俺の故郷とは違って、女も男も何とか生き延びてる……!」
(上は結構エンジョイしてたのは多分言わないほうが良いね……。まあ小鳥遊さんが睨みきかせてるから精神的にはキツかったけど……。)
「俺は勝ちたい!あいつにこれ以上何の犠牲も払わず!完封で勝利してやりたい!今街の皆さんのご意向を聞けて良かった!」
「皆で戦って勝つぞおおお!!」
「「「オー!!」」」
ラーヴァのスピーチで人々の雰囲気は一気に締まり、皆臨戦態勢になった!
「潜水艦のデカさから考えてもここにいる全員が入れるとは思えねえな……。俺から一ついいか?」
「お願いしますインフェルノさん。」
「潜水艦に乗って奇襲を仕掛ける班と地上で避難活動を行う班に分かれたほうが良いと思うぜ。避難が終わったら少し手伝って欲しいこともある。俺は地上班に名乗りを上げたい。」
「良いですね!」
「奇襲をかけるなら氷炎大爆発が使える二人は潜水班の方が良いんじゃない?」
「それもそうだな!」
「そして私も二人と一緒に……」
「あいや、回復が使えるメグメグは地上班にいた方が良い。さしす潜水艦での攻撃を始め次第本格的な避難を開始するんだろうがどうしても間に合わないで攻撃の余波を食らう人が出ると思うから。」
「う……それもそうか……。じゃあ私も地上班行くよ!二人にも伝わるくらい活躍するからね!」
「師匠オレらは……。」
「ばびぶべ僕達も地上班だ。聞いたとこお前サボりまくってて船の知識とか抜けてそうだしな。」
「ンマ〜こっ酷い……いや古代の潜水艦と船に相関性無いと思うけどな〜……。」
「じゃあ僕達船員の中でも知識自慢の人達を潜水艦に入れますね!」
「ああ!頼むぜマリオ!」
ラーヴァ達は地上班と潜水班に分かれた。
――潜水艦内部――
「僕達の船とは勝手が違う部分が多いねやっぱり。潜水艦で船長やるのはキツイかもねー。」
「そうですか……。」
「でももう良い感じに使えそうだよ。古代の地底人語のマニュアルが有ったみたいでね。それを解読してる人がいる。」
ラーヴァは奥に進んでみる。
「これは……成程探知機能か……。」
「胸筋男!?お前そんな頭良かったのか……!」
「俺の名前コロコロ変わるね……。うん。俺古代語勉強してたよ。」
「すげぇ……!」
「ラーヴァさんこっちに来てください!」
「ああ!」
マリオに呼ばれラーヴァは下の部屋に移動する。そこは大人数が集まれる空間となっていた。人集りを避けて見てみるとそこには白骨死体が有った。
「この人……地底人ですかね……?」
「はい恐らく……。」
「おれ達の方法で葬るのは傲慢かもしれないな……。」
「そうですね。地上人の行いで地底人が滅んでるみたいですし……。彼はこの船を愛していた船員なんでしょう。ここにいさせておきましょう。ただ……。」すっ
「少し記憶を見せて貰いましょう!」ボゥ……
キーン……
「よし!潜水艦の大まかな情報が入ってきました!」
「「「おお〜!」」」
ラーヴァとフリジットの胸筋を揉んだ男の活躍もあり六月十一日の朝には潜水艇の仕組みを把握した。
「僕は残念ながらここまでです……!僕より優秀な人が沢山いるので……。」
「助かったぞマリオ君!」 「地上班の皆に作戦開始を伝えてくれ!」
「はい!」
「いいのかい?船長僕で?」
「頼むぜ船長!」 「俺は指揮は得意じゃないからさ〜。」
「じゃあ……進水〜!」
「「「ハッ!」」」
ラーヴァ達は地下の湖から海へ向かい始めた!
「そういえば先輩機械の義手は……?」
「あの後探したんだが見つからなくてな!多分氷炎大爆発に巻き込まれてしまったんだろうな!でも大丈夫だぞ!メグメグさんが新たに手を生やしてくれたからな!」
フリジットは手を交互にグーとパーの形にする。
「先輩……完全復活ですね!」
「おう!」ぐっぱっ ぐっぱっ
「……先輩!その……手、握っても良いですか?」
「勿論だ!」
ラーヴァはフリジットと手のひらを合わす。身長差も有り二人の手はまるで親子のようなサイズ差がある。ラーヴァは自身の小指が内側に来るようにフリジットと指を交互に交わした。開いたままのフリジットの手をラーヴァはぎゅっと締める。
「ぇへへ……先輩の手温かいな……。義手の先輩もかっこよかったけどやっぱり生身が一番ですね!」
「そうか?それなら良かった!」
「俺も混ざっていい?」ひょこっ
「うげっ 来るな胸もみ男!」
「いや君のそれと何が違うん?」
「俺はお前と違って先輩の事邪な目で見てないから!」
「じゃあどういう心理で指変わしてるん?」
「ええ……?あ〜……親子!親子みたいな心理!好きな人の大きな手の中だと安心する位の意味しかないから!」
「恋人繋ぎしておいて性愛なしはそれは逆に気持ち悪くない……?」
「黙れ!俺と先輩の仲に入ってくるな!」
「ラーヴァ君は愛情表現を素直にする子だな!」
「ほら!先輩には伝わってるだろ?どっか行け シッ シッ!」
(((船の時も思ったけどラーヴァさんフリジットさんに対しての好感度異常に高いよな……。)))
船員達は何か違和感を感じたが、口に出さない事にしておいた。
「てかホントにどっか行っていいの?もう小鳥遊の胴の下まで移動したんだけど。」
「「!!」」
「まじかすまねえ!状況説明頼む!」
ラーヴァはフリジットの手を離し男の話に耳を傾ける。
「ここは東方諸島から五十キロ程離れた場所。小鳥遊は深度一キロを優に超えたこの海で細長い蟻のような足を突っ立ててここにいるみたいで。胴体部分は常に水に付けてるみたいだな。頭だけは浸からないようにしてる。」
「海の中だとまた勝手が違うからな……。できれば陸上から撃ちたいぞ!」
「てことは喉元狙えるのか!」
「そうだな。ただバレるリスクは当然高い。」
「……そういえば腹の部分はどうなんだ?」
「腹は……大部分を水に付けてるね。」
「なら腹の部分から仕掛けたいぞ!蟻は背の方に心臓があると聞いたことがある!後ろから登っていって腹と胸のくびれからそれを露出させたいぞ!」
「オッケー!皆に伝えとくわ!」
「お願いするぞ!」
男は船長たちのいる操舵室へ向かった。暫くすると船長が二人の元へ来た。
「二人共、今浮上中だよ。ハッチへ向かって!」
「ああ!」 「はい!」
「いよいよですね……!先輩!」
「ああ!腹から近づいて胸と腹の間に一撃を入れてやろう!」
「はい!」
「海面に浮上!上陸可能な状態になりました!ハッチを開けます!」
船員がハッチを開ける。ラーヴァはそこから顔を出す。潜水艦の先に広がるのは凄まじい傾斜の岩の壁だった。頭を左から右にぐいっと回してみるが前方の視界は完全に岩の壁に覆われていた。
「これが小鳥遊の腹……。改めてイカれたスケール感だ……!」
「行きましょう先輩!」
「おう!潜水艦に何かあった時は魚雷を活用してくれ!」
「はい!」
二人は潜水艦から飛び出した。傾斜角はそれほどでもなくよじ登っていく事も不可能では無いだろうが、わざわざここで時間と体力を使う道理はない。ラーヴァはフリジットの腹を持ち空を飛んでいく。
「このまま節のところまで行ければいいんですけど……。」
かさかさ……かさかさ……
「「!」」
そうは問屋がおろさない。小鳥遊本体の巨体には無数の小型小鳥遊が蠢いていた!
「まじかよ!」 「なっ……」
「やっぱりバックを取ってきたわね
「本当に卑劣で下劣……。」
「いくぞラーヴァ君!符術解放!
ビュオオオ!ボヒュウウウ!
「否定はしないのね。内心認めてるのか……」ブツブツブツブツ
ボ ッ ガ ア ア ァ ー ン !
働き蟻小鳥遊は一瞬で爆散しそれに巻き込まれたいくつかの働き蟻小鳥遊も絶命する!
「……へ?」
「二人から話は聞いたからな。どうせ俺達とお前の話は平行線。お前とは話すだけの価値がない。力で決めよう。」
「……はいでた
ビュウン!
ラーヴァは道を開けるとそのまま胸と腹の節に向かう。小鳥遊も当然それを止めにかかる!
「何だあれ急に大きくなって……。」
「働き蟻が重なり合ってるんだ!」
「「「凝酸!!」」」
ラーヴァ達は幾重にも積み重なった働き蟻小鳥遊に狙われる!
「
ピュイイイ……ボ ッ ガ ア ア ァ ー ン !
ラーヴァとフリジットは着弾地点で線を描き働き蟻の集合体を爆破させる。
「……知能が低いって良いわね。何も気にせず戦えるもの。」
(え……?嘘でしょ……?まさかこの包囲網が破られて……。)
「ラーヴァ君!腹の頂上までついたぞ!」
「一気に行きましょう先輩!」
「符術生成!
シャッ ギャアアアア!
二人は氷の板に乗り坂を勢い良く下っていく!
「私の体を這うな
「もういっちょ!煌牙竜殺爆炎掌!遠隔!」
ボ ガ ア ア ア ン !
ラーヴァは背後の空気を爆撃して推進力を得る!
サッ サッ サッ ビュン ビュン!
ラーヴァ達は働き蟻小鳥遊達の下をかいくぐり、毛の森林を越え、遂に終着点……女王蟻小鳥遊の腹と胸の間のくびれに到着した!目の前には
「「もう一発……!」」
二人は小型小鳥遊の一体に
「「氷炎大爆発!!」」
ボ グ ォ ォ ォ ォ ォ ン !!
「な……何で……あんなに弱かったのに……。」
(あれ……?小鳥遊さんの声が大きいな……。)
全体で見れば細いくびれといえど厚さ百メートルは下らない。一撃で全てを抉り去ることは出来なかった。しかしくびれに傷を付けられ腹は力なく海に浸かっていく!
「う……嘘……。絶対的に
「流石に爆破範囲の関係で楽勝とはいきませんけど、当たれば消し飛びますね!」
「……ああ。」
かさかさ……
後ろから働き蟻小鳥遊が近づいてきている。
「うげ……バレましたね先輩。でもあいつらがここに来るまでに」
「ラーヴァ君!一旦戻ろう!」 「へ?」
ダ ア ア ア ア ア ン !
小鳥遊の本体は海底を力強く叩きつける!その衝撃はラーヴァ達のいる空気にまで伝わってくる!働き蟻小鳥遊達が落ちていくが本体はまるで気にしない!
「戻るって小型の小鳥遊共が」 「少しでも戻って耳を塞ぐんだ!」
――蟻には脚に耳がついており、地面に伝わってくる振動を探知する事が出来る。女王蟻小鳥遊は痛覚も無く聴覚も使えないため背後から攻撃すれば彼女はそれに気付くことが出来ない。彼女がわざわざ自身の上に働き蟻を乗せているのはその対策だろう。
では蟻の発音器官は何処についているか。それはラーヴァ達の前に広がる大山脈……腹柄節である!フリジットは怒りに震える彼女が次何をするか!瞬時に察した!
「
……キーン……
「がっ」「ううっ」
「……っフー……っフー……。イラッときてついプレート割っちゃったわ〜……。そうだ。私が好きな物の話するわね。私自分が冷静になる方法知ってるから。」
「私、蟻って好きなのよね。だって、無駄がないでしょう?統治者も、労働者も、サボるのだって皆雌。社会を形成する上で
「奇襲しか能のない
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